いつも米倉が姫野に言っていたこと

2失点を奪われ、悪い雰囲気のまま迎えたハーフタイムでも選手交代を行わなかった。小林監督は前半を戦った選手たちのパフォーマンスが悪くなかったとした上で、「勝手に自分の中でいけると思っていました」と、後半15分に姫野を投入するまで交代カードを切らなかった。

「後半の失点できびしい状況になり、何か状況を一変させたいというところでチョイスしたのが、あの交代でした。彼がアカデミーの選手ということは、ジェフのサポーターがみんな理解していて、スタジアムの空気を変えたいというのも強かった。

マコ(姫野)に関しては、トレーニングからクオリティの高さは見せていました。彼はアンダー世代のワールドカップという一つの目標があって、それが終わったところからまたチームに合流しました。今週は目の色が変わっていて、明らかに『自分がメンバーに入るんだ』という気持ちが伝わるような姿勢がトレーニングからありました」

画像: 試合後の小林監督(写真:縄手猟)

試合後の小林監督(写真:縄手猟)

指揮官の思惑通り、生え抜きの投入でスタジアムの雰囲気が一変した。

今季J2を3位でフィニッシュした千葉は、J1昇格POのレギュレーションによって引き分けでも決勝戦に進出できる状況だった。しかしそれ以上に、1万7074人が詰めかけたホーム・フクアリで戦えるメリットの方が大きかった。

「交代がどうこうではありませんし、ドローでも勝ち上がれるというのはアドバンテージにはならない。きょうは間違いなくスタジアムの雰囲気で勝たせてもらいましたし、このアドバンテージが3位のメリット。きょうはそれを享受したと思います」(小林監督)

まさに勝つべくして勝った試合だった。

千葉の選手たちは日ごろから口をそろえて、『このチームは練習から誰もさぼらない』と言う。今年の夏ごろからトップチームのトレーニングに参加していた姫野も、基準の高さを感じていた。

「(トレーニングから)すごくいい雰囲気だなと思いましたし、勝つチームの雰囲気が出ていた。プレーの質はもちろんですけど、練習に臨む姿勢や、いろいろな声かけとか、すべて合わさった雰囲気が勝つチームのものでした」

集大成となる3年目を迎えた小林ジェフの積み上げてきたものが大舞台でも表現され、逆転勝利につながった。

画像: J1昇格PO準決勝の試合前コレオ(写真:縄手猟)

J1昇格PO準決勝の試合前コレオ(写真:縄手猟)

この日の逆転勝利が奇跡や、偶然ではないと選手たちも感じていた。だからこそ、4-3でJ1昇格PO決勝への進出を決めた後も、選手たちは浮かれていなかった。

姫野の同点弾をアシストしたチーム最年長の米倉も「正直、これはフクアリの奇跡ではないです」と強調した。

「これくらいのものを小林監督の下でやってきた。だから勝つのが必然というか、俺らはこれくらいの勝ちに値するだけのことはやってきたんだと思う。きょうみたいな勝ち方だと、やっぱり奇跡みたいな感じにはなりますけど、それは日々の積み重ねがあったから。スタッフを含めて、この試合に向けてどれだけ準備をしてくれたか、すべての積み重ねが必然として結果に出た」

2014年ぶりとなるJ1昇格PO決勝に進んだ千葉。決勝戦では、今月13日午後1時5分からホームで徳島ヴォルティスと激突する。

画像: 米倉(写真:縄手猟)

米倉(写真:縄手猟)

最多6度となるJ1昇格POを経て、ついにここまで来た。

勝てば17季ぶりのJ1復帰が決まる状況だが、「喜び過ぎずに、また粛々と準備をしましょうと伝えました」(小林監督)と、イレブンはまたいつも通りの準備を進める。

試合終了から約1時間後にやっと報道陣から解放され、チームメイトたちの待つバスに向かった姫野。

そんな同選手を横目に米倉は、「あいつはね、これからもジェフを引っ張っていってくれると思うし、引っ張っていかなきゃいけないと思う。それだけの器がある選手。ここでああいう選手が出てきたことは、チームにとってもすごく大きいことなので。次もまたラッキーボーイとして活躍してくれるといいなと思います」と期待を寄せた。

チーム最年長から最年少へのパスで生まれた劇的な同点弾。二人の連係は、ともにトレーニングする中で深めた関係値があったからこそ生まれた必然のプレーだったのかもしれない。

画像: サポーターに感謝を告げる姫野(写真:縄手猟)

サポーターに感謝を告げる姫野(写真:縄手猟)

米倉からの賛辞と期待を伝えられた姫野は、「いつもそうやって言ってくれるんですよ!」と笑みを浮かべながら、バスに乗り込んだ。

(取材・文:浅野凜太郎、写真:縄手猟)

This article is a sponsored article by
''.