父が経験者というだけで向けられた「ズルい」という目
私の娘は、アイスホッケー経験者である父の影響を受け、幼い頃からリンクに親しんできました。
経験年数が浅いにもかかわらず、みるみる上達する娘に対して、周囲の保護者からは「父親が教えているからズルい」という陰口が上がるようになります。しかし娘の上達は、父から教わる時間以上に、毎日欠かさない自主練習の結果でした。
娘だけに敷かれた「見えないルール」
娘が6歳になってしばらくした頃のことです。
ある練習中、こぼれたパックを娘が拾おうとすると、コーチから「触るな」「持つな」と制止される場面がありました。その後も同様の場面が繰り返され、娘は溢れたパックをチョンと触る程度にしかプレーできなくなり、相手選手が向かってくると自らパックから離れる姿が目立つように……
他にも、呼び捨てを一律で認めていたはずのチームから、「くん付け」「ちゃん付け」と敬語の使用を強制する通達が届きます。その直後、保護者でもある監督の娘から「あれはあなたの娘に向けたルールだからね」と直接告げられました。他の選手がこのルールを破ることは指摘されず、娘だけが徹底して監視されるようになったのです。
こうした中でプレーが消極的になっていく娘の様子は、対戦相手の保護者の目にも留まり、「娘ちゃん、大丈夫?」と声をかけられることが増えていきました。
地区合同練習で、他チームの会長からかけられた言葉
こうした状況の中でも、娘は周囲への態度を変えることはありませんでした。練習のたびに誰よりも大きな声で挨拶をして、指導者への敬意を示す姿勢を崩さずに続けていました。
そんな中で迎えた地区合同練習の日、他チームの会長 -かつて監督として現場に立っていた人物-が娘と私を個人的に呼び止めたのです。
「最近アイスホッケーは楽しいかい?」と尋ねられた娘は、「嫌いじゃないです」と、はっきりと言葉を選びながら答えました。
会長は娘に向かって「君の努力をちゃんと見てる人は見てるからね」「どこに身を置くかはとても大切なことだからね」と声をかけると、私の方にも力強い眼差しを向けてくれました。
会長の言葉で外れた「見えない重圧」
さらに会長は、「いつでも環境を整えてあげられるよ」「僕のチームに呼び込む準備もしてあげるよ」と声をかけてくれました。
この言葉をきっかけに、娘の中で「今のチームでなければならない」という重圧が外れていったようでした。
そして、それまで多くを語らなかった娘が、はっきりと自分の思いを口にするようになっていったのです。
「私は仲間とアイスホッケーがしたい。アイスホッケーが出来ればいいんじゃなくて……でも今のチームじゃ、それができない。移籍してもいいから、仲間が欲しい」
「父親が経験者だからズルい」という陰口から始まった日々でしたが、正当に見てくれている人がいるという事実だけで、娘の視界には新しい景色が広がり始めていったのです。
今は自分の言葉で、自分の進む道を選び取っています。
【体験者:30代・女性 回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

