6年生のエースとも呼び捨てで呼び合う仲
これは、私の娘が小学3年生の時の話です。娘は小学1年生の時に、九州のアイスホッケーチームに入団しました。
挨拶や氷上での声かけ、練習後のストレッチ中の談笑など、娘は自分から積極的に話しかけていきました。
中でも仲が良かったのが、当時6年生のエースです。普段は優しい一方で、氷上では激しいプレーを見せ、細い体を生かしたハンドリングなどの技で魅せる選手でした。
練習終わりにゲームの話をしたり、互いに描いた絵を見せ合ったりするうちに、2人は呼び捨てで呼び合う仲になっていました。
厳重注意のあと、口数が減った娘
3年生のある日、娘は監督から厳重注意を受けます。
「関係性ができていないのに、なれなれしい態度を取るな」
その日から娘は、上級生を「さん」付けで呼ぶようになりました。6年生のエースに話しかけられても、返すのは「はい」の一言です。
3年生にとっては敬語そのものが難しいのか、娘は全体的にあまり喋らなくなっていきました。注意を受ける前は自分から話しかけていた相手にも、娘から声をかけることはほとんどなくなりました。
着替え中に近づいてきた6年生のエース
ある日の練習終わり、着替えをしていた娘のところへ、6年生のエースがわざわざ近づいてきました。私は娘の隣で、その様子を見ていました。
エースは心配そうな面持ちのまま、娘にこう言います。「逆に気持ち悪いからするな」
続けて、こう付け加えました。
「監督やコーチの前では敬語を使っているように見せて、いない時は今まで通りでいいぞ」
娘は「え?」と戸惑い、いいのかな、と問うように私の顔を見上げました。それから向き直って、「ありがとう!」と返しました。
監督の前と、いない場所での娘
それ以降、娘は場面によって切り替えるようになります。
監督たちの前では、あまり喋らずに少し離れた場所にいます。大きな声で呼ぶ時は「さん」付けで、返事は「はい」です。
一方、監督がいないところでは、以前のように自分からエースのもとへ駆け寄っていきます。
「みて! 今度はこの絵描いたよ! そっちなんか最近かいた?」
娘のその声に、エースも以前と変わらない調子で応えていました。監督の注意で変わったのは、監督の前での呼び方と、2人の距離だけです。
練習終わりのゲームの話や、描いた絵を見せ合う時間を重ねて、選手同士で築いてきた関係は、監督の一方的な指示ひとつではブレませんでした。
【体験者:30代・女性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。


