娘の応援に全力を注ぎすぎた父親の赤っ恥エピソード
これは、妻の友人Nから聞いたお父さんの話です。
妻の友人Nは、中学時代バレー部に所属していました。
Nのお父さんのバレー熱の高さは有名で、わが子の晴れ舞台となれば、気合いの入り方は尋常ではありませんでした。応援グッズを手作りし、大会当日は巨大なうちわとメガホンを抱えて意気揚々と会場入りしたのです。
周囲の保護者が「Nちゃんのパパ、めちゃくちゃ張り切ってますね(笑)」と苦笑いするほどの熱の入れようでした。
試合が始まると、お父さんのボルテージは一気に最高潮に達します。娘がサーブを打つたびに立ち上がって声援を送ります。その声量は、体育館中の保護者が一斉に振り返るほどでした。
「よっしゃー!ナイスー!」
娘のチームが得点しようものなら、お父さんは我を忘れて拳を突き上げ、雄叫びを上げたのです。
そして、問題の瞬間が訪れます。
娘がスパイクを決めた瞬間、お父さんは興奮のあまり思い切りジャンプしようとしました。ところが、体育館の暑さと興奮で火照った体は思うように動きません。足がもつれ、あろうことかパイプ椅子ごと後ろへ派手に転倒したのです。
「ガシャーン!」
すさまじい金属音が体育館に響き渡りました。
その音に、コート上で真剣勝負を繰り広げていた選手全員が、思わずプレーを止めて振り返ったのです。それは、試合を一時中断するほどの音だったといいます。
会場中の視線が、娘のスパイクではなく、椅子ごとひっくり返った父親に集中しました。娘は顔を真っ赤にして、半泣きで「いい加減にして⋯」とうつむいたそうです。
せっかくの好プレーも、その瞬間だけは完全に父親に主役の座を奪われてしまいました。慌てて立ち上がったお父さんは、痛む腰をさすりながらも、周囲に向かって親指を立ててみせたそうで、それがまた笑いを誘いました。
後日、この大会は娘の仲間内で「お父さんが転んだ大会」として語り継がれることになりました。娘のプレーよりも、父の派手な転倒のほうが強烈に記憶に刻まれてしまったのです。
応援に熱くなりすぎた父の、愛ゆえの空回り。それは、夏の思い出に残る微笑ましい珍事件となったのでした。
【体験者:30代・女性、回答時期:2022年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:タニグチ
小学1年から水泳、小学4年からは野球に打ち込み、大学卒業までの実に十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将としてチームをまとめ、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)で指導者としてもキャリアを重ね、「する側」「観る側」「教える側」のすべての視点からスポーツと向き合ってきた。
プレイヤー・キャプテン・指導者という異なる立場を経験する中で、勝ち負けの記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、感動や驚き、時にはちょっとした仕返し劇まで、スポーツの現場で生まれる人間ドラマをコラムとして執筆している。

