練習後の体育館でフットサルをして遊んでいたところ、野球部の鬼顧問に見つかり原稿用紙5枚の反省文を課された高校球児のエピソード。3枚目の途中で限界を迎えた1年生のTさんは、未完成のまま提出。激怒する顧問に対し、「5枚も書けない。反省文を書かせるなら退部してバレー部に行く」と一歩も引かない覚悟で主張した結果、顧問が折れて3枚で許され、退部も回避。過酷な部活生活の中で唯一顧問に「勝った」青い思い出だ。

凍りついた体育館

部活動を終えた土曜の夕方。学校の体育館には、白球ではなくフットサルのボールを無心で追う高校球児たちの姿があった。厳しい練習の直後だというのに疲れなど微塵もなく、仲間とボールを蹴る時間がただ楽しかった。当時の彼らにとって、それは過酷な練習の合間に訪れた、無邪気なリフレッシュに過ぎなかった。

「お前ら、何やってんだ」

突然、鋭い声が響き渡り、体育館の空気が一瞬で凍りつく。そこに立っていたのは野球部の顧問だった。部活動の終了後に速やかに下校しなかったことが、部員たちから“鬼”と恐れられる指導者の怒りのスイッチを入れてしまったのだ。言い訳をすれば火に油であることは明白だった。彼らは黙って説教を受け、重いペナルティを課されることとなった。

どれだけ絞り出しても「3枚目」で止まったペン

与えられた課題は、原稿用紙5枚分の反省文。

全員が諦めて指示に従うなか、1年生のTさんだけは胸の奥で小さな反発心を燃やしていた。帰宅して渋々ペンを握るも、頭が真っ白のまま気づけば朝を迎えてしまう。その日も夕方まで練習をこなし、帰宅後は学校の宿題と反省文の作成に追われた。だが、どれだけ絞り出しても3枚目の途中で思考が完全に止まる。限界だった。Tさんは未完成のまま提出することを決めた。

「野球、辞めてやります」——土壇場の退部覚悟交渉

翌朝の職員室。予想通り、顧問からの猛烈な怒号が飛ぶ。

「なぜ3枚だ! 残りはどうした!」

理不尽なまでの提出量、そしてただ仲間とフットサルを楽しんだだけという思い。溜め込んだ不満が一気に弾けた。入部わずか数ヶ月の1年生でありながら、Tさんは鬼顧問の目をまっすぐ見つめて言い放った。

「5枚も書けませんでした。こんなことで反省文を書かされるくらいなら、野球なんて辞めてやります」

本気だった。引き止められないことくらい覚悟の上だ。 「そうか。辞めて何部に行くんだ」と冷たく返す顧問に、間髪入れずに言葉をかぶせる。 「バレー部です。短期間でしたがお世話になりました」

深く頭を下げ、その場を去ろうとした瞬間だった。Tさんの退部覚悟の勢いに圧されたのか、顧問が思わず声を漏らした。 「……おい、一旦冷静になって考えろ」

勝った──。心の中で小さくガッツポーズを作った。誰も逆らえなかった鬼顧問を、ついに引き下がらせた瞬間だった。

結局、反省文は3枚で許され、退部も白紙に戻った。過酷な3年間の高校野球生活で、彼が唯一顧問に「勝った」と胸を張る、今となれば笑ってしまうような、青い武勇伝だ。

【体験者:30代・男性、回答時期:2026年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:kana
学生時代はソフトボールに打ち込み、現在も夫とスポーツ観戦を楽しむWebライター。周囲にはさまざまな競技に携わってきた友人や家族が多く、選手たちの努力や葛藤、チーム内で生まれる人間関係に強い関心を持っている。試合結果だけではなく、その裏側にあるエピソードや思わぬ出来事に目を向け、スポーツの現場で生まれる感動や驚きを、読者にわかりやすく届けるコラムを執筆している。

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