練習終了前のシュート練習。最後の1本を決めれば終わるはずが──?
最後の1本が、なかなか決まらない
夏休みの体育館は、立っているだけで汗が流れるほど暑かった。
練習が終わる頃には全員ヘトヘト。
それでも最後は、ほぼ決まってシュート練習だった。
顧問が笛を吹いて言う。
「全員、最後の1本決めたら終わり!」
その言葉を聞くたび「やっと帰れる!」と少しだけ元気が出る。
1本決めるだけなら、すぐに終わる。
誰もがそう思っていた。
ところが、その日は違った。
1本目はリングの根元で跳ね返り、2本目はリングの手前で跳ね返る。3本目は短い。
疲れで足が動かず、集中力も切れていたのか、ボールはネットを揺らしてくれなかった。
体育館に流れる、なんとも言えない空気
先に終わって抜けた部員は、片付けをしながら「惜しい!」「ファイトー!」と活気ある声で盛り上げてくれていた。
しかし、10分、15分と時間が過ぎるにつれて口数が減っていく。
ボールを拾って並び、打って外し、また並ぶ。
リングに嫌われているのかと思うほど、入らない。
そしてなぜか、部員の半数以上が残っている。
顧問も最初は「集中!」「ラスト1本やぞ!」と声を張っていた。
でも、それもだんだん勢いがなくなっていく。
私たちも暑さでフラフラだったが、顧問も体育館の端で腕を組んだまま、大きなため息をついていた。
「今日は長いな……」
誰かが小さくつぶやいた言葉に、みんな苦笑い。
最後の1本が遠すぎて、終わりがまったく見えなかった。
根負けしたのは、私たちじゃなかった
さらに数本外したあと、静まり返った体育館に顧問の声が響いた。
「もうええ!」
みんなが一斉に顔を上げる。
「終わり! ストレッチ!」
その瞬間、みんな顔を見合わせた。
結局、部員の半数以上が最後の1本を決めていない。
1本決めたら終わりだったはずなのに、先に諦めたのは顧問だった。
帰り道、「結局1本も入ってへんやん」「先生のほうが限界やったな」と笑いながら歩いたあの夏の日。
大人になった今でも「あの日のリングは歪んでたよな」「まさか先生が諦めるとはな!」と思い出話に花を咲かしている。
【体験者:40代・女性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:maki
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた40代。現在はサッカースクールに通う子供の親として、スポーツと関わりを持つ。自身の経験談はもちろん、チームメイトや友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、スポーツの現場で起きた人間ドラマをコラムとして執筆している。

