歩道に面したテニスコート
僕が当時勤務していた中学校のテニスコートは、人通りのある歩道に面していた。そのため、歩道を歩きながらふとコートに目を向けていく通行人がいたり、下校中の小学生が立ち止まってこちらを見ていたりということが日常茶飯時だった。特に気にとめることもなく、それが当たり前の光景だった。
ただの通行人とは思えなかった、僕の“直感”
ある日、歩道から視線を感じた。男性が歩いているだけだったが、なぜかなんとなく気になった。さも“歩いているだけ“のように見せかけながらこちらを見ているようにも見えるし、本当に“ただの通行人”かもしれない。しかし、“ただの通行人”だとしたら、僕はこれまで何百人と見てきた。それとは何かが違うような、違和感を覚えていた。
しかし、数日経つと今度は部員から「またこの前の人がこっち見てましたよ」という報告が。どうやら部員たちもこの前僕が見かけた男性の動きがなんとなく気になっていたようだ。しかし、毎日来るわけでもなく、あからさまに不審な動きをしているわけでもないので、こちらが何か行動に出るということはなかった。
しかしその後も【謎の男性】は、不定期だがそれなりの頻度でコート横の歩道に現れたのであった。
トイレにあの【謎の男性】が──!?
それから2ヶ月後。大会に来ていた本校テニス部は、会場に到着して荷物を置き、各々の試合に向けてアップをしていた。
すると、ある部員が急いだ様子で私のもとにやってきた。アップ中の怪我や他校とのトラブルだけは勘弁してくれ……と願いながら話を聞こうとすると、その部員は「先生! 歩道から僕らを見ていたあの人が今トイレにいたんです!」と興奮しながら報告したのである。“あの人”とはつまり、例の【謎の男性】のことだ。
怪我やトラブルではなかったことに安堵するとともに、僕は【謎の男性】の行方を追いたくなった。急いでそのトイレに行ってみたが、もちろん【謎の男性】の姿はなかった。
さらに部員から有力な話を得た。それは【謎の男性】がテニスウェアを着ていたということだ。つまり、テニス関係者で間違いない。そしてついに、他校のテニス部員と話している【謎の男性】を発見した。彼はテニス部の外部コーチだったのである。
【謎の男性】の目的は?
僕は急いで会場に来ていた知り合いの顧問たちを捕まえ、「あの男性知っているか? よくうちの学校の周りにいたんだよ」と話した。すると、「直接は知らないけれど、色々な学校の情報収集に行っている外部コーチがいると風の噂で聞いたことがあるよ」と言うのだった。つまり、【謎の男性】は通行人を装った【偵察】だったのだろう。
人間はいつどこで見られているか分からないものだなと思いつつも、そこまでして地道に情報を集めようとする熱意に、ある意味感心してしまった僕であった。
【体験者:40代・男性、回答時期:2026年9月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:村木 あすみ
学生時代からスポーツ・部活動に打ち込んできた30代2児の母。また、公立中学校教員として勤務した経歴もあり、部活動にも携わってきた。自身のスポーツ経験や観戦、そして教育現場で見聞きしてきたリアルなエピソードをコラムとして執筆している。


