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180 名前: 投稿日: 03/03/03 19:28 ID:49zaEUFa
「トルシエ君、あなたは川渕キャプテンにもべつに理解されなくったっていいと思ってるの?」とジーコさんが訊いた。
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「君にはどうもよくわかってないようだけれど、人が誰かを理解するのはしかるべき時期が来たからであって、その誰かが相手に理解してほしいと望んだからではない」
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「じゃあ私が誰かにきちんと『黄金の中盤』を理解してほしいと望むのは間違ったことなの?たとえばあなたに?」
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「いや、べつに間違っていないよ」とトルシエさんは答えた。
「まともな人間はそれを黄金の中盤『もどき』と呼ぶ。もし君が中田・小野・稲本・中村を同時に使いたいと思うのならね。俺のシステムは他の監督のシステムとはずいぶん違うんだよ」
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「でも中村を使う気はないのね?」
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「だから君は僕のシステムを---」
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「システムなんてどうでもいいわよ!」とジーコさんがどなった。
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彼がどなったのを見たのはあとにも先にもこの一度きりだった。ツꀀ
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182 名前: 投稿日: 03/03/03 19:44 ID:49zaEUFa
僕はディフェンスについての多くをトルシエのフラット3に学んだ。
殆んど全部、というべきかもしれない。不幸なことにトルシエは全ての意味で不毛な監督であった。話せばわかる。フランス語は解り辛く、戦術は出鱈目であり、采配は稚拙だった。
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それにもかかわらず、トルシエはフラット3を武器として強豪国とわたりあうことのできる数少ない非凡な監督の一人でもあった。ベンゲル、ジャケ、ルメール、そういった同じフランス人の監督に伍しても、フィリップ=トルシエのその戦闘的な姿勢は決して劣るものではないだろう、と僕は思う。
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ただ残念なことに、トルシエには最後まで自分の闘う相手の姿を明確に捉えることはできなかった。結局のところ、不毛であるということはそういうものなのだ。
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14 名無しが急に来たので[sage] 08/03/29 17:41 ID:qmL8KYGA
「何故マスコミが嫌いだと思う?」
その夜、岡田監督はそう続けた。そこまで話が進んだのは初めてだった。
わからない、といった風に僕は首を振った。
「はっきり言ってね、マスコミなんて何も考えないからさ。「日本人は一対一に弱い」と「ストライカーがいない」の二言が無きゃベタ記事での批判記事も書けやしない。」
はっきり言って、というのが岡ちゃんの口癖だった。
「そう?」
「うん。奴らは大事なことは何も考えない。考えてるフリをしてるだけさ。‥‥何故だと思う?」
「さあね」
「必要がないからさ。もちろんライターになるには少しばかり文才が要るけどね、評論家であり続けるためには何も要らない。人工衛星にガソリンが要らないのと同じさ。グルグルと同じところを回ってりゃいいんだよ。でもね、俺はそうじゃないし、あんただって違う。 勝つためには考え続けなくちゃならない。3バックのラインメイクから代表のセレクションまでね。そうだろ?」
「ああ。」と僕は言った。
「そういうことさ。」
「でも結局はみんな日本代表に期待する」僕は試しにそう言ってみた。
「そりゃそうさ。国民はみんな自国の代表に期待はする。でもね、日本が本当に強くなるまでにあと10年は強化を続けなきゃならんし、いろんなことを考えながら10年現場を勤めるのははっきり言って何も考えずに批判だけして5千年代表を見るよりずっと疲れる。そうだろ?」
そのとおりだった。
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56 名無しが急に来たので[sage] 08/06/24 21:19 ID:zOZRnX86
「でもね」と彼は言って、煙草を地面に落とし、靴の底で踏んで消した。
「オシムの監督しているチームでは絶対にユーティリティって言葉を使っちゃいけないの。私たちは『ポリバレント』って言わなくちゃいけないの。
ユーティリティプレイヤーって、ほら、差別用語なのよ。
私、一度冗談で『器用貧乏な選手』って言ってみたの。そしたらすごく怒られちゃった。
そういうことでふざけちゃいけないって。
みんなすごおおく真面目にサッカーしてるんだから」
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71 名無しが急に来たので[sage] 08/08/15 10:58 ID:qnHeVy5A
「時々パスを出すんです」と梶山が言った。
「失礼?」と僕は言った。ちょっとぼんやりしていたもので、聞き間違えたような気がしたのだ。
「時々パスを出すんです」と彼は繰り返した。
僕は彼の方を見た。彼は指の爪先でペットボトルの表面をなぞっていた。それから中身の水を思い切り食道の奥へ吸い込んで十秒ばかりキープして、そしてゆっくりと吐き出した。まるで吐しゃ物みたいに、水が彼の口から空中へと漂った。彼は僕にペットボトルを渡した。「給水用の水、ぬるくてもよければどうぞ」と彼は言った。
僕は肯いた。
「ゲームメイクの話が聞きたいね」と僕は言った。
彼は僕の顔を見た。梶山の顔にはあいかわらず表情らしいものがなかった。
「話してもいいんですか?」と彼は言った。
「もちろん」と僕は言った。
「簡単な話なんです。相手のDFが寄ってきたら、近くの味方にボールを預けるんです。サイドやヒールでちょこっとやって、それでおしまいです。10秒もキープはしませんね」
「それで」と言ってから、僕は口をつぐんだ。次の言葉がうまくみつからなかったからだ。
彼はしばらくぼんやりしていた。
「5回に1回くらいはドリブルをします」と彼は言った。そしてまた指を鳴らした。「それくらいのペースがいちばん良いような気がするんです。もちろん僕にとっては、ということですが」
僕は曖昧に肯いた。ペース?
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133 名無しが急に来たので[sage] 09/04/18 10:15 ID:PlJxjFsY
「ところで君にひとつ頼みがあるんだ。変な頼みだけど」
「いいよ。言ってみてくれ」
「悪いんだけど、もしよかったら中盤の底に戻ってしばらく守備をしてくれないかな? かわりにオーバーラップしてくるから。実をいうと、ゴールをこっそり狙うのにワンボランチだといささか目立ちすぎるんだ」
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