技術が進化した時代に、K-1が抱える課題
――須藤さんが現役を引退して20年近くが経ちます。格闘技界の変化を感じますか。
須藤:立ち技も総合も、選手の技術レベルは上がっていると思います。昔はそれぞれの格闘技や流派の秘伝みたいなものがあり、部外者がそれを学ぶことは難しかった。でもインターネットが普及して以降、技術を身につける方法もトレーニングのやり方も進歩しましたよね。新しい技が出て、それを防ぐ方法が編み出されて……というふうに。研究が進んだことで“絶対王者”が生まれにくくなっています。
――誰もが強くなれる環境が生まれても、勝負となるとまた別ですよね。勝者と敗者が分かれてしまう。
須藤:さまざまな情報をうまく使えば強くなれる。でも、頭がよくないと勝てない時代なのかもしれません。みんな、理詰めで戦っていますね。分析能力や戦略が大事だと思います。
――初期のK-1にはいろいろな必殺技を持った選手がいて、観客を引きつける武器になっていました。
須藤:そうですね。たとえばアンディ・フグ選手と言えば“カカト落とし”が有名でした。フグ選手が全盛の時にはマネをする選手もいましたが、現在ではあまり有効ではないので、使用する人は少なくなりました。技術という部分では大きな違いがあります。
――技術レベルが高くなれば、観客に喜ばれるのでしょうか。
須藤:そこが格闘技の難しいところですね。技術の攻防を見たいという人もいれば、気持ちがぶつかり合う試合が好きだという人もいます。ひとつの大会で15試合ほど組まれているので、なかにはスパイスの効いたカードがあったほうがいいんじゃないかと思います。立ち技の中に総合格闘技ルールの試合があったり、空手の試合があったり。今後は、実験的な試みもしてみたいですね。
――それが、勝敗を決める競技として、また、観客を喜ばせるエンターテインメントとしてのK-1の課題でしょうか。
須藤:両方を楽しんでもらえるように。いい意味で、爪痕を残すことが大事です。

強さだけでは残れない――須藤元気流・自己プロデュース論
――須藤さんがファイターとして、見られることを強く意識するようになったのはいつ頃ですか。
須藤:20代前半ですね。とにかく目立ちたい、女の子にモテたいという気持ちが強かった。僕は中量級の選手だったんですけど、打撃の練習を3か月しかしてないのに、立ち技でヘビー級の選手と対戦したこともありました。
――須藤さんは勝利だけを求める選手ではなかった?
須藤:そうかもしれません。お客さんがなぜ格闘技を見に来てくれるかというと、非日常の空間を味わいたいから。臨場感を覚えて、興奮を味わって『明日も頑張ろう』と思えるところによさがあります。僕は、非日常の空間の中に、もうひとつの非日常空間をつくりたいと考えていました。だから、ファイトスタイルはトリッキーだったし、入場シーンにも力を入れました。そういうところでほかの選手と差別化を図りました。
――そうすることで魅力的なカードを組んでもらえるという目論見もあったんでしょうか。
須藤:実力があっても大舞台に立てないという選手もいますよね。付加価値はものすごく大事で、僕はたいして強くはなかったけど、のちのちまで語られるようなカードを組んでもらえたのはそのおかげだと思います。あの規模で入場パフォーマンスをした人は、あまりいないんじゃないですか。
――そういう経験がK-1プロデューサーとして役立ちそうですね。
須藤:試合で勝つ・負けるということはもちろん大切です。ただ、夢や希望を与えるポジションなので、勝敗以外のものも見たい。選手がヒーローじゃなくても、ダークヒーローでもいいんですけど。
僕はデビュー戦から、お金と時間をかけて入場パフォーマンスに力を入れてきました。はじめの頃はファイトマネーよりもコストがかかり、いつも赤字でした。でも、K-1のような大舞台に立てたのは、それをずっと継続してきたからだと思います。プロデューサーとしては、選手に「自分をどう見せているか」を考えてほしいですね。
――今のファイターは強いだけではいけない?
須藤:実は、昔もそうだったんですけどね。Krushを見た時に、「判定でもいいから勝ちたい」という選手が多いと感じました。勝ち負けの世界なんで、どんな内容でも勝ちたいというのは理解できる。ただ、K-1のステージで戦うのであれば、倒すか・倒されるかという試合を見せてほしい、強くて華がある選手であってほしいですね。
――「それがプロだ」ということですね。
須藤:はい。僕は高校生の時からプロの格闘家になりたかった。お金がなかったので、本屋でビジネス書を立ち読みしまくりました。自分の頭だけで考えるのは限界がありますから。今であれば、AIツールを活用したでしょうね。僕はけっこうアナログなんですけど、この流れから逃げちゃいけないと思うので、AIについても勉強しています。その成果をK-1プロデューサーとして見せたい。
――須藤さんの考えを浸透させるのには時間がかかりそうですか。
須藤:僕が何かをやるたびに「須藤はどこに向かっているの?」と言われてきました。新しいことを始めると、理解されるまで時間がかかります。それでも自分が信じたことをやり続けられるか。認められるまで続けることができた人が勝つんだと思っています。

【プロフィール】
須藤元気(すどう・げんき)
1978年3月8日生まれ、東京都出身。元総合格闘家、K-1プロデューサー。
K-1 MAX初期メンバーとして魔裟斗らと名勝負を繰り広げ、「変幻自在のトリックスター」の異名で高い人気を誇った。総合格闘技ではパンクラス、UFC、リングス、HERO’Sなど国内外の舞台で活躍。独創的なファイトスタイルと入場パフォーマンスで、勝敗を超えた強烈なインパクトを残した。28歳で現役を引退後は、レスリング指導者、ダンスパフォーマー、アーティストとしても活動。2019年には参議院議員に初当選し、政界でも注目を集めた。2025年9月、K-1プロデューサーに就任。「観客目線」を重視した興行づくりを掲げ、K-1の新たな可能性に挑んでいる。
須藤がプロデューサーを務めるK-1の最新大会『K-1 WORLD GP 2026~ -90kg世界最強決定トーナメント~』は2026年2月8日(日)に代々木競技場第二体育館で行われる。
【取材・文=元永知宏(もとなが・ともひろ)】
1968年生まれ。立教大学卒業後、ぴあ株式会社に入社。チケット情報誌『ぴあ』に配
属になり、プロレス、ボクシング、キックボクシング、空手、総合格闘技などを担当
。1990年、2000年代のビッグマッチのほとんどを取材している。2015年からスポー
ツライターに転身。近著に『長嶋茂雄が見たかった。』(集英社)。

