理由を聞いても曖昧な返答しかしない娘
これは、娘のアイスホッケーの環境を整えるために北海道への移住を決断する直前の話です。当時所属していたチームで、娘の消極的なプレーは変わりませんでした。試合中も練習中も、周囲を気にするようにプレーを控える場面が目立ち、シュートを打つべき場面でも一歩、二歩と引いてしまうことが増えていました。理由を尋ねても、娘は「わからない」「別に」といった曖昧な返答を繰り返すばかりで、はっきりとした答えは返ってきません。
親から見るとチーム内での嫉妬や指導者の孫への優遇など、これまでの理不尽な経験も重なり、娘のモチベーションが上がりにくい状態であることは明らかでした。
しかし、「誰かのせいにしない」方針で教育していたこともあり、娘は「ホッケーをやりたいのに体が動かない」と答えるばかりでした。状況が変わらないことに、夫婦で今後について話し合う時間がこれまで以上に増えていきました。
「本気でできないなら辞めろ」競技を取り上げた夫
何度説明を求めても変わらない娘の様子に、夫はついに「本気でできないなら辞めろ」と告げ、アイスホッケーを辞めさせる決断をしました。娘は号泣し、必死に嫌がりましたが、夫はその意志を貫きました。隣で見ていた私も、かける言葉が見つかりませんでした。
それ以降、娘は練習道具に触れることもなく、家庭内でアイスホッケーの話題が出ることもない日々が2週間続きました。リビングから用具が消え、時間だけが過ぎていきます。
9時間没頭した先に見えた「ご褒美」の中身
そんなある週末、娘が「何かを頑張ったらご褒美がほしい」と自分から切り出しました。取り組んだのは、苦手な国語のドリルです。夜22時まで、実に9時間にわたって机に向かい続け、普段は後回しにしがちな科目にここまで集中する姿を、私は初めて目にしました。
頑張った先に娘が望んだご褒美は「スケートに行きたい」という、さらに意外な言葉でした。
3週間ぶりのリンクで漏らした一言
3週間ぶりに訪れたリンクで、娘は時間の許す限り生き生きと滑り続けました。
その日の夕食を食べているときでした。娘は私たち夫婦向かって、静かに、しかし力強くこう漏らしました。「アイスホッケーを取り上げないでほしい」これまで意志を曲げなかった夫の心を、この一言が動かしたのです。夫は娘に「その気持ちは本気だな?」「アイスホッケーを楽しむ覚悟はあるか?」と尋ね、娘は迷わず「ある」と答えました。
私たち夫婦は「今までのチームではまた同じ状況に戻ると思うから、このチームは離れよう」「その代わり、あなたが生き生きとプレーできるチームを探すから」と約束しました。そこから約1年をかけてたどり着いたのが、北海道の現在のチームです。かつて競技を取り上げた父が、今度は家族総出で「本気で戦える居場所」を探し出したのです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村岡栞里
子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

