これは私の友人から聞いたソフトテニス部監督が出した謎の指示にまつわるエピソード

動きすぎる前衛と粘る後衛

これは、私の友人から聞いた話です。高校3年の友人は、女子ソフトテニス部で前衛を務めていました。反応の速さには自信があり、相手が打つ前にコースを読んで動くのが持ち味です。

一方、後衛のペアは派手な強打より、深いボールを何本も返すタイプでした。

最後の地区大会を前に、2人は県大会常連の第1シードと同じ山に入ります。練習試合では、友人がポーチに出る方向を読まれ、空いた場所へ何度も抜かれていました。

監督が出した逆らいたい指示

大会1週間前、監督は友人へ「前衛は動くな」と告げました。

ネット前で動かなければ相手に圧力をかけられないと反論すると、「動くなではなく、先に動くな。相手が決めてから1歩だけ出ろ」と続けます。

それから友人は、相手の肩ではなくラケット面を見る練習を始めました。予測で大きく飛び出す癖を抑え、打球方向が決まる瞬間まで両足を細かく動かす。

待つ時間はほんの一瞬なのに、友人には何秒にも感じられたそうです。

格上ペアが迷い始めた1歩

大会当日、第1シードは練習試合と同じように友人の逆を狙いました。しかし友人は先に動きません。

相手のラケット面がクロスへ向いた瞬間だけ右へ1歩出て、最初のボレーを決めます。

次は同じ姿勢からストレートへ来た球を左へ1歩。大きく飛び出さないため、抜かれても後衛が拾える範囲が残りました。やがて相手は、前衛がどちらへ動くか確認してから打とうとしてタイミングを崩します。

長いラリーを後衛がつなぎ、最後だけ友人が触る形で、2人は最終ゲームへ持ち込みました。

勝負を変えたのは小さな待ち時間

マッチポイントでは、相手後衛のストレートを友人が1歩で止め、返球が相手コートへ落ちました。

格上ペアに勝った瞬間、後衛は「今日は追いかけなくて済んだ」と笑い、友人もネット前でしゃがみ込んだそうです。

2人は次戦で敗れましたが、初めて県大会への出場権を獲得しました。

友人は現在、仕事で意見が食い違った時も、相手が話し終える前に答えを決めないよう心がけています。素早く動くことと、焦って先回りすることは違う。

コート上のたった1歩が、その差を教えてくれました。

【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:タニグチ

小学1年から水泳、小学4年からは 野球に打ち込み、大学卒業までの実に十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将としてチームをまとめ、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)で指導者としてもキャリアを重ね、「する側」「観る側」「教える側」のすべての視点からスポーツと向き合ってきた。

プレイヤー・キャプテン・指導者という異なる立場を経験する中で、勝ち負けの記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたスポーツにまつわるリアルなエピソードを中心に取材し、感動や驚き、時にはちょっとした仕返し劇まで、スポーツの現場で生まれる人間ドラマをコラムとして執筆している。

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