HOME > コラム > ドイツ代表が抱える悩ましき問題 ドイツ代表が抱える悩ましき問題 2012/05/27 23:36 Text by 記事一覧 2012年5月26日はドイツ代表を応援するものにとって忘れられない日となっただろう。コンディション調整の役目も担っていた親善試合とは言え、スイス代表にまさかの5失点で大敗。手元のデータが間違いでなければ、1試合でここまでのゴールを許して敗戦したのは、2004年4月28日に行われたルーマニアとの親善試合で5-1というよもやのスコアを喫したとき以来だ。 EURO2012の開幕まで2週間を切った今、果たしてドイツ代表に何が起こっているのだろうか? 現在のチーム状態については、こちらでまとめているので、今回はスイスとの親善試合で改めて露呈された問題点を中心に綴ってみたいと思う。 苦戦する新布陣の確立 近年のドイツ代表は様々な国際舞台で成功を収め、今やW杯やEUROにおいて優勝候補に推されるまでの名声を得たが、その成功の裏には機能性に富んだシステムである、4-2-3-1を確立させたことが大きい。無論、このシステムに効果性が与えられたのは、各ポジションに優れた能力を備えたプレーヤーが台頭したことに起因するが、この形を踏襲し続けたヨアヒム・レーフ監督の功績も大きいだろう。 彼が志向したのは常に攻撃的な姿勢を貫くサッカーだ。バックラインを高い位置でキープさせ、中盤から前線は激しいプレッシングを敢行。コンパクトなラインに保たれた囲い込みは相手チームに自由を与えず、そこからの鋭いショートカウンターは切れ味抜群。さらに、単に直線的に攻めるのではなく、ボールを大事に扱いながら隙を伺えるのもこのチームの強さの要因である。 しかし、レーフは4-2-3-1に拘るわけではなく、ここのところ新たな布陣の構築に注力している。それが、今回のスイス戦で見られた4-1-4-1であり、ウクライナ戦で試した3-4-2-1だ。 悩ましきマリオ・ゲッツェの起用法 ウクライナ戦で良くも悪くも驚きを与えた3-4-2-1についての話は避け、今回は4-1-4-1に絞って、新布陣を言及して見たいと思うが、はっきり言えることは、この形は現段階では使用する意味を持たないものに終わっている。 では、何故ここまで機能性が感じられない形をレーフは試そうと思ったのだろうか?おそらく、その最大の理由はマリオ・ゲッツェの存在にある。 現在のドイツ代表のトップ下には中央にメスト・エジルが君臨し、左にルーカス・ポドルスキ、右にトーマス・ミュラー、もしくはアンドレ・シュルレが起用されるのが基本陣形だが、その特徴は中央にパサー型のチャンスメイカー、左右にシャドウストライカーを置く点だ。 1トップを敷くチームが勝利を得るために必要不可欠なのは、言わずもがな中盤以下の得点力。最前線に配置されるフォワードにゴールを期待しないわけではないが、このポジションのプレーヤーはマーカーを引き付け、嫌らしい動きでDFラインを牽制する仕事のほうが多い。つまり、チームとしては、1トップが作り上げたスペースやギャップを突く形で、2列目がバイタルエリアやPA内に侵入。そして、そこからの崩しでゴールを狙う形を得点パターンとして計算するわけだ。特にこの戦法はドイツ代表で顕著に見られ、ストライカーであるポドルスキやミュラーなどが活きているのもそのためである。 しかし、となると、難しくなってくるのがマリオ・ゲッツェの起用法。サイドでの起用に応えられないプレーヤーではないが、本職はやはり中央のポジション。だが、ここには上記のようにエジルが存在する。 ゲッツェがプレーするドルトムントのように前後左右でのスムーズなポジションチェンジが起こればサイドでの起用も考えやすくなるのだが、代表チームではすぐにシステマチックな組織を作ることは難しい。そこで、レーフが考えたのが、エジルとの共存であり、二人を中央で同時起用する形だったわけだ。 当初、この起用法は夢のある話のように思えた。ドイツを代表する稀代の才能がピッチ上で共演するとなれば当然のことであり、きっと、監督のレーフもその成功を信じていただろう。 しかし、その期待が成就することはなかった。 その最大の理由は、この夢の布陣を構成すると、実は守備面で大きな課題を抱えてしまうためである。 破綻した守備組織 スイス戦でドイツ守備陣は完全に破綻した。その原因として、代表クラスのプレーヤーとは思えぬパフォーマンスを見せた病み上がりのペア・メルテザッカー、相も変わらず守備時に不安定なポジショニングを取っていたマーセル・シュメルツァー・・・と、DF陣を中心に個々の出来不出来を指摘することも可能だが、破綻した最大の原因は「欠落した中盤の組織力」にあったように思える。 何故なら、冒頭でドイツのストロングポイントとして、ハイラインでのプレッシングを挙げたが、この試合ではまったくもって機能しなかったからだ。 このチームは攻守におけるトランジションが素早く、ボールを奪われたらすぐにボールホルダーに対してチェックを行えるチームであるが、この試合ではその意識がいつもより希薄。ドイツ代表にしては珍しく、一旦引いて相手の攻撃を受けるという時間が非常に長かった。 そして、同様に気になったのがセントラルミッドフィルダーに対するアプローチ。フォーメーション的にエジルかゲッツェが彼らを見るケースが多かったのだが、ボールホルダーに対する距離感が曖昧で「近くにいるだけ」という状況が多発。簡単にボール回しを許してしまっていたエジルとゲッツェの守備ついては疑問を感じざるを得なかった。 レーフが取るべき道は? まず、EURO2012の開幕を前に31日にイスラエルとの親善試合が残されているが、レーフがここで「同時起用」を再び試す可能性は低いだろう。 今回のスイス戦は、チャンピオンズリーグ決勝を戦ったバイエルン勢がチームから外れていたこともあり、言うならば仮の仮のメンバーと布陣で戦った試合だ。となれば、監督としては本大会初戦を前にシュヴァインシュタイガー、クロース、ミュラーらを起用しようとするのが自然の流れ。以上のことからエジルとゲッツェが同時にピッチに立つケースは考えにくく、しばらくこの形は封印することになるのではないかと見ている。 では、「同時起用」は封印し続けるべきなのだろうか? その問いに対しては、個人的な見解では「YES」だ。システムやフォーメーションを改めたり、もしくは是が非でも得点を奪いたい時に使う手段として考えているのであれば、反対しないが、スイス戦で見せたような形を取ることはあってはいけないだろう。 少なくともレーフが今大会での成功を考えているのであれば、ゲッツェを「あくまでもジョーカー的な役割。コンディション不良や出場停止者が発生した際の代役」としてを扱うことが必須ではないだろうか。 そして、本大会を賑わす“サプライズプレーヤー”としてゲッツェが賞賛を浴びた時、ドイツは優勝に大きく近付くはずだ。 (筆:Qoly編集部 T) {module [170]} {module [171]} {module [186]} {module [172]} 【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名 ラッシュフォードの私服がやばい RELATED TAGS マリオ・ゲッツェ (123) メスト・エジル (407) EURO2012 (272) ドイツ (2102)
2012年5月26日はドイツ代表を応援するものにとって忘れられない日となっただろう。コンディション調整の役目も担っていた親善試合とは言え、スイス代表にまさかの5失点で大敗。手元のデータが間違いでなければ、1試合でここまでのゴールを許して敗戦したのは、2004年4月28日に行われたルーマニアとの親善試合で5-1というよもやのスコアを喫したとき以来だ。 EURO2012の開幕まで2週間を切った今、果たしてドイツ代表に何が起こっているのだろうか? 現在のチーム状態については、こちらでまとめているので、今回はスイスとの親善試合で改めて露呈された問題点を中心に綴ってみたいと思う。 苦戦する新布陣の確立 近年のドイツ代表は様々な国際舞台で成功を収め、今やW杯やEUROにおいて優勝候補に推されるまでの名声を得たが、その成功の裏には機能性に富んだシステムである、4-2-3-1を確立させたことが大きい。無論、このシステムに効果性が与えられたのは、各ポジションに優れた能力を備えたプレーヤーが台頭したことに起因するが、この形を踏襲し続けたヨアヒム・レーフ監督の功績も大きいだろう。 彼が志向したのは常に攻撃的な姿勢を貫くサッカーだ。バックラインを高い位置でキープさせ、中盤から前線は激しいプレッシングを敢行。コンパクトなラインに保たれた囲い込みは相手チームに自由を与えず、そこからの鋭いショートカウンターは切れ味抜群。さらに、単に直線的に攻めるのではなく、ボールを大事に扱いながら隙を伺えるのもこのチームの強さの要因である。 しかし、レーフは4-2-3-1に拘るわけではなく、ここのところ新たな布陣の構築に注力している。それが、今回のスイス戦で見られた4-1-4-1であり、ウクライナ戦で試した3-4-2-1だ。 悩ましきマリオ・ゲッツェの起用法 ウクライナ戦で良くも悪くも驚きを与えた3-4-2-1についての話は避け、今回は4-1-4-1に絞って、新布陣を言及して見たいと思うが、はっきり言えることは、この形は現段階では使用する意味を持たないものに終わっている。 では、何故ここまで機能性が感じられない形をレーフは試そうと思ったのだろうか?おそらく、その最大の理由はマリオ・ゲッツェの存在にある。 現在のドイツ代表のトップ下には中央にメスト・エジルが君臨し、左にルーカス・ポドルスキ、右にトーマス・ミュラー、もしくはアンドレ・シュルレが起用されるのが基本陣形だが、その特徴は中央にパサー型のチャンスメイカー、左右にシャドウストライカーを置く点だ。 1トップを敷くチームが勝利を得るために必要不可欠なのは、言わずもがな中盤以下の得点力。最前線に配置されるフォワードにゴールを期待しないわけではないが、このポジションのプレーヤーはマーカーを引き付け、嫌らしい動きでDFラインを牽制する仕事のほうが多い。つまり、チームとしては、1トップが作り上げたスペースやギャップを突く形で、2列目がバイタルエリアやPA内に侵入。そして、そこからの崩しでゴールを狙う形を得点パターンとして計算するわけだ。特にこの戦法はドイツ代表で顕著に見られ、ストライカーであるポドルスキやミュラーなどが活きているのもそのためである。 しかし、となると、難しくなってくるのがマリオ・ゲッツェの起用法。サイドでの起用に応えられないプレーヤーではないが、本職はやはり中央のポジション。だが、ここには上記のようにエジルが存在する。 ゲッツェがプレーするドルトムントのように前後左右でのスムーズなポジションチェンジが起こればサイドでの起用も考えやすくなるのだが、代表チームではすぐにシステマチックな組織を作ることは難しい。そこで、レーフが考えたのが、エジルとの共存であり、二人を中央で同時起用する形だったわけだ。 当初、この起用法は夢のある話のように思えた。ドイツを代表する稀代の才能がピッチ上で共演するとなれば当然のことであり、きっと、監督のレーフもその成功を信じていただろう。 しかし、その期待が成就することはなかった。 その最大の理由は、この夢の布陣を構成すると、実は守備面で大きな課題を抱えてしまうためである。 破綻した守備組織 スイス戦でドイツ守備陣は完全に破綻した。その原因として、代表クラスのプレーヤーとは思えぬパフォーマンスを見せた病み上がりのペア・メルテザッカー、相も変わらず守備時に不安定なポジショニングを取っていたマーセル・シュメルツァー・・・と、DF陣を中心に個々の出来不出来を指摘することも可能だが、破綻した最大の原因は「欠落した中盤の組織力」にあったように思える。 何故なら、冒頭でドイツのストロングポイントとして、ハイラインでのプレッシングを挙げたが、この試合ではまったくもって機能しなかったからだ。 このチームは攻守におけるトランジションが素早く、ボールを奪われたらすぐにボールホルダーに対してチェックを行えるチームであるが、この試合ではその意識がいつもより希薄。ドイツ代表にしては珍しく、一旦引いて相手の攻撃を受けるという時間が非常に長かった。 そして、同様に気になったのがセントラルミッドフィルダーに対するアプローチ。フォーメーション的にエジルかゲッツェが彼らを見るケースが多かったのだが、ボールホルダーに対する距離感が曖昧で「近くにいるだけ」という状況が多発。簡単にボール回しを許してしまっていたエジルとゲッツェの守備ついては疑問を感じざるを得なかった。 レーフが取るべき道は? まず、EURO2012の開幕を前に31日にイスラエルとの親善試合が残されているが、レーフがここで「同時起用」を再び試す可能性は低いだろう。 今回のスイス戦は、チャンピオンズリーグ決勝を戦ったバイエルン勢がチームから外れていたこともあり、言うならば仮の仮のメンバーと布陣で戦った試合だ。となれば、監督としては本大会初戦を前にシュヴァインシュタイガー、クロース、ミュラーらを起用しようとするのが自然の流れ。以上のことからエジルとゲッツェが同時にピッチに立つケースは考えにくく、しばらくこの形は封印することになるのではないかと見ている。 では、「同時起用」は封印し続けるべきなのだろうか? その問いに対しては、個人的な見解では「YES」だ。システムやフォーメーションを改めたり、もしくは是が非でも得点を奪いたい時に使う手段として考えているのであれば、反対しないが、スイス戦で見せたような形を取ることはあってはいけないだろう。 少なくともレーフが今大会での成功を考えているのであれば、ゲッツェを「あくまでもジョーカー的な役割。コンディション不良や出場停止者が発生した際の代役」としてを扱うことが必須ではないだろうか。 そして、本大会を賑わす“サプライズプレーヤー”としてゲッツェが賞賛を浴びた時、ドイツは優勝に大きく近付くはずだ。 (筆:Qoly編集部 T) {module [170]} {module [171]} {module [186]} {module [172]} 【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名 ラッシュフォードの私服がやばい