アマチュアレスリングの経験を土台に、プロ格闘家としてのキャリアを積み重ねてきた桜庭和志。2018年に立ち上げたグラップリング大会『QUINTET(以下、クインテット)』で世界進出を目論む、UFC殿堂入りのレジェンドは、56歳となった今もトレーニングを欠かさない。そんな彼の勝負哲学、そしてこれからの格闘技人生について聞いた。

一本勝ちこそが、格闘技の醍醐味

――桜庭さんは中央大学でレスリング部に所属し、UWFインターナショナルでプロデビューしました。PRIDE時代には国立競技場大会のメインを飾ったこともあります。アマチュア、プロとして戦った経験が活きていますか。

桜庭:僕はレスリング出身ですけど、正直、見ている分にはあまり楽しい競技ではない。やっている人にとっては本当に面白いんですけどね。レスリングに限らず、多くの格闘技がポイント重視になっていますが、本来の醍醐味は一本勝ちだと思っています。ポイント重視になったら、格闘技は面白くない。ボクシングだって、やっぱりKO勝ちを見たいじゃないですか。

画像: 写真提供=QUINTET

写真提供=QUINTET

――だから、クインテットに判定勝ちはなく、引き分けは両者退場になるんですね。

桜庭:たくさん手を出したから、攻めたから勝ちというわけではない。あくまで、一本勝ちを狙ってほしい。勝負の本質はそこだと思っています。クインテットは、一本取ることを目指しています。「相手の心を折ってやる」という選手じゃないと生き残れない。そういう選手じゃないと困る。ドバイ大会でも、うちのチームの中村大介はアームロックを取られながら「どうやって十字を取り返すか」を最後まで考えていたそうです。最後の最後までそういう気持ちで戦ってほしい。

――ピンチに追い込まれても諦めず、一本勝ちを狙う選手は人気が出ますよね。

桜庭:そういう選手が戦う大会は、絶対に面白くなると思います。

――桜庭さん自身、数多くの修羅場を経験してきたからこそ、その思いが強いんですね。

桜庭:もともとレスリングをしていた頃から、そういう考え方でした。ポイント制でテクニカルフォール勝ちもありますけど、僕はフォール勝ちだけを狙っていた。だから試合に勝てないこともありましたけど、そうしないと自分自身が面白くなかったんです。

――その考え方は10代の頃から?

桜庭:大学生になってからですね。駒沢体育館で行われる大会は、観客席の上のほうから試合を見ることができる。ポイントの取り合いだと試合はつまらないんです。バンバン投げ合ったり、タックルを狙って攻めたりするほうが面白い。20歳くらいの時のその経験が、今のベースになっています。

――その考え方の上に、プロ格闘家としてのキャリアが積み重なって、クインテットが生まれたということですね。

桜庭:ひとつの大会、ひとつの興行には流れがあります。シーンとする場面もあれば、盛り上がる場面もある。全部の試合が盛り上がることはありません。だからこそ、前の試合が盛り上がってない時ほど、僕は「おいしいな」と思っていました。昔から「桜庭の試合が一番面白かった」と言ってもらえる試合をするつもりでやっていました。

広がる柔術マーケット。クインテットの世界戦略と、その先へ

――桜庭さんはクインテットの創業者でありプロデューサーでもあります。2026年、どんなことを計画していますか

桜庭:クインテットの世界進出は、これからさらに加速すると思います。ドバイ大会は、観客の反応も大会関係者の評価も、ものすごくよかったですね。UAEでは軍隊や警察のベースが柔術で、国技のようなものですから。おそらく年に2回くらいほどは中東で開催することになると思いますが、それも世界戦略の一部。フランス・パリでの開催も予定しています。ラスベガスではこれまでに2回開催していますが、北米の柔術マーケットは本当に大きいんですよね。

――2017年にUFC殿堂入りした桜庭さんはこれまで、いろいろな国の格闘家と戦ってきました。その実績とネームバリューが世界で活きそうですね。

画像: UFC殿堂入り式典でトロフィーを手にする桜庭和志(2017年7月6日、ラスベガス)。(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)
UFC殿堂入り式典でトロフィーを手にする桜庭和志(2017年7月6日、ラスベガス)。(Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

桜庭:K-1ファイターとして活躍したジェロム・レ・バンナに柔術を教えたジル・アーセンという選手とPRIDEで戦ったことがあるんですけど、彼はフランス柔術連盟の会長をしているそうです。レ・バンナが彼の友達なので、柔術の大会を見て「こんなに人気があるのか」と驚いたそうです。「フランスでクインテットの権利を俺にくれ」と言っているらしい(笑)。柔術に関心を持つ格闘家は、世界中にいますし、これから増もえていくと思います。

――そうした格闘家との連携も、今後はありそうですね。

桜庭:柔術が根づいている場所、人気のある地域でやらないと。北米だけでなく、ヨーロッパもこれから盛り上がっていく気配があります。競技を知る人がいない国での開催は難しいので、人気や土壌を見極めながら、クインテットを広げていきたいですね。

――ライバルも増えてきそうです。

桜庭:UFCも柔術マーケットに切り込んできています。MMAは食われたけど、グラップリングだけは渡さないようにしないと(笑)。

――最後に、2026年には57歳になります。還暦が見えてきたいま、これからの格闘技人生をどう考えていますか。

桜庭:週に3回、「所プラス」(“闘うフリーター”所英男`s格闘技ジム)で練習していますが、まだまだ動けますよ。練習仲間に「俺、80歳になっても動けるかな? 無理だろ?」と聞いたら、「わかりません」と笑われました(笑)。さすがにそこまでは難しいかもしれないけど、体が続く限りはやります。やっぱり、練習が楽しいんですよ。

画像: ©️QUINTET  QUINET5 ーTEAM SAKURABA
©️QUINTET  QUINET5 ーTEAM SAKURABA

【プロフィール】

桜庭 和志(さくらば かずし)
1969年7月14日生まれ、秋田県出身。中央大学レスリング部で活躍後、1993年にUWFインターナショナルでプロデビュー。1998年にPRIDEへ参戦すると、グレイシー一族との名勝負をはじめ、ヴァンダレイ・シウバ、ミルコ・クロコップら世界のトップファイターと数々の激闘を繰り広げ、“IQレスラー”の異名を取った。
現役引退後も格闘技界の第一線で活動を続け、2017年には日本人として初めてUFC殿堂入り。2018年からはグラップリング大会『QUINTET』を立ち上げ、独自の団体戦ルールで世界展開を進めている。

取材・文/元永知宏 (スポーツライター)

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