三度の飯より自転車競技を愛する30代の会社員男性のエピソードです。夏のレースで肩甲骨を骨折する大ケガを負い手術をした直後にもかかわらず、次のレースにどうしても出場しようとする夫。そんな彼の暴走を止めるべく、妻と治療家が密かに遂行した極秘ミッションとその結末をご紹介します。

手術直後の懇願と妻からの切実な事前相談

夏のダウンヒルレースに出場した30代の会社員男性は、コース上で不運にも激しく転倒し肩甲骨が3つに割れるという大ケガを負ってしまいました。すぐに手術が行われ、骨をプレートで固定するという重傷でした。しかし、彼の自転車に対する尋常ではない情熱は冷めるどころか燃え上がる一方だったのです。なんと術後10日も経たないうちに私の治療院を訪れ、「来週のレースにどうしても出たいから、ガッチリと固定してほしい」と懇願してきました。

普通の感覚であれば安静第一ですが、彼にとってはレースに参加することこそが生きがいでした。しかし、実は彼が来院する前に奥様から私宛に一本の切実な相談の連絡が入っていたのです。「主人がそちらに行ったら、絶対に自転車に乗れないようにしてほしい」私は、大ケガをしてまで走ろうとする夫の暴走をなんとか食い止めたいという奥様からの強い思いと依頼をしっかりと受け取りました。

ハンドルに届かない絶妙な固定と極秘ミッションの結末

私は治療家として、そして奥様からの極秘ミッションを遂行する協力者として、彼の身体の安全を最優先にした特別な処置を施す決意を固めました。彼の肩をテーピングや包帯を駆使してガッチリと固定したのですが、そこにはある細工が施されていました。それは、絶妙に「自転車のハンドルには手が届かない角度」で関節を固めるという方法です。彼は患部の固定の頑丈さにすっかり満足した様子で、「これで安心してレースに出られる」と意気揚々と帰宅していきました。

そして数時間後、私の元に彼から連絡が入りました。「自転車に乗ろうとしたら、ハンドルに手が届かない。先生、してやられた!」と、悔しさと笑いが入り交じった声での報告でした。その直後、奥様とも連絡を取り合い裏で一緒にシメシメと笑い合ったのは言うまでもありません。大ケガをしてでも走りたいという凄まじい執念と、それを阻止する家族との愛情あふれる攻防戦は、思わず笑ってしまう夏の思い出です。

体験者:30代・男性、回答時期 2026年8月

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:おかもとたかひで
鍼灸師の国家資格を保有し、スポーツにおける故障の治療を中心に活動している。特に高校生の部活動でのケガからプレー復帰までの道のりや、ケガ予防を含めたコンディショニング指導に注力しており、過去にはオリンピック選手の治療に携わった経験も持つ。また、自身も千葉ロッテマリーンズの試合観戦に頻繁に足を運んでおり、球場での熱気や、ファンと選手の間で生まれるリアルなエピソードを交えたコラム執筆も行っている。

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