昇格組ながら現在リーガ・エスパニョーラで6位に位置しているビジャレアル。若手主体のチームがここまで順調に一桁順位を維持しているのには様々な要因が考えられるが、昨季セグンダ・ディビシオンに降格したチームを途中から指揮しているマルセリーノ・ガルシア・トラルの手腕を差し置いて述べることは難しいだろう。

未だにビッグクラブとは縁のない指揮官であるが、中堅クラブを率いることに関して他の追随を許さない実績の持ち主。確かな戦術理論をもって現保有戦力で最大限の成果を出すこと長けており、今後目が離せない戦術家の一人といえる。

前回のコラムYellow Submarineの浮上で今季のビジャレアルの基本戦術などを書かせて貰った。それを念頭に入れて以下に目を通して戴きたい。

本稿では第32節、ビセンテ・カルデロンでのアトレティコ・マドリー戦と第33節、エル・マドリガルで行われたレバンテ戦についてビジャレアル目線で触れ、マルセリーノ監督の采配について記すとする。

【アトレティコ戦 確かな修正力】

アトレティコは守備ブロックを形成しても守備一辺倒ではなく、ボールホルダーに対し背を見せるような守り方をすることは採らず、常に『攻めの守り方』を貫いている。シメオネらしい闘うチームであり、そのプレーインテンシティも非常に高い。

今季のビジャレアルが実践しているフットボールはバルセロナやレアル・マドリーではなく、どちらかというとアトレティコに近いと言える。しかし、選手層やインテンシティの差、決定力の違い、プレッシングを仕掛ける位置の高低差といった差異はあるが、概ねイメージは似ているだろう。

前回11月11日に行われたエル・マドリガルでのアトレティコ戦は4-4-2を敷き、オープンな展開で1-1のドローに終わった。あれから月日は流れて、ビジャレアルの4-4-2によるプレッシングサッカーはより熟成され、今回の試合を迎えることとなった。

しかし、マルセリーノが採ったのは慣れ親しんだものではなく、直近の試合では見られなかった4-2-3-1のシステムであった。トップ下を設けて、そこにボランチ起用が多いが元々はトップ下の選手であるトリゲロスを置く布陣。

アトレティコはCLなどでもボール支配率が50%を割ることも珍しくないチームであるため、ボールコントロールの確かなトリゲロスをトップ下に置くことでより確実にボールを支配しようという狙いが見えるスタメン発表だったといえる。

システムを変えてもDFラインは高くコンパクトな陣形を保つが、前線からのプレスは控えめでワントップのペルベが殆ど深追いするシーンは無く、4-1-4-1のようなブロックで中盤を厚くしてボールホルダーに徐々にプレッシャーをかけてボールの取り所を選定。ある程度、アトレティコのビルドアップには自由を与えてバイタルエリアを閉じるのに神経を費やしていた。

なかなかビジャレアルが食い付いてこない、と踏んだアトレティコは高いDFラインの裏をシンプルに狙うようなロングボールを多用し、ビジャレアルはそれを跳ね返してボールを奪って小回りの利くジョアン・ロマンのサイドで起点を作ろうとするが、早々に潰される。またペルベが深みを作ろうと試みるが、ボールが収まりきらない苦しい展開が続く。思うような速い攻撃のリズムが作れず、その流れを引き摺ったまま14分にコーナーキックから失点。厳しくマークしていたが、ラウール・ガルシアに上手く頭で当てられた形に。今季リーガでの8点目を許し、厳しい立ち上がりとなる。

いつもならボランチのブルーノの浮いたポジショニングを利用して後方からのビルドアップを促すビジャレアルだが、そこにジエゴがマンマーク気味に付いており、思うように出来ない場面も。それでも時間が経つにつれ修正されていく。相方のピナが持ち前の運動量でブルーノの攻守の負担を軽くしてはあらゆる局面に顔を出してフリーとなり、CBのガブリエル・パウリスタやアレクサンダル・パンティッチと上手く連携してボールを前に運んだ。

しかし、アトレティコのハイテンションなペースにリズムが狂い、マルセリーノの思惑とは裏腹にシステムに綻びが生じる。ブルーノが封じられている中でトリゲロスによりゲームメイクして貰いたい状況にも関わらず、トリゲロスが降りてくるべきタイミングで降りてこないで1.5列目のアタッカーのようなポジショニングで高い位置に留まっていることが多く、中盤に人員を割いて中央のゾーンを使う4-2-3-1のシステムを活かしきれなかった印象が強い前半だった。

ハーフタイムに入ってからどうチームを動かすかは監督の腕の見せ所である。マルセリーノは冷静にピッチで行われている状況を精査し、ハーフタイムの間に手を打って修正を加えた。ダブルボランチのピナを一列上げるようなポジショニングを指示して、より中盤にメリハリ性とシンプルなボール回しを求めた。現に後半に入ってからはアトレティコの運動量が前半ほどではなくなったこともあり、ボールを効果的に保持できるようになる。システムを4-1-4-1に修正してからSBのマリオ・ガスパールが絡んだ攻撃を仕掛けられるようになった。ピナが周りのフォローに徹していた前半とは大きく異なり、ダイナミックなフリーランでボックス内に侵入。また、やや前線を下げて中盤の構成を密にしてカニとトリゲロスのポジションチェンジでコントロールを図り、スピードに乗った本来の姿を発揮するなど前半とは変わった展開になる。

カニの自由なポジショニングがアトレティコのゾーンを惑わし、少ないタッチでシンプルに味方を使い、徐々に相手DFラインを下げさせることで中央のゾーンを使って中盤でよりボールを保持する形が出来るようになった。そしてジョアン・ロマンと交代して入った突破力のあるアキーノのサイドに振る等で堅固を誇るアトレティコのブロックに小さな隙間を生じさせた。

今季は手数をかけないダイレクトプレーが増えたが、かつてはバルセロナと並ぶポゼッション・スタイルを志向していたビジャレアル。そのDNAは今尚健在であり、ポゼッションの本来の意味、つまり相手のスペースのケアが出来ていないといった状況を作り出すための手段であることを忠実に実践していたと言える。SBがバイタルエリアに侵入して、マークをずらしその直後に生まれたギャップを素早く突く、今季のビジャレアルのストロングポイントでもあるSBとのコンビネーションとそのスピードは流石のアトレティコの守備陣を脅かした。

しかし度々攻勢を仕掛けたものの最後の壁を破ることは適わず、スコアは動かないままホイッスルが無情にも鳴り響く結果となったが、まるでマドリード・ダービーのような熱狂的な雰囲気のカルデロンで堂々たる修正能力とプレーを見せ付けたと言っても過言ではない。エースのジエゴ・コスタやアルダ・トゥラン、ガビの不在ということもあったが、リーガで優勝争いの最前線に立つアトレティコ相手にがっぷり四つに組んで渡り合った事実は来季に繋がるポジティブなものと言えるだろう。

<その(2)へ続く>


筆者名:古家政夫

プロフィール:初めてフットボールに触れたのは98年仏W杯から。Jリーグ、プレミアリーグ、リーガ・エスパニョーラ、セリエA、エール・ディヴィジを観戦する日々を送る。各リーグに好きなクラブが存在する為、困ったことに『心のクラブ』が一つではない典型的なミーハーを自負する。
ツイッター:@505room

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