「まったくの初心者です」と入部した1年生への違和感
私が主将を務めていた高校のハンドボール部は、強豪ではなく、人数にも余裕がありませんでした。春に入ってきたNくんは、自己紹介で「まったくの初心者です」と話していました。
ただ、基礎練習では時折、わざと不器用に振る舞っているように見える場面がありました。経験者ではないかと部員がざわつくこともありましたが、私はあえて確かめずにいたのです。
人数合わせで出した練習試合で、ベンチが騒然
夏合宿の練習試合の日、コートに立てる人数はぎりぎりでした。私は半ば強引に、Nくんを送り出しました。
ゴール前へ入るステップも、シュートのフォームも、明らかに経験者のものでした。相手校は対応できず、Nくんが連続で得点を重ねるうちに、ベンチは騒然となりました。
試合後に打ち明けられた「また期待されるのが怖かった」
試合後に問いただすと、Nくんは中学時代に強豪校でレギュラーだったと打ち明けました。期待に応えられず、膝を痛めて辞めていたのです。
泣きながら「また期待されるのが怖かった」と話すNくんを、私は責めませんでした。私が返したのは「うちは弱いから、期待より人数が必要」という一言でした。
合宿後、経験者として指導役を引き受けた1年生
隠す必要がなくなったNくんは、合宿後、基礎練習の指導役を引き受けました。1年生でありながら、上級生も含めた練習を支える立場に変わったのです。
秋の大会では、私たちのチームが初めて1回戦を突破しました。人数を埋めるためだけの起用が、チームの練習そのものを変えるきっかけでした。
まとめ
Nくんが動きを隠していた理由は、期待に応えられなかった過去にあります。責めずに受け止めたことで、Nくんは新しい役割を得て、チームは初勝利にたどり着きました。
期待が力になる人もいれば、重荷になる人もいます。かみ合わない仲間がいるとき、理由を決めつけずに待ってみることが、今日からできる一歩だと思います。
【体験者:20代・男性会社員、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:Yutel_06
幼少期からさまざまなスポーツに親しんできた、10代の現役学生ライター。合気道やテニス、アーチェリーなど、ジャンルの異なる競技と向き合ってきた。自身の経験に加え、周囲にもスポーツに取り組む友人や知人が多く、競技の裏側や選手ならではの悩み、恋愛、人間関係など、リアルなエピソードに触れる機会がある。そうした実体験や身近な声をコラムとして執筆している。

