次期部長はKで決まりだと、誰もが疑わなかった中学時代テニス部。大会当日、トイレの個室を叩き続けたKを待っていたのは、まさかの人物でした。

「次期部長はK」誰もが疑わなかった

これは、私の友人Kの話です。中学時代テニス部だったKには、二卵性双生児の弟がいました。同じ部、同じ学年。それでいて、周りの評価はきれいに分かれていました。

兄のKは、練習も勉強も手を抜かないタイプです。県大会の常連で、顧問への受け答えもはきはきしている。一方の弟は、おおらかで明るいムードメーカーでした。試合ではなかなか勝てないのに、なぜか部員全員に好かれている。そんな2人です。

中学2年の冬、次の部長を決める時期になると、部内の空気は「Kで決まりだろう」でまとまっていました。K自身もその気だったのでしょう。この頃から言葉づかいを改め、遅刻した後輩を厳しく注意するようにもなっていました。

個室の向こうから返ってきた、地獄の一言

事件が起きたのは、隣県で行われた地方大会の日です。ダブルスの出番が近いのに、ペアを組む弟の姿が見当たりません。荷物はコート脇に置いたまま。Kは「またあそこか」と見当をつけ、体育館裏のトイレへ走りました。

案の定、いちばん奥の個室だけが閉まっています。Kは笑いながら扉を叩きました。「おい、早く出ろよ」「試合始まるぞ」「腹壊すなら、昨日の唐揚げのせいだろ」扉が鳴るほど叩き続けたといいます。

中から返ってきたのは、弟の声ではありませんでした。

「……ワシや」

出てきたのは、部内で鬼と恐れられていた顧問です。Kの顔から血の気が引きました。Kはその日のうちにコート脇での正座を言い渡され、翌週から1週間の謹慎処分。部長の話は、それきり誰の口からも出てこなくなりました。

代わりに部長へ選ばれたのは、弟でした。試合の成績では、兄に遠く及びません。それでも部員の投票は、ほぼ満票だったといいます。

数年後、Kは堅実な会社員になりました。一方の弟は、アパレルで店長を任されています。当時の話を振ると、Kは決まってこう言います。

「あの失敗で部長になれなかったんじゃない。もともと、あいつのほうが人望があっただけ」笑い話にしながらも、弟のことを誇らしそうに語るKを見ていると、あのトイレの一件は兄にとって悪い出来事ではなかったのだと思えてきます。

【体験者:30代・男性、回答時期:2026年7月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:タニグチ
小学1年から水泳、小学4年からは野球に打ち込み、大学卒業までの実に十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将としてチームをまとめ、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)で指導者としてもキャリアを重ね、「する側」「観る側」「教える側」のすべての視点からスポーツと向き合ってきた。
プレイヤー・キャプテン・指導者という異なる立場を経験する中で、勝ち負けの記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、感動や驚き、時にはちょっとした仕返し劇まで、スポーツの現場で生まれる人間ドラマをコラムとして執筆している。

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