とにかくボールを拾い続ける40代
セキュリティー分野のエンジニアとして働くAさんは、空手やサーフィンも楽しむスポーツ好き。細身ながら体力は抜群で、テニスでは特にシングルスを得意としていた。
Aさんの持ち味は、抜群のフットワークを生かした粘り強いプレーだ。相手がどれほど強烈なショットを打ってきても、簡単には諦めずにボールを追いかける。派手な攻撃よりも、とにかく拾って粘ることで相手を苦しめるタイプだった。
準決勝の相手は現役テニスコーチ
ある市民テニス大会で、Aさんは順調に勝ち上がり、準決勝へ進出した。対戦相手は同年代のテニスコーチ。技術面では相手に分があるように思われたが、Aさんも簡単には引き下がらなかった。
相手の強烈なショットを拾い続け、何度もデュースになる接戦が続いた。ポイントを取られても粘り強く食らいつくAさんに、次第にコーチも疲れを見せ始める。応援していた妻や娘たち、筆者も、その熱戦を見守っていた。
勝っているのに暗い顔で戻ってきた
ところが、この試合では不思議なことが起きていた。実はAさん、試合の途中からゲームカウントを勘違いし、自分が負けていると思い込んでいたのだ。そのため、リードを守るプレッシャーを感じることもなく、ただ目の前の一本に集中していた。
そして迎えた試合終了。疲れ切った相手のコーチが「参った」という表情で握手を求めてきたが、Aさんは自分が負けたと思ったまま、暗い顔で家族のもとへ戻ってきた。
周囲は当然、本人も勝利を理解しているものと思っていたという。
勝利を知ったのは帰宅してから
結局、Aさんが本当に勝利を知ったのは、なんと帰宅してからだった。
妻から「来週の決勝、仕事は大丈夫?」と聞かれ、初めて自分が勝っていたことを理解したのだ。準決勝でテニスコーチを撃破していたにもかかわらず、本人だけが敗戦したと思い込んでいたという、何とも珍しい出来事だった。
ちなみに翌週の決勝では、今度は自分が決勝を戦っているとしっかり理解していたAさん。しかし、そのせいで緊張したのか、残念ながら敗れてしまったという。勝敗を気にせず無心でプレーしていた時にはコーチに勝ち、勝利を意識した途端に敗れてしまう。テニスでは技術や体力だけでなく、精神状態も大きく影響するのかもしれないと感じさせられる大会だった。
【体験者:40代・男性、回答時期:2026年10月】
※本記事は、執筆ライターが取材又は体験した実話です。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
Qolyコラムニスト:おかもとたかひで

