サッカー界で、脳震盪をめぐる問題が再び大きな注目を集めている。32歳という若さで現役引退を発表した元ル・アーヴルのGKアルトゥール・ドゥスマスが、番組で自身の経験を赤裸々に告白した。

カタールでもプレーした経験を持っているドゥスマスは、キャリアを通じて複数回の脳震盪を経験。神経外科医からの勧告を受け、現役を引退する決断を下した。彼は『Canal+』の番組に出演し、自身が抱える深刻な後遺症や、引退を決意するきっかけとなった日常生活での出来事を明かしたという。

「頭痛や首の痛み、目の問題があります。短期的な記憶や集中力にも問題がありました。ある日、息子がボールを投げてきたんです。ただ、『これは無理だ。取れない。横にならなきゃ』と思いました。

そのとき、本当に問題があると気づきました。ラグビーやボクシングのようなコンタクトスポーツとは違い、サッカーでは脳震盪についてあまり語られません。もっと取り上げる必要があると思います」

元フランス代表DFラファエル・ヴァランも2024年、現役時代に頭部への強い衝撃によって何度も“ブラックアウト”を経験していたと告白している。現在コモの経営に関わるヴァランは、同クラブのアカデミーでU-12年代までのヘディングを禁止している。

また、フランスサッカー連盟(FFF)も10歳未満の選手に対し、練習や試合でのヘディングを禁止する措置を導入した。

若年層での対策が進みつつある一方、成人のプロサッカーでは抜本的なルール変更には至っていない。『So Foot』はその背景として、かねてから指摘されている元プロ選手の神経変性疾患リスクにも触れている。

2019年に『New England Journal of Medicine』で発表されたスコットランドの元プロサッカー選手を対象とする研究においては、神経変性疾患によって死亡するリスクが一般人口と比較して約3.5倍にのぼることが判明している。また、アルツハイマー病では約5倍、パーキンソン病では約2倍という結果も示されている。

元フランス代表FWノラン・ルーは2014年の試合中に頭部を強打した際、医師の確認を受けてわずか数分後にピッチへ戻ったものの、「主審に自分たちはどちら側へ攻めればいいのか尋ねた」という。さらに、その後ハーフタイムまでの記憶が完全に抜け落ちていたことも明かしている。

また、2014年ワールドカップ決勝ではドイツ代表MFクリストフ・クラマーが頭部を強打しながらプレーを続行し、のちに「試合の記憶がない」と語っていた。

現在もサッカー界では、頭部を強打した選手が短時間の診察だけでピッチへ戻るケースが散見される。『So Foot』は、IFAB(国際サッカー評議会)の競技規則やUEFAの運用において、ピッチ上で医療スタッフが選手を確認できる時間が極めて限られている点を問題視している。

ラグビーでは、選手がそれぞれ頭部へのショックを感知するためのシステムが搭載されたマウスピースを着用している。それによって脳震盪が疑われる選手を一時的に交代させ、より長い時間をかけて専門的に評価する仕組み(HIA)が導入されている。

一方、サッカーでは選手を長くピッチ外に留めれば、その間はチームが数的不利に陥ってしまう。そのため「十分な診察時間の確保」と「競技上の不利益の回避」をどう両立させるかが長年の課題となっている。

『So Foot』によれば、頭部への強い衝撃を理由に24歳で引退することになった元選手のアルトゥール・ポンテは以下のように提案しているとのこと。

「少しでも脳震盪の疑いがあれば、20分間は医師に診てもらうべきだと思います。その間だけ別の選手と一時的に交代できるようにすれば、チームが数的不利になることもありません」

コンタクトスポーツの一つでありながらも、頭部を守る防具もなく、一時的な交代も許されていないサッカー。プレー人口の多さ故に全世界でのルール統一が必要という足枷があるとはいえ、健康リスクを無視できない時代がやってきている。

筆者:石井彰(編集部)
画像提供:Getty Images

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