ゼーマニズムを攻略せよ。ナポリが見せた変幻自在の「3バック+1」
ズデネク・ゼーマンは破壊者だ。その圧倒的なまでの前輪駆動の攻撃サッカーで敵を叩き潰す。
イタリアサッカーの「守備を造る」歴史に対して、彼の哲学は「その圧倒的な物量と機動力で相手の守備を壊し、粉砕して、葬り去る」ということにある。そして、その破壊的なサッカーを志向する彼が今季から就任したのは古巣ローマだ。ただでさえ、生きる戦術兵器となりつつある怪物フランチェスコ・トッティを要するローマにおいて、彼の哲学は急速に浸透した。ミランに対して、その圧倒的な攻撃力で4点を奪い去った去年の最終戦。強豪相手に見せつけたその鋭い刃は、どんなものですら切り裂きかねない輝きと切れ味を誇っていた。
それに対して、2013年初めに立ちふさがったのは知将マッツァーリ率いる歴戦の雄ナポリ。その堅牢な守備力と、ウルグアイの怪物カバーニを要する前線の破壊力に定評があるチームである。そのナポリが見せたのは、「ゼーマニズム・ローマ」を研究しつくした完璧な策であった。
3トップに加え、両SBが非常に高い位置を取るローマのスタイルから予測するとフォーメーションはこのような形となる。フォーメーションだけ見れば、ナポリは守備時に全ての場所で1対1が出来ることになると思われた。
そして、ゼーマンはこのような絵を頭の中で描いていたはずだ。トッティ、ラメラの両WGが高い位置まで攻め上がることによって両WBを後ろに押し込み5バック状態に。更に両SBが攻め上がることで中盤のオレンジのエリアで数的有利を作り出し、中盤を制圧することで厚い攻撃を仕掛けていく。
このような状況が出来れば、中盤やSBを攻撃参加させることも簡単でローマ得意の波状攻撃で畳み掛けることも難しくはない。こうなってしまうとナポリの両WBは低い位置を取らざるを得なくなり、カウンターに関わることも難しくなる。しかし、マッツァーリは周到な策を用意していた。
本来はマッジョがつくはずの左WGトッティに対し、右CBのカンパニャーロがマンマーク。マッジョは左SBのバルザレッティを請け負うことになり、右WGのスニガは右WGラメラをマンマークする。また、それと同時に、CFのカバーニにピリスの裏を狙うような動きをさせることによってラメラのオーバーラップを抑制したのだ。つまり、左右が均等にはなりづらいローマの攻撃に上手く合わせて守備を組み替えたのである。
そして、結果的に、この守備システムは非常に機能的な動きを見せわけだが、まず、右サイドからローマが攻撃してきた場合について説明しよう。
ローマが右から攻めようとする時、どうしてもカバーニの牽制があるのでピリスは思い切ってオーバーラップすることが難しく、比較的スニガとラメラが1対1となる状況になる。
そして、本来3バックであるブリトス、ガンベリーニ、カンパニャーロは中央で3バックを形成。形としては4バックにも見えるが、より中央での堅さを重視した「3バック+1」と名付けるに相応しい“変則式3バック”を作ることで、中央に入ってくるFW2枚にしっかりと数的有利を作って対応する。更に、右サイドのマッジョは比較的高い位置を取ることが出来るのでカウンターを仕掛ける時にも非常に有効であった。
次に、今度はローマが左サイドから攻めようとする場合である。ローマの王様、フランチェスコ・トッティはWGとしてサイドいっぱいでプレーするだけでなく中央でトップ下的に振る舞ったり、バルザレッティのオーバーラップをさせるためにタメを作ったりと非常に自由なプレーが持ち味な選手である。だからこそ、トッティはゾーンで守る相手に対し、上手くゾーンの間をついてDFを崩すことが出来る。そこで、マッツァーリはカンパニャーロをマンマーク役として起用。更にマッジョをバルザレッティにつけることによってブラッドリー、トッティ、バルザレッティが絡むローマの攻撃における中核たる左サイドを抑えにかかったのである。左サイドで3対3を作るために、本来左サイドから攻撃されている時は、セオリーではある程度高い位置を取る左WGスニガをCBの一角として守備に参加させることによってスニガ、ブリトス、ガンベリーニで3バックを形成。ここでも同様に「3バック+1」が作り出された。
このように、ローマの攻撃に対して常に3バックを形成しつつ迎え撃ったナポリであったが、「3バック+1」はどのように効果的だったのだろう。まず、サイドで攻撃のキーマンであるトッティ、ラメラに対して「+1」となったカンパニャーロ、スニガの2人が後ろを気にすることなく集中し、かつ積極的にアタックすることが出来たというのが一つの要因。また、ポジションを中央寄りに変えて惑わしにかかってもマンツーマンなので混乱することなく対応できたということもあるだろう。この結果、ローマは、いつもであれば、左サイドで数的有利を作り出せるのが、この試合では数的同数でしっかりと対処されてしまったわけだ。
ただでさえ、「左は人数をかけ、右はシンプルに」という今のローマ攻撃陣が持つ特徴を、ピリスにカバーニを意識させることによってより顕著にさせたマッツァーリの手管は見事と言うほかない。ローマの攻撃は知らないうちに限定されてしまっていたのである。気が付いた時にはナポリの罠に嵌ったローマは的確な対処からのカウンターによってナポリに葬り去られてしまった。それでも、ここまで用意周到に挑まなければならないほどにローマの刃は鋭かった事も事実である。
絶対王者ユヴェントスを、「変幻自在の盾」を持つナポリと「切れ味抜群の名刀」を誇るローマがどうやって追っていくかを楽しみにしながら群雄割拠のセリエAを楽しみたい。
※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。
筆者名 | 結城 康平 |
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プロフィール | サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。 |
ツイッター | @yuukikouhei |
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