近年、サッカー界では選手が前十字靭帯(ACL)を断裂をする重傷を負うケースが増えつつある。
そうしたなか、『AS』は、膝の治療と再建術の世界的権威のひとりだというアメリカのケヴィン・ストーン博士の話を伝えていた。
同氏は、サッカー経験者であり、自ら膝に重傷を負ったことをきっかけにその道のプロになることを志したそう。
そのストーン博士は、「プロサッカー選手が前十字靭帯断裂に悩むケースが増えていることは承知しているが、不可避と言わざるをえない」として、近年問題になっている試合数の増加だけが原因ではないと述べたという。
「増加の要因は数多くあるし、カレンダーもそのひとつかもしれない。だが、それは主な理由からは程遠い。
この分野を研究している我々は、長い間、その理由を探しており、したがって予防策も探している。しかし、サッカーの素晴らしさの鍵である性質そのものが、それを不可能にしている。
サッカー選手はより優秀で、より強くなっている。ディフェンダーのタックルの威力は倍増しているが、それだけではない。アタッカーはますます方向転換が速くなり、より才能豊かになっている。彼らは我々凡人ができる域を超えている。
(十字靭帯断裂とは)サッカー選手がドリブルで方向転換する速度が速いほど、大腿骨を脛骨に留めている靭帯がその力にさらされる度合いが増す。なので、我々医師は、選手が強くなり、速くなるにつれて、彼らの動きがいわば『不自然』になることを知っている。そして、それに慣れていない靭帯は損傷を受ける。多くの場合、断裂する。
(予防策は?)
一般的にはない。大腿部など周囲の筋肉がより強ければ、怪我は少なくなると言われている。しかし、これは明らかに数学的な理論ではない。ではなぜ、誰よりもそれらの筋肉が発達しているスキーヤーが、数え切れないほどの十字靭帯断裂に苦しみ続けるのか。
発生論上とも言える予防法があり、米国では女子大学生レベルで効果があった。
過去数年間、我々は女性アスリートたちに多くの時間を費やし、ジャンプから着地するときに片足をニュートラルな位置に揃えるように指導してきた。
その理由は、一般的に女性は腰が広いため、足を内側に向ける傾向があり、前十字靭帯がより大きなリスクにさらされるためだ。
そのため、女性アスリートは男性よりも前十字靭帯断裂の確率が高かった。しかし、適切な着地の仕方を教えると、少なくとも学校や大学レベルでは、前十字靭帯断裂率は男子と同程度になった」
また、博士は、アメリカンフットボールでは接触を制限するルール変更を行ったことで、靱帯断裂を負うケースが減少したとも説明。
そのうえで、サッカーのルールを変更することは「不可能だ。サッカーの素晴らしさは、足の間にボールを置いた時のスピードと工夫の力にある。以前、専門家たちもサーフェスの分析に多くの時間を費やしたことを覚えている。人工芝よりも天然芝のほうが関節にいいのか、それともその逆なのか。しかし、この点でも合意には至らなかった」との見解を示していたそう。