真新しいランニングシューズでグラウンドに向かうと……
中学校でバレーボール部だった私は、高校から初心者で陸上競技部に入部した。自分の努力次第で結果が変わっていく個人競技のスポーツをやってみたかったからだ。
入部初日、3年生のY先輩が学校の外(ロードと呼んでいた)を走りに行くから一緒に走ってみようと言い、同学年の部員であるA君とともについて行った。
このときの私たちは、この後自分たちの身に降りかかる恐ろしい出来事を知る由もなかった。初めての練習で胸が高鳴り、希望いっぱい、笑顔いっぱいで走り出していたのである。
途中から記憶のないロード練習
私もA君も陸上競技の経験はゼロ。しかし、入部初日だというのにいつになってもY先輩は止まることなく、どんどん学校から遠ざかっていく。
「もう走れません、きついです」と言えるわけもなく、死に物狂いで先輩のあとを追った。自分が呼吸をしているかどうかすら分からないくらい必死に。
「あと少し」と前からY先輩の声が聞こえたが、このときどこを走っていたのか、自分がどんな姿になって走っていたのか記憶などない。人生でここまで必死に走ったのはおそらく初めてだっただろう。
最終的に一体どれだけ走ったのかというと、なんと15km。強豪校ならまだしも、なぜ入部初日から初心者をここまで走らせたのかわからなかった。
入部初日……あの日から先輩は分かっていた
その後の練習でもY先輩のメニューはきついものばかりだったが、誰よりも自分に厳しいY先輩を心から尊敬するようになった。そして初めての大会を迎える前日、緊張していた私にY先輩は言った。
「入部初日、あんなに走らせてごめん。弱音吐かずに一生懸命走れるかどうか見ていたんだ。あのとき最後までついてこれたでしょ? 根性あるなって思ったよ。だから明日のレースも大丈夫」と。
【根性】さえあれば
翌日、最も尊敬する先輩からもらった言葉を胸に、初めて陸上競技場に立ってレースに参加した。結果は散々でほろ苦いデビューになったが、あの時のY先輩の言葉を忘れずに最後の引退レースまで私は走り抜けた。
今でもY先輩の言葉を思い出します。それは懐かしくなるだけでなく、また頑張ろうと己を奮い立たせるきっかけになるのです。「根性あるな」は、私にとって一番の褒め言葉です。
【体験者:30代・女性、回答時期:26年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村木 あすみ
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた30代2児の母。また、公立中学校教員として勤務した経歴もあり、部活動にも携わってきた。自身のスポーツ経験や観戦、そして教育現場で見聞きしてきたリアルなエピソードをコラムとして執筆している。

