プロバスケットボール選手・桂葵のキャリアはユニークだ。大学時代にインカレ優勝でMVPに輝きながらも、卒業後は大手商社へ。しかし、3人制バスケ「3x3(スリーエックススリー)」で電撃復帰を果たすと、日本一を獲得。さらには起業して自らチームを結成し、国際ツアー大会に挑んだ。3x3女子日本代表、Wリーグでもプレーし、自ら大会を主催することも。現在はアゼルバイジャンを拠点に海外挑戦中。自ら選んだ道を正解にしていく、彼女の決断力と歩みに迫る。

商社勤務から4年、3x3との出会いでバスケ熱が再燃

1992年生まれの桂は、名門・桜花学園高から早稲田大学へ進学し、4年時にインカレ優勝とMVPを獲得。輝かしい実績を残しながらも、卒業後は三菱商事へ就職し、4年ほどバスケから離れた。

転機は2018年。ストリートボーラーたちの圧倒的な熱量に触れたことでバスケ熱が再燃し、競技復帰を決意する。彼女が選んだのは、5人制ではなく、新興の3人制バスケ「3x3」だった。

同年に新設されたプロリーグ「3x3.EXEPREMIER」のSHONAN SUNSの一員としてコートに立ち、初年度から国際大会を経験。のちにチームメイトとなり、現3x3女子日本代表ヘッドコーチを務める前田有香ともここで出会った。2020年にBEEFMANへ移籍すると、翌年には前田とともにプレーオフを制して日本一に輝き、自身もMVPを受賞し競技の顔となった。

2022年、桂は大きな決断を下す。三菱商事を退職し、会社「ZOOS(ズーズ)」を設立。自らチームをつくって世界最高峰の国際ツアー「FIBA 3x3ウィメンズシリーズ」へ参戦するという挑戦に打って出た。当時、男子には国内の大会を勝ち上がれば国際ツアー大会に出場できるという“ストリートから世界へ”という道筋があったが、女子は国別代表しかなかった。

画像1: © FIBA 3x3
© FIBA 3x3

ところが2022年、FIBA(国際バスケットボール連盟)がウィメンズシリーズに民間チームの出場枠を設け、門戸を開放した。桂は自らスポンサー営業に奔走し資金を確保すると、前田やドイツ人選手らと日独混成チーム「Düsseldorf ZOOS」を結成し世界へ挑戦。初年度にしてツアー上位8強による年間優勝決定戦で5位に食い込み、翌2023年のバクー大会(アゼルバイジャン)では見事初優勝を飾った。民間チームの快挙が世界を驚かせる中、「女性を取り巻くスポーツの環境をリデザイン」という企業コンセプトを自らの結果で証明した瞬間だった。

画像1: © FIBA3x3
© FIBA3x3

さらに桂の挑戦は続く。2024-25シーズンには、32歳でWリーグのトヨタ自動車アンテロープス加入。翌シーズンはトヨタ紡織サンシャインラビッツでプレーし、3x3から5人制のトップリーグに入るという、前例のない鮮やかなキャリアパスを世に印象づけた。

2025年から自ら大会を主催。今年は日本代表にも出場

そんなキャリアを歩む桂が、2025年から始動させた新たな取り組みにも注目したい。自身が主催する「QUEEN OF QUEENS 3x3」(以下Q.O.Q)の立ち上げだ。これはZOOSとして挑戦してきたウィメンズシリーズの予選会という位置づけである。男子の3x3が「ストリートから世界へ」と道が続いているように、女子でもその道筋を実現させるため、桂自らFIBAから大会の開催権を購入。スポンサーを集め、力を貸してくれる仲間たちとともにつくり上げた。

画像: Photo by Nowri
Photo by Nowri

昨年の第1回Q.O.Qには、3x3日本選手権のチャンピオンチームなど全6チームが出場。ドイツやカナダの代表選手を擁するチームも現れ、ハイレベルな激戦が繰り広げられた。観戦無料が一般的な3x3においてチケットの有料販売に踏み切ったが、会場は数多くのファンで埋まり、熱気に包まれた。まさに女子3x3の歴史において、「ストリートから世界へ」続く道を切り開く瞬間となった。

今年6月8日には第2回大会を開催。今回は3x3女子日本代表のU21およびU23が初出場するという、画期的な展開を迎えた。代表チームの派遣は日本バスケットボール協会(JBA)の取り組みであり、国内のローカル大会に出場したケースは近年例がない。これはQ.O.Qが「代表強化に資する大会」と認識された証である同時に、海外遠征の多い3x3代表選手たちが日本のファンの前でプレーできる貴重な機会となった。結果は若き代表チームがそろって決勝へ勝ち上がり、U23チームが見事優勝。今年8月末に群馬県高崎市で開催されるウィメンズシリーズの出場権を獲得した。

画像: ©吉川哲彦
©吉川哲彦

桂は今年も、Q.O.Qを通じて「世界に繋がっていようと、繋がっていまいと、この空間に価値を感じてもらえるような場づくり」を追求したという。運営を支える頼もしい仲間の力を借りながら「今年は今年で、去年よりはパワーアップできた」と手応えを語る。2年目で日本代表が出場する規模へと成長したことを思えば、前例のない中で第1回大会をやり遂げた彼女の決断の価値は大きい。桂の言葉には、初代出場プレーヤーへの感謝が深くにじんでいた。

「ここですごく熱の高い試合ができることを、去年の出場選手たちが証明してくれたからこそ、おそらく協会からの信頼につながって、出る価値がある大会だ、と思ってもらえたのだと思います。そこは去年、本当にやって良かったです」

今季より海外チームと契約。「ひりひりしたチャレンジに」

一方で、選手としての現在地に目を向けると、彼女はさらに新しい道を切り開いている。今シーズン所属する3x3のクラブチームの拠点は、なんとアゼルバイジャンにある。同国は近年3x3の強豪として地位を築いており、2024年パリ五輪に初出場、今年6月のFIBA 3x3 ワールドカップでもベスト4入りを果たした。桂はその代表選手が集う強豪クラブ「Neftchi SOCAR(ネフチェ・ソカル)」と契約し、ウィメンズシリーズを転戦している。国際レベルのクラブチームに日本人選手が所属するのは、男女を通じて恐らく初めての快挙だ。

当初、桂は日本代表としてウィメンズシリーズを転戦する予定だったが、ネフチェ側からオファーが届いたという。FIBA 3x3の規定では、他国のクラブで出場しても、獲得した個人ポイントは日本のポイントとして加算され、国別ランキングに反映される。2028年ロサンゼルス五輪を目指す日本にとって、アジア・パシフィック地域でランキング上位2チームに入れば予選なしで本大会の切符を得られるため、獲得ポイントの大きな強豪クラブで彼女が戦う意義は極めて大きい。本人、所属チーム、日本代表による協議の末にこの移籍は実現した。彼女はJBAを通じてこう決意を語っている。

「明確な目標はこの前田ジャパンでロサンゼルス2028オリンピックに出場することが、揺るがないゴールとして自分の中にあります。この2年間は、それを叶えるためにすべてを選んでいきたい気持ちです」

単身での海外挑戦は、選手として飛躍する大きな可能性を秘めている。5月からネフチェに加入した彼女は、6月のワールドカップ活動やQ.O.Qのために一時帰国。大会を終えて再合流する前、桂は「ネフチェでは自分の個の成長にすごくフォーカスできる。ここで私が成長して代表に帰っていきたい」と明かしていた。特に強化したいのは「コンディション」と「フィジカルの強さ」だ。

画像2: © FIBA3x3
© FIBA3x3

3x3日本代表としての6月のワールドカップは悔しい結果に終わったが、ネフチェでの成果は着実に現れている。フランスなどの強豪国に対しても「ディフェンスができるようになった」という実感を得ており、「個人でマイナスを減らすことができれば、戦える可能性が広がる」と手応えを語る。同時に、アゼルバイジャン代表が揃うチーム内で「私も絶対にディスアドバンテージ(足手まとい)になりたくない」という、良い意味での危機感も抱く。タフな環境に身を置き、自らの決断を正解にする夏を、彼女は今まさに過ごしている。

「本当にどれだけパスが回ってこなくても、心折れずに動き続けること、要求し続けることです。チームメイトはすごく良い人たちだけど、勝負の局面では本能的に『葵だ』とはたぶん思われていないし、それはしょうがないと思います。勝負の局面で、たまたま来たチャンスで自分が証明していくしかないから、ひとつずつ掴んでいきます。ひりひりしたチャレンジになると思います」

8月1日、2日には東京開催の国際大会へ凱旋予定

選択した道で奮闘し、思い描いた理想を現実にしてきた桂葵。「女性を取り巻くスポーツの環境をリデザインする」と掲げたZOOSの活動を起点に、プロ選手として、ときには大会主催者として、新たなキャリアパスや挑戦の価値を示し続けている。その歩みは、まるで冒険のように世界を広げていく。

自身の想いとZOOSのコンセプトが美しくシンクロしていく現状に、本人は「あまりにも筋書きがきれいになりすぎていて、ちょっと怖い部分はあります(苦笑)」としつつも、「間違いなくその考えは一貫していて、そこは本当に自分自身ブレていない。だからこそ繋がっていったと思う」と言葉に力を込める。人や縁に恵まれた境遇に感謝しながらも、選手として「実力をちゃんとつけていきたい」、世界の舞台で「ふさわしい人であれるか、自分に問い続けたい」と、冷静に見つめる一面もある。

ここから2年、3x3日本代表のロサンゼルス五輪出場というゴールを目指し、その過程でどんな桂葵が見られるのだろうか。Q.O.Qを終えてネフチェに再合流した彼女からは、ウィメンズシリーズ・オルレアン大会(フランス)で早くも優勝したというニュースが飛び込んできた。さらに8月1日、2日に開催される東京大会には、ネフチェの一員として出場予定だ。ひりひりしたチャレンジを続ける彼女が、夏の代々木第二体育館のコートに立つ姿を、今から楽しみにしたい。

画像2: © FIBA 3x3
© FIBA 3x3

文=大橋裕之

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