第一戦、勇猛果敢な赤い悪魔が夢の劇場に存在していた。

一人一人が無骨なまでに走りぬき、最終ラインは水際のところで身体を張った。特に背番号10を背負うルーニーの姿は印象的であった。

たしかに指揮官モイーズの戦術の手札の中にはこれしかなかったのかもしれない。ただでさえ今季のCLの優勝戦線で最右翼にいるバイエルン相手、それに加え国内リーグで中位に甘んじているチーム状況。言うなれば華麗ではない不細工な戦い方をしても非難を浴びる可能性は皆無であったわけだ。現にどれだけ自陣に引きこもらされバイエルンにパスを回させても、ファンはチャントを唄うこともやめなければ、決定的シーンを逃したウェルベックにも前線でよく戦っていたという評価を下し大声援でベンチに送った。結果として1対1のドローで終えたというこの結果は双方にとって悪いものではないように見える。実際にペップやラームは口をそろえて「アウェーゴールは大きい」と試合後にコメントしている。しかし同時にペップやロッベンは「あれほど守備的にこられると簡単ではない」とも発言している。これをよく考えてみてほしい。バイエルンはグループリーグで同じマンチェスターに本拠地を置くチームに完勝しているし、決勝トーナメントではアグレッシブで良い入りをしたアーセナルも結局は苦渋をなめさせられている。特筆すべきはこの2試合がどちらもバイエルンにとってアウェーだったことである。つまりバイエルンはアウェーでもプレミアのトップ4を粉砕する力があるということだ。ましてやその2チームより順位が下であるユナイテッドがホームとはいえ守備的にくることを予想していないわけがない。すなわち前述の発言は勝てなかったことに対する小さくない誤算があったのではないだろうか。セットプレーでの失点は事故のようなもので織り込み済みだったかもしれないが、今のユナイテッドに複数点挙げることが出来なかったのはペップのみならず海外サッカーファンにも驚きを与えただろう。

この日のバイエルンはファイナルサードでの精度に欠けており、支配率のわりに決定的チャンスは少なかったと言いざるを得ない。その場合でもバイエルンには高さという武器がある。膠着した時でもマンジュキッチの高さでの得点をきっかけに一気に試合が容易になったことは国内リーグではざらにある。例にもれずこの試合もそうだったわけだが、勝利という結果をミュンヘンに持ち帰ることはできなかった。要するにペップがマンチェスターに持ち込んだゲームプランは失敗だったわけだ。相手をリスペクトしすぎるあまりいつもの支配を展開することはできず、空虚なポゼッションで1得点しか奪うことができなかったのだから。

第二戦の前、会見でペップは「0対0を狙うべきではない」と話していた。それを示すように攻撃的な布陣を牽いてきた。ラームを右サイドバックに戻し、普段は攻撃的なポジションのクロースをアンカーに置き、前にミュラーとゲッツェを並べたのだ。しかし前半は思いのほかフィットしなかった。中央にタレントを揃えながら、どこかアウェーゴールを恐れていたバイエルンはサイドからのクロスを多用した。それに対しユナイテッドはしっかり弾き返すことで前半をほぼ理想的なスコアであるゴールレスで折り返すことができた。

後半は前半とは異なり生き物のように激しく動き出す。あれだけ攻め手のなかったユナイテッドがエブラのスーパーゴールで先制すれば、跳ね返し続けられたバイエルンのハイクロスもマンジュキッチによって実った。1対1によってオープンな展開になるのを好んだのはユナイテッドのはずである。もしここから1点でも奪えば、バイエルンは途端に2点が必要になるのだから。したがってユナイテッドはこの時間帯2戦で一番の攻勢をかけ始めた。しかしペップは浮足立つことなく次の一手を打った。稀代のタレントゲッツェを下げラフィーニャを入れたのだ。この守備的にも見える采配で逆転ゴールを呼び込んだのだった。ラームとクロースのダブルボランチにすることで失点のリスクを軽減し、中央に一定のスペースを創り出した。そこに神出鬼没のミュラーが入り込んできたというのは出来すぎた話だろうか。2対1になってもユナイテッドは1点を奪えば逆転なので前に出るが、そこをカウンターで突いたのがロッベンの追加点であった。これで勝負ありだった。

結果的に見れば大方の予想通り、バイエルンが勝ちぬけたが苦戦したともいえる。ペップは一戦目、二戦目ともに見事な采配で試合を動かしたが、それはすなわち試合前に用意していたプランが奏功しなかったことも示す。ペップは交代で流れを変えることのできる優秀な指揮官だが、これから使うことのできるオプション(選択肢)も披露してしまった。国内では無敗記録や連勝記録でもてはやされていたペップ・バイエルンも欧州に出れば策を出し尽くさなければ先には進めない。やはりCL連覇は簡単ではなさそうだ。


 

筆者名:平松 凌

プロフィール:トッテナム、アーセナル、ユヴェントス、バレンシア、名古屋グランパスなど、好みのチームは数あるが、愛するチームはバイエルン。
ツイッター:@bayernista25

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