「スポーツ指導者」と聞くと、多くの人はアスリートの「セカンドキャリア」として連想する方が多いのではないか。多くの場合はそうではあるが、“例外”も少なからず存在する。大阪大学サッカー部で監督をつとめる木室孝輔氏もまたそのひとり。それでいて特筆すべきは、“例外”が複数あるということだ。現在28歳の木室氏は、現役どころか実はサッカー経験自体ない。それでありながら、19歳からマネージメントの道に入り、10年近く経った現在は、関西2部に所属するチームを預かるまでにいたった。さらに不動産会社の営業マンという顔を持っている。これまでの彼の経歴はどのようなものだったのか、話を聞いた。

高学歴集団あるある

大阪大学といえば、いわゆる「旧帝大」の一角に数えられる。部活動においても体育会系というより、色々とロジカルに判断しがちなのではないだろうか。

「そこは就任して2週間で結果を出したのも大きかったですね。彼ら自身が渇望していたものと合致していたことも大きかったと思います。『守って守ってカウンター』だけでは、リーグ戦は生き残れないということを痛感していたみたいなので」

この日の練習でもそうだが、木室さんはボールを大事にする戦術を志向している。たとえ格上でも勇気を持ってボールプレーを重視する。そのおかげで就任一年目は残留を成し遂げ、自身も続投となった。

一方で難しさもあるという。先述した通り、大阪大学は名門だ。しかしそれは学歴としての話で、スポーツ文脈でいうと推薦枠も存在せず、現所属部員の中には世代別代表経験はもちろん、Jクラブ下部組織所属有無に関しても、ジュニアユース出身が一名いるのみ。

「入りたい子がいたとしても、『受験頑張れよ!』としか言えないですよね」

卒業後の進路も就職…それも名だたる企業が基本線。学生生活の貴重な一部で、恐らく最後となるであろうサッカーに勤しむ者も多い。そんな高学歴集団特有の傾向もあるという。

「良くも悪くも素直ですね。賢いからなのか、“跳ねっ返り”がなくって。例えばミーティングをする時に、ちょっと強めの口調で煽るような言い方をすることもあるんですけど、それに反発するでなく素直に受け止める子が多いんですよ。試合中もどうしようもない失点やミスを引きずりがちですね」

良い方向に転ぶこともある。

「ミーティングの時間を長くやった場合でも、それを耐えられる集中力がありますね。そこはずっと勉強をやってきた頭の良さですよね。タスクを与えると、愚直に実行してくれます。“バッド”にさえなければやりきれる粘り強さがありますね。紙一重の部分です」

大学サッカー全体でも、国公立大学が上位カテゴリーに所属するのはほんのわずか。その中で、日本で7校しか存在しない「旧帝大」の一角に数えられる大阪大学が、関西2部で奮闘していることは賞賛を受けてもいいのではないだろうか。

学歴といえば、地頭の良さがいわゆる「サッカー脳」にも反映されるか否かも気になるところだが…

「それはないです。全然関係ないですね(笑)」

画像2: 筆者撮影

筆者撮影

二足の草鞋に至る切実な懐事情

木室さんを語る上で欠かせないポイントは、サッカー指導者の他に不動産会社の営業マンでもあるということだ。一橋大学監督時代に、社長と知り合ったことがきっかけで二足の草鞋を履くこととなった。この草鞋だが、相互補完が出来ているという。

「サッカー界って人の動きが年中あるんで、ある日突然引っ越しなんてザラなんです。その時に、『ここどう?』って引っ越しの提案が出来るのは強みですね。自分自身が当事者なんで解像度が高いのも強みです」

独自のポジションを築きつつある木室さんだが、それに至ったのは切実な懐事情もある。

これまで東京外国語大学、一橋大学、大阪大学と、名だたる大学を渡り歩いているが、あくまでスポーツ指導者として雇用され、いずれも職員でない。このことは、給与面にも影響を与えている。木室さんの名誉のため、具体的な数値は記さないが、東京外国語大学・一橋大学時代は、昨今政界を騒がせている「108万の壁」と大差ない。

画像3: 筆者撮影

筆者撮影

営業マン以前はアルバイトを兼務したという木室さん。“現職”では改善されたとはいえ、それでも大卒初任給よりも下回っている。

「サッカー界はお金ないですからね。それに下積みは必要なものと考えていますよ」

そう割り切る木室さんだが、同時に自身の境遇は再現性のあるものではないとも認めている。薄給だが、自身以外にも少なくない影響を与えているという。

「一橋大学では、僕の前任は学生がヘッドコーチだったんですが、前々任である戸田和幸さんのもとで薫陶を受けていた子だったんです。人としても優れていましたが、卒業後は大企業に就職していきました」

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