渾身の一振りが招いた、予想もしなかった結末
28歳くらいになると、「まだ若いから大丈夫」と思ってしまうことがある。体力にも自信があるし、多少無理をしても何とかなる。夫も、そんな一人だった。
当時、夫は職場の野球チームに所属し、休日には試合や練習を楽しんでいた。小学生の頃から野球を続けてきた経験があり、過去にはホームランを打ったこともある。仕事でも体を動かしているため、「自分はまだまだ動ける」という感覚があったのだろう。試合前の準備運動も、軽いストレッチとキャッチボール程度で済ませるのが当たり前になっていた。
その日も、試合は終盤。負けていたこともあり、チーム全体に「ここで流れを変えたい」という空気が漂っていた。
打席に立った夫は3ボールからの4球目、真ん中に入ってきたストレートを思い切り振り抜いた。
その瞬間、「ピキッ」という嫌な感覚が腰に走った。
少し違和感はあったものの、「大したことはないだろう」と、そのまま試合を続行。最後までプレーを終えたものの、時間が経つにつれて痛みはどんどん強くなっていった。
本当の地獄は、自宅に着いて車を降りた瞬間だった。
腰に激痛が走り、立ち上がることすらできない。壁に手をつきながら、数メートル先まで進むのに何分もかかる。あれだけ元気に野球をしていた人が、たった数時間で別人のようになってしまった。
「軽い痛み」のはずが、生活を一変させた
病院で告げられた診断は、ぎっくり腰。
正直、「ぎっくり腰ってそんなに大変なの?」と思っていた私の認識は、この日を境に変わった。
くしゃみをするたびに悲鳴を上げ、寝返りも打てない。トイレもお風呂も介助が必要で、小さな子どもたちは事情も分からず「抱っこ」「遊ぼう」と甘えてくる。結局、仕事も約1か月休むことになり、家族全員の生活が一変した。
もちろん、準備運動をしていれば、ぎっくり腰を防げたとは言い切れない。それでも、「まだ若いから大丈夫」という過信は禁物だと、この一件で身をもって思い知ったようだ。
そんな大騒動があったにもかかわらず、夫は数か月後には何事もなかったかのように野球へ復帰した。好きなことは簡単にはやめられないらしい。
ただ一つ変わったことがあるとすれば、試合前のストレッチを以前より少し丁寧にするようになったこと。あの日の激痛は、せめてその習慣だけでも夫に残してくれたのだと思っている。
【体験者:30代・男性、回答時期:2026年7月】
※本記事は、執筆ライターが体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
学生時代はソフトボールに打ち込み、現在も夫とスポーツ観戦を楽しむWebライター。周囲にはさまざまな競技に携わってきた友人や家族が多く、選手たちの努力や葛藤、チーム内で生まれる人間関係に強い関心を持っている。試合結果だけではなく、その裏側にあるエピソードや思わぬ出来事に目を向け、スポーツの現場で生まれる感動や驚きを、読者にわかりやすく届けるコラムを執筆している。

