珍しく練習に顔を出した保護者に冷ややかな声。だが一同を黙らせた意外な事実とは──?
夏の練習に突然現れた、普段は来ない保護者
真夏の少年野球の練習中、一人の保護者がグラウンドへやって来た。
その保護者は、普段はほとんど練習へ顔を出さない人だった。
この日も練習が始まってしばらくしてから姿を見せ、大きなクーラーボックスを両肩に抱えて歩いてきた。
中にはアイスやスポーツドリンクがぎっしり詰まっている。
「みんなで食べてください」
そう言って子どもたちやコーチへ差し入れを渡すと、炎天下で練習していた子どもたちは大喜びだった。
しかし、その様子を見ていた一部の保護者は冷ややかだった。
「いつも来ないくせにね」
「子どもやコーチにいい顔したいだけでしょ」
そんな声が聞こえてきた。
正直、私も「もう少し協力してほしいな」と思っていた。
コーチが静かに話したこと
差し入れを配り終えた保護者は、少しだけ練習を見学すると「仕事に戻ります。いつもすみません」と頭を下げて帰っていった。
すると、その場にいたコーチが保護者たちに静かに話し始めた。
「実は今日の飲み物やアイスだけじゃないんです」
その保護者は仕事の都合で練習には来られない代わりに、古くなった道具を買い換えたりするための備品代を、何度も負担してくれていたという。
さらに試合の日に必要な氷や飲み物も、毎回仕事へ向かう前に監督やコーチに届けてから出勤していたそうだ。
それでも、自分からそのことを話すことは一度もなかった。
見えている姿だけがすべてではない
コーチの話を聞いた保護者たちは顔を見合わせ、さっきまでの会話はぴたりと止まった。
「知らんかった……」
誰かが小さくつぶやくと、その場には少し気まずい空気が流れた。
練習に毎回来られる人もいれば、仕事や家庭の事情で思うように参加できない人もいる。
それでも、それぞれができる形で子どもたちを支えている。
あの日、大きなクーラーボックスを抱えて現れた保護者の姿を見て、『見えていることだけで人を判断してはいけない』という当たり前のことを、改めて教えられたと語っていた。
【体験者:30代・女性主婦、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:maki
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた40代。現在はサッカースクールに通う子供の親として、スポーツと関わりを持つ。自身の経験談はもちろん、チームメイトや友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、スポーツの現場で起きた人間ドラマをコラムとして執筆している。

