照明の下で遅れた一歩
これは、私の高校時代の友人から聞いた話です。友人は女子バレーボール部のリベロを任されていました。
ところが夏の大会が近づく頃から、体育館の照明にボールが重なると、落下地点へ入る一歩が遅れます。昼間の練習では問題なくても、夕方になると白いボールの輪郭がにじみ、2つに見える瞬間があったそうです。
友人は疲労のせいだと思い、誰にも言わず、練習後に一人でレシーブを続けていたそうです。
努力では埋まらなかった距離
練習量を増やしても落球は減らず、紅白戦では正面のサーブを腕の横へ落としました。友人が床をたたいて悔しがると、主将は「見えている場所と、ボールが落ちる場所は同じ?」と尋ねます。
友人が初めて「照明の下では2つに見える」と打ち明けると、主将は顧問と保健室の先生へ伝えました。「根性で拾う前に、目を診てもらおう」と言われ、友人は家族と眼科を受診します。
練習を休む後ろめたさより、原因が分からない怖さの方が大きくなっていました。
眼科で知った左右の差
眼科で検査を受けると、左右の見え方に差があり、片方の目には乱視もあると医師から説明されました。夕方や強い光の下で見えにくかった状況も伝え、競技中の対応を相談します。
友人は医師と家族、顧問の確認を取りながら矯正方法を選び、慣れるまでは短い練習から再開しました。復帰後の練習試合で、相手のサーブが照明と重なります。
以前なら止まっていた友人は迷わず左へ踏み出し、床すれすれでボールを上げました。主将の「見えてる!」という声が、コートの端まで響いたそうです。
拾えなかった理由を話せる今
友人は大会で先発に戻り、終盤には連続でサーブを拾って勝利につなげました。落球の理由は努力不足ではなく、見え方を確認する必要があるという体からの合図だったのです。
現在も社会人チームで競技を続け、定期的に目の状態を確認しています。後輩が単純なミスを繰り返した時も、すぐに練習不足と決めつけません。
「どんな時にやりにくい?」と場面から聞くようになりました。見えない悩みは、言葉にして初めてチームで拾えると知ったからです。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:タニグチ
小学1年から水泳、4年から野球に打ち込み、大学卒業まで十数年をグラウンドで過ごしてきた30代。高校では主将を務め、大学では神宮の舞台にも立った。引退後は中学硬式(シニア)の指導者も経験し、「する」「観る」「教える」すべての視点でスポーツと向き合ってきた。その中で、勝敗の記録には残らない人間関係や、試合の裏側で起こる思わぬドラマに強く惹かれるように。チームメイトや教え子、友人・知人から聞いたリアルなエピソードを中心に取材し、執筆している。

