これは、娘が小学3年生の時、以前のアイスホッケーチームを離れ、次のチームが決まるまでの間の話です。所属先を持たない娘が通っていた毎週土曜日の練習教室に、同じくチームに所属できずにいた小学6年生の少年がいました。全力で滑らない娘のプレーを見た少年が、私のところへ来てこぼします。その一言とは──。

所属先のない二人が出会った土曜日の練習教室

これは、娘が小学3年生の時、以前のアイスホッケーチームを離れ、次のチームが決まるまでの間の話です。

所属先がない娘が通っていたのが、毎週土曜日に開かれる練習教室でした。ホッケーの防具さえ着用すれば、初心者も経験者も、年齢も所属も関係なく参加できる場です。

そこには、家庭の事情で送迎が難しく、特定のチームに所属できずにいた小学6年生の少年も、毎週のように顔を出していました。同じように所属先を持たない二人は、自然と一緒に滑るようになっていきました。

スピードを抑えたままだった、ある夏の土曜日

ある夏の土曜日、教室でゲーム形式の練習が始まりました。

その日の娘は、全力で滑らず、スピードを抑えたままプレーを続けていました。パックを追う場面でも、本来出せるはずの速さを出しません。同じ教室にいた少年は、その様子を横目に見ていました。

翌日の自主練習で告げられた「なんで本気でやらないの?」

翌日の日曜日、娘は自主練習でリンクに来ていました。少年も同じリンクで滑っており、二人が一緒に練習していた合間に、彼はリンクサイドの私のところへ来てこうこぼしました。「なんで、娘ちゃんは本気でやらないの?あんなにうまいのに」
さらに、彼はこう続けました。「俺があれだけ上手かったら、誰よりもぶっちぎりでどんどん点決めて、ゴールパフォーマンスめっちゃしちゃうのに」

前日の教室での滑りを見た上での、率直な言葉でした。私は少年に、こう頼みました。「よかったら君のその言葉を、そのまんま娘に伝えてよ。きっと彼女の自信にもなると思うんだ」

少年は、その言葉をそのまま娘に伝えてくれました。娘は目を丸くし、それから照れくさそうに視線を落として、その一言を受け止めていました。

半周の差をつけられ大敗しても、大笑いする少年

それ以降、スケートで競争をする場面になると、少年は「本気でやってみてよ!」と娘に声をかけるようになりました。

娘が本気で滑ると、少年は半周ほどの差をつけられて敗北します。それでも彼は大笑いしながら「やっぱり娘ちゃんつえぇー!」と反応するのです。そのやり取りが繰り返されるうちに、娘は驚きながらもニコニコしながら全力で滑るようになりました。

教室でのプレー全体も、以降は生き生きとしたものへ変わっていきました。所属チームも指導者もいない時期に、娘の走り方を変えたのは、同じ立場の少年が投げかけた、清々しくも率直な言葉でした。

【体験者:30代・女性、回答時期:2026年8月】

※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。

Qolyコラムニスト:村岡栞里

子どものアイスホッケー環境を整えるため、九州から北海道への移住を果たした、並外れた行動力を持つ親目線ライター。5年を超えるキャリアを経て、新天地でさらなる高みを目指す娘の競技生活を「現在進行形」で全力サポートしている。これまでの道のりで、指導者や保護者間のリアルな人間模様、子どもたちが直面する葛藤を肌で感じてきた。今もまさにその渦中に身を置き、苦楽を共にしているからこそ紡げる「生きたエピソード」が最大の強み。現場のリアルな息遣いが伝わるコラムを執筆している。

This article is a sponsored article by
''.