市民テニス大会の決勝で、自分たちの勝利につながる判定を訂正した職場の上司Kさんのエピソードです。

市民大会の決勝、あと1点で優勝

これは、職場の上司である50代の女性、Kさんから聞いた話です。

Kさんは地域の市民テニス大会に後輩と出場し、ダブルスの決勝まで勝ち進みました。互いに譲らない試合は最終セットのタイブレークへ入り、Kさん組が6対5とリードしたそうです。

あと1点を取れば優勝というマッチポイントを迎え、2人の緊張も高まります。長いラリーの末に相手が返した球は、白線の近くへ落ちました。

後輩がすぐに「アウト」と判定し、一度はKさんたちの勝利が決まったかに見えました。

勝利が決まった直後の「入っていました」

対戦相手が悔しそうにうつむき、周囲から拍手が起こりかけたとき、Kさんだけはその場を動きませんでした。

Kさんの目には、相手の球が白線の内側へ入ったように見えていたのです。

少しの沈黙のあと、Kさんは対戦相手へ向き直り、「今の球は入っていました。ポイントはそちらです」と伝えます。

自分たちのマッチポイントを、自分の言葉で取り消した瞬間でした。後輩は驚き、「あれは外でしょう」とKさんへ小声で伝えます。

Kさんは黙って後輩の肩をポンと叩きました。

「優勝しても思い出すから」と返した理由

Kさんも、勝ちたくなかったわけではありません。

決勝まで一緒に戦った後輩の思いを考えれば、判定をそのままにしたい気持ちもありました。それでもKさんは、「この1点だけは、優勝しても思い出すから」と答え、ポイントを相手へ戻します。

試合はそこから逆転され、準優勝に終わりました。

敗戦直後は後輩にも悔しさが残りましたが、Kさんが何を守ろうとしたのかを考え、最後にはその判断に納得してくれたそうです。

準優勝のあとに生まれた新しい信頼

試合後、対戦相手はKさんのもとへ来て、判定を訂正してくれたことへ感謝を伝えました。

勝敗だけで終わるはずだった決勝は、互いのプレーを尊重するきっかけとなり、後日には両クラブによる合同練習も開かれます。

Kさんと後輩は優勝を逃しましたが、正直に伝えた1点から、対戦相手との新しい信頼が生まれました。今もKさんは、ライン際の球を一方的に決めつけず、相手と確認しながら公平な判定を心がけているといいます。

【体験者:50代・女性会社員、回答時期:2026年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:タニグチ
小学1年から水泳、小学4年からは野球に打ち込み、大学卒業までの実に十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将としてチームをまとめ、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)で指導者としてもキャリアを重ね、「する側」「観る側」「教える側」のすべての視点からスポーツと向き合ってきた。
プレイヤー・キャプテン・指導者という異なる立場を経験する中で、勝ち負けの記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、感動や驚き、時にはちょっとした仕返し劇まで、スポーツの現場で生まれる人間ドラマをコラムとして執筆している。

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