同点で迎えた最終回、二死満塁で打席に立ったAくん。緊張でバットを振れないまま、思わぬ形でサヨナラ勝ち──?
同点で迎えた最終回
息子が所属する少年野球チームの試合でのこと。
その日の試合は終盤まで一進一退の展開が続き、最終回を迎えた時点で同点だった。
この回で1点取ればサヨナラ勝ち。
先頭打者が出塁すると、続く打者も粘って塁に出る。
相手のミスも重なり、気づけば二死満塁になっていた。
ベンチからは「一本いけるぞ!」と声が飛び、応援している保護者も一気に緊張する。
そして打席に入ったのは、普段あまり打席で結果を残せていないAくんだった。
「お願いだから振って!」
一打サヨナラの場面に、Aくんは明らかに緊張していた。
バットを構えているものの、肩には力が入り、表情もカチカチだ。
初球はボール。2球目も見送る。
後ろで見ていた保護者からは、小さな声で「頼む、振ってくれ……」と漏れるほどだった。
しかしAくんはなかなか手を出せない。
そして次の投球。
ピッチャーが投げたボールは大きく外れ、キャッチャーのミットを弾いて後ろへ転がっていった。
打っていないのにサヨナラ
その瞬間、三塁ランナーがスタート。
キャッチャーが慌ててボールを追うが間に合わず、ランナーはそのままホームへ滑り込んだ。
「セーフ!」
サヨナラ勝ちが決まり、ベンチから選手たちが一斉に飛び出す。
なぜかその中心にいたのはAくんだった。
バットを持ったまま両手を上げ、まるで自分がサヨナラヒットを打ったかのような満面の笑み。
仲間たちもAくんのところへ駆け寄り、大騒ぎになった。
「お前、何もしてへんやん!」
試合後も興奮が冷めないAくんは、「俺の打席で勝った!」と得意げだった。
するとチームメイトがすかさず一言。
「いや、お前何もしてへんやん!」
周囲は大爆笑。
確かにAくんはヒットどころか、最後まで一度もバットを振っていない。
それでも、あの場面で打席に立っていたのは間違いなくAくんだった。
少年野球では、狙っても起こせないような結末が突然やってくることがある。
ヒットを打たなくても主役になれる、少年野球らしい珍しいサヨナラ劇だった。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


