「ゴルフ」と聞いて、何を思い浮かべるだろうか。休日の娯楽、経営者同士の付き合い、“おじさん”のスポーツ…。実際、世代や国籍を越えて人と人をつなぐ「共通言語」である。18ホールをともに回り、食事をし、長い時間を共有する。プレー中には人間性も垣間見ることができる。だからこそ、社交やビジネスの場として機能してきた。
そんなゴルフに宿泊、移動、観光体験などを掛け合わせ、海外からの観光客をゴルフ場へ呼び込もうとしているのが、株式会社ゴルフツーリズムジャパンだ。完全紹介制シグネチャーサービス、地方創生共創プログラム、オンライン旅行提案プラットフォームなど、従来とは異なるアプローチで、ゴルフ場を「観光資源」へ変えようとしている。
言うなれば「ゴルフ×旅×地域共創」。実は世界でも有数のゴルフ場王国でもある日本各地に存在する“点”を、世界へ届けていく新しいスポーツビジネスの概要について、同社代表を務める小嶋崇文氏に話を聞いた。
世界共通の「コミュニケーションツール」
大学では比較文化を学び、在学中にスイスのホテルマネジメントスクールへ留学した小嶋氏。そこでホテルやレストラン、ツーリズムを含むホスピタリティマネジメントを学んだ。
卒業後は商社で輸出入業務を経験し、その後は米国系企業へ転職。カントリーマネージャーとして、日本法人の立ち上げから撤退までを担った。これまでのキャリアを通じて一貫してきたのは、日本と世界の「架け橋」になることだった。
「日本の文化は独特です。単に英語へ通訳するだけではなく、背景まで含めて、相手に分かりやすい形で伝えなければならない。そういった『役割』を担うことが得意だと考えています」

ゴルフツーリズムジャパン代表・小嶋崇文氏
ビジネスとしてゴルフと関わるようになったのが、コロナ禍にはじめた会員制インドアゴルフ場事業だった。そこで改めて気づいたのが、競技だけでは計れないゴルフの力だ。
「ゴルフは生涯スポーツであると同時に、コミュニケーションツールです。ゴルフの話なら、国籍が違ってもずっと話していられる。ユニバーサルランゲージであり、ユニバーサルツールなんです」
一方で、インドアゴルフ場はいわゆる『ハコモノ』であり、拡張には限界があった。そこでゴルフという軸を残しながら、新たに「旅」を掛け合わせたのがゴルフツーリズムジャパンだ。ゴルフをするために人が移動すれば、ゴルフ場だけでなく、ホテル、飲食店、交通事業者、観光施設などにも消費が広がる。地域全体をひとつの商品として設計できると考えた。
「世界に目を向けると、ゴルフは重要な『社交』の場であり、ラウンドを通じて様々な『ビジネス』が生まれています。この価値を事業化しようと、最初はインドアゴルフからスタートしました。しかし、『ハコモノ』である以上、スケールには限界があったんです。そこで次の展開を模索する中で行き着いたのが『ゴルフ×旅』でした。ゴルフという軸をぶらさずに旅という要素を組み合わせることで、事業の可能性が一気に広がると考えたのが背景にあります」
50年、100年続く事業に
会社を立ち上げたのは2024年1月。先述の米国系企業の日本法人撤退を機に、自身のキャリアを棚卸しすることにした。1985年生まれの自身が40歳を迎えようとするタイミングで、後世に残る事業をつくりたいという想いを抱いた。
「5年、10年でなくなる事業より、50年、100年と続いていく事業をつくりたいと思いました。情報収集する中で浮かんだのが、ゴルフと旅です。当時、日本人向けのゴルフ旅行はあっても、海外の方が日本でゴルフ旅行をしたいとなったら選択肢が少なかった。これは自分がやるべき事業かもしれないと思ったんです」
現在の事業の主軸は、ゴルフを切り口にした宿泊、移動、観光、文化体験などを組み合わせた旅行商品の企画・提供である。ただモデルプランをそのまま売るだけではなく、来日前に要望を聞く。例えばラウンド数を減らして体験を増やす、何もしない時間を設ける、滞在日数自体を伸ばす、といったオーダーメイドにも対応している。
対象は主に海外の富裕層だ。単に高級ホテルへ泊まり、名門コースを回るだけではなく、日本の歴史、文化、食、自然とゴルフを一本のストーリーへと落とし込む。山梨県の寺院と組んだプランでは、ゴルフと和紙漉き、抹茶、ご開帳などの体験を組み合わせる。ゴルフを軸にしながら、日本でしか味わえない時間を提供している。
「日常からの離脱」に徹底的にこだわったシグネチャーブランド「Hanaré」
同社が2026年7月に発表したシグネチャーブランドが、「Hanaré(離れ)」である。一般的な予約サイトでは取り扱えない会員制ゴルフ場を含め、上質な宿泊施設や移動、食、文化体験を組み合わせた完全紹介制サービスだ。

一例として紹介しているのは、静岡県三島市にある「グランフィールズカントリークラブ」でラウンドし、旅を設計するプログラム。同ゴルフ場は、厳格な入会審査でも知られる国内有数の名門クラブだ。宿泊先には都内にある五つ星ホテル「The Okura Tokyo」を組み込んだ。他にも東京銀座にあるミシュラン3つ星店「すきやばし次郎」や、日本三大料亭の一角に数えられる「新橋金田中」での食体験と、徹底的に「日常からの離脱」にこだわっている。
こうした商品が成立する背景には、ゴルフ場やホテルの経営者と独自に築いてきた関係がある。
「会員制のゴルフ場にも、日本のゴルフ文化を世界へ発信したいという考えをお伝えしています。『ゴルフツーリズムジャパンさんが送客するのであれば受け入れます』と共感してくださる方々がいる。少し独自のルートですね」
誰でも予約できる商品を大量に並べるのではなく、まずは限られた人だけが体験できる旅から始め、顧客像とサービスを磨く。その後、段階的に裾野を広げる考えだ。
ゴルフ場を通じて地域の“眠れる価値”を照らす「Amatellus」
もっとも、同社だけで全国の魅力を発掘することはできない。そもそも日本は、アメリカに次いでゴルフ場を有する、世界でも有数のゴルフ大国だ。そしてゴルフ場は日本各地に存在し、各地域には、外から見ただけでは分からない宿、食、工芸、文化体験などの“場”が存在する。その価値を知り、適切な人へつなげられる存在として設けられたのが、地方創生共創プログラム「Amatellus(アマテラス)」だ。

Amatellusでは、「コネクター」と呼ばれる地域のゴルフ場やホテル、体験施設などを紹介するパートナーと連携し、それらを旅行商品として組み上げる。コネクターに対しては、紹介して終わりではなく、実績に応じて報酬が還元される仕組みも用意した。地方創生にありがちな“善意”頼みではなく、関わる人が継続的に利益を得られる構造を目指している。
「地元を盛り上げたい方は全国にたくさんいます。でも、誰と組み、どこから始めればいいかが分からない。Amatellusは、その最初の一歩をつくるプログラムです」
良いコネクターが増えれば、地域ならではの商品が増える。商品が増えれば、多様な海外顧客の需要に応えられる。販売実績やデータが蓄積されれば、地域コミュニティへ再投資できる。そこで新しい商品が生まれ、さらに販売が広がる。小嶋氏が描くのは、この二重の循環構造だ。
同社によれば、取材時点で14都府県を中心に展開し、約30~40のゴルフ場と接点を持つ。数だけを追うのではなく、国内プレーヤーの減少や会員数の先細りに危機感を持ち、打開策を模索しているゴルフ場と手を組む。
「こちらからお願いして入れてもらうのではありません。『一緒にやりましょう』と手を取り合える方々と進めたいんです」

AIを用いてゴルフツーリズムを“共創”する「Izanami Golf」
ゴルフツーリズムジャパンでは、AIを用いてゴルフ旅行プランを提案するプラットフォーム「Izanami Golf(イザナミゴルフ)」も運営している。予め掲載されたモデルプランから旅行者が選ぶだけでなく、旅行者のリクエストに応じて、旅のアイデアを提案できる仕組みを描く。

旅行商品を企画・販売するには、旅行業法に留意しなければならない。そこでゴルフツーリズムジャパンでは、Amatellusを通じて、地域側から寄せられたアイデアを同社が一定の基準で精査し、正式な旅行商品へ仕立て、Izanami Golfで掲載する。企画者には紹介料、販売に寄与した人には手数料の一部を還元する設計だ。
つまり、旅行会社が一方的に商品を作って売るのではない。地域の人が自ら旅の企画に関わり、世界へ届け、売れた利益が地域へ戻る。BtoCやBtoBtoCに加え、CtoBtoCまで取り込む“旅行商品の供給プラットフォーム”を目指している。近年OTA(Online Travel Agent)と呼ばれるオンライン旅行代理店の台頭が目立つが、同社はそこに幅広く協力者を募った共創体制を組み込んだ。
「観光協会や地域の方が、補助金だけに頼らず、自分たちで稼ぐ力をつくれる。きれいごとではなく、地方創生を続けるにはお金が必要です。一緒に旅行をつくり、その収入の一部を地域へ戻していきたいと思っています」
旅行会社というより無形商材の商社
ゴルフ場、ホテル、交通、飲食、文化体験。関係者が増えるほど、調整は複雑になる。地域側と海外顧客では言語だけでなく、商習慣や期待するサービスも異なる。紹介を受け、現地へ足を運び、関係を築き、ひとつの旅行商品にまとめ、販売し、実際に運営する。派手には見えないが、簡単に真似できる仕事でもない。かつての旅行会社がホテルや交通を仕入れて販売する“卸売業”だったとすれば、現在求められるのは、異なる資源を組み合わせ、顧客の要望まで織り込み、付加価値を生むことだからだ。傍から見れば“面倒”なやり方だが、そこが強みともとらえている。
「私もメンバーも旅行業界出身者ではありません。でもそこに強みがあると考えています。面倒くさいところに価値が生まれると思っています。お客様の要望もくっつけて、プロデュースして売る。旅行会社というより、無形商材の商社になっていくイメージです」
業界の常識を知らないからこそ、「なぜ、やらないのか」「一緒にやればいい」と踏み込める。創業以来、試行錯誤を重ねてきたが、届けたい商品の形と、広げるための仕組みが揃い始めた。
「風呂敷は広げまくっていますね(笑)ここからです」
「日本にゴルフをしに行きたい」と思われる国へ
日本には数多くのゴルフ場があり、温泉、食、歴史、工芸、自然といった観光資源も揃う。それでも海外のゴルファーから見れば、日本のゴルフ場は“目的地”として十分に知られているとは言い難い。個々の魅力が点在し、海外へ届く商品や物語として束ねられてこなかったからだ。
「日本にゴルフをしに行きたいと、海外の方が思えるようにしたいですね。そのために旅を、そしてゴルフ場自体をプロデュースしていきたいです。ゴルフ場を日本文化と掛け合わせ、より強いコンテンツに育てられると思っています」
接待や娯楽のイメージだけで語られがちなゴルフを、人と人、地域と世界をつなぐ共通言語へ。閉鎖的で旧態依然と見られる業界だからこそ、変わる余地は大きい。
小嶋さんによると、今後は高級自動車やワインなど、富裕層との接点を持つライフスタイルブランドとのゴルフイベントにも取り組んでいく。その一環として、今秋には、静岡県の「太平洋クラブ御殿場」にて、株式会社TLAが主催するイタリアのワイナリーブランド「テヌータ・ランボルギーニ」のコラボイベントに参画。ゴルフツーリズムジャパンは、旅行業務における実務および管理を担当する。
主催者側にとっては、旅行とゴルフの連携を深めることで、顧客体験の充実と顧客満足度の向上につなげたいという強いニーズがあり、ゴルフ場や宿泊施設、移動手段、パーティー会場の手配までをワンストップで担える実行力が評価され、同社が選定されたという。今後はライフスタイルブランドと連携したゴルフイベント領域において、さらなる市場開拓を進めていく考えだ。
地方創生は、立派な理念を掲げただけでは続かない。現地の魅力を見つける人、商品に仕立てる人、世界へ売る人、旅行者を受け入れる人。その全員が価値と利益を分かち合える仕組みが必要だ。ゴルフツーリズムジャパンが引き受けるのは、点在する日本の魅力をつなぎ、ひとつの旅に変える役回り。積み重ねが、ゴルフを起点とした新しい地方創生の形をつくっていく。
取材・執筆:向山純平


