デイヴィッド・モイーズが去り、スーツを纏って本拠地に向かえられたのは生ける伝説ライアン・ギグス。選手としてベンチに入る可能性もゼロではなかったがいかんせん自身のコンディションよりもマネージメントにてんやわんやであった新任マネージャーは、スーツでオールド・トラフォードへ入り、ちょっとした期待をすかしてくれた。
キックオフ前に、ギグスがピッチ上へ現れるとやはりそこは彼の家。不思議な緊張感はなく、「さあ、我々の本来の姿を見せようじゃないか。」と言わんばかりの雰囲気がスタンドに漂っていた。スーツ姿のギグスとは別に、スコールズ、バット、留まったフィルがベンチにいる。足りないのはあと2人。
試合前のラインナップを見て皆さんはどう感じられただろう。もちろん特別驚くようなメンバーではないが、マタやビュトネルなどの名前は11人の中にはなかった。
どのような意図が込められた人選なのかはギグスと選手のみぞ知るところであるが、少なくとも「今期」からトップチームに加わった選手はスターティングラインナップには名を連ねていない。優勝した昨期に所属していた選手のみで構成された11人であった。憶測は憶測として、このタイミングでこの人選というのは色々な解釈を生むことは間違いない。ただしモイーズとの決別、というわけではなく単純に元に戻ろうとしただけ、と捉えたほうが自然に解釈できるだろう。それは試合の中にも随所に見ることができた。
【初心に帰る。】
モイーズは結局掴みきれないままユナイテッドを去ったわけだが、ライアン・ギグスにとっては掴むとか掴まないとかそういった次元の話ではない。彼自身が本体である以上、彼らしさが発揮できそうなことを行っていればまず間違いはない。
ファーガソンも晩年試みたが、パッシングとポゼッションに重きを置いたフットボールへの移行はあまり上手くはいかなかった。もちろん時代の流れを汲み取り落としこむことがダメなわけではないが、少なくともギグスとサー・アレックスの栄光の歴史は、そのように作り上げられてきたものではない。もちろん彼が主役ではなかったシーズンもあったし、彼自身左サイドを主戦場にすることは近年減っている。しかし現在のユナイテッドは彼が左サイドを切り裂き続けたことで獲得してきたトロフィーが多く存在している。
染み付いてしまったものはどうしようもない。無理に変えようとすれば拒否反応じみたものが現れてしまう。モイーズが苦しんだ原因の一つでもあるわけだが根本たるものはやはりどうしようもないのだ。ゴールへ向かう勢い、スピード感、そういったものを剥き出しにして襲いかかることでオールド・トラフォードのサポーター達は燃え上がり、声を大にして自身とクラブの喜びの為に叫び続けるのだ。