今年初め、指導者として42歳の若さで日本を飛び出し、未知の国ベトナムの強豪ハノイFCで指揮を執ることになった岩政大樹監督。

シーズン終盤の佳境に入る中、ハノイFCは5月~6月に見せた5連勝の快進撃もあり、中位から一気に3位まで浮上。今季残り1試合となった執筆時点で優勝の可能性は潰えてしまったが、シーズン3位以上が確定。カップ戦でもベスト4に残っており、引き続きタイトル獲得に期待がかかる。

初挑戦となる海外リーグで奮闘中の岩政監督に、ベトナムでの半年を振り返ってもらった。

「予想以上に早かった」スタイルの定着と選手たちの変化

――ハノイFC監督に就任して約6か月。ここまでの挑戦を振り返っていかがですか?

「よい経験ができています。細かく振り返ると色々なことがありましたが、いつかゆっくり振り返ったとき、この半年間があって良かったなと思える経験が既にできていますね」

――就任当初から、Vリーグで主流になっているロングボール主体のサッカーではなく、小柄なベトナム人の特徴を活かしたサッカーを目指すとおしゃっていました。理想の完成形を100とすると、今の完成度は?

「半年で到達できるものを想定するなら、かなり100に近づきました。もっと細かく詰めるとしたら、70~80といったところになりますが、半年で到達点できるところから考えると、想定の100を超えているかもしれません」

――選手たちの吸収が想像以上だったということでしょうか?

「正直、予備知識とはだいぶ違いました。連携や連動はあまり取れないと聞いていましたが、きちんと仕組みを提示して、その中でタスクを明確にすれば、選手たちはそれをピッチで表現することができました。結果的にそれが連携や連動に繋がるわけですが、そういう意味で言えば吸収は早かったし、このスタイルでやるんだという選手たちの強い意欲も相まって、予想以上に定着は早かったですね」

――岩政監督の就任した当時のハノイFCは、クラブ黄金時代を築いた主力数人が退団して過渡期にありました。そんな中、今季は積極的に若手を起用していた印象もありますが、若い選手たちの成長をどう見ていますか?

「就任当初は分からなかったのですが、ハノイだけでなく、リーグ全体も少し過渡期にあると気づきました。ハノイは数年前まで非常に力があったチームで、そこから他チームもどんどん力をつけてきて、パワーバランスが変わりつつある。

チームの特徴として感じたのは若手が多く、各ポジションに才能ある若手がいること。若手以外で言うと、フィジカルに優れた選手たちが移籍して、テクニックに優れた選手たちが残っている状況でした。今いる選手たちの特徴を生かすサッカーを考えましたし、僕自身も自分たちでボールを動かすサッカーをしたいという気持ちがありましたので、そこをうまく融合できればなと思いました。

若手たちは、伸びている者、そうではない者もいますが、起用してあげないと選手自身も気づきが得られないし、僕たちも評価できないので思い切って起用しました。ここまで第3GK以外は全員を試合で起用したはずです。それまではあまり選手間の競争心が見られなかったので、そこを刺激しつつ、全員を起用しながら結果も出して、うまく適応した選手を選ぶという形で進めてきました」

――ハノイは代表選手も多い中、代表ウィークで主力がごっそり抜けることもありました。この間のチーム練習の雰囲気や競争心をどのように刺激していったのでしょうか?

「そこはこの半年間で一番難しい部分でもありました。ハノイは6~7人が常に代表に招集される状況で、ベトナムの代表ウィークはかなり長い期間、選手が抜けてしまうので、全員が揃わない中で準備をしないといけませんでした。就任当初の練習でも代表メンバーが離脱していましたから、この時は、今いるメンバーに代表選手よりも先にチームコンセプトを植え付けるということからスタートしました。

ただ、ベトナムの選手たちを見てみると、もともと競争心が少し足りないようにも見受けられました。試合に出られないから落ち込むというより、自分の立ち位置はこんなものだと思い込んで、そのままの気分で練習に取り組んでしまう。そういう緩んだ空気を感じたら、君たちは何を生業にしているのか、プロとしてどんな姿勢で練習に取り組むべきなのか、そういう初歩的な話もしながら説いていくことを繰り返す中で、少しずつ意識が変わってきました」