「すっきりしないナショナルダービー」


サポーターとしてはアンフィールドでの勝利は喜ぶべきであり、結果に勝る内容はないとも思っているが、どうもすっきりしない。きっと私だけでは無いだろうが、消化不良感が拭えない試合はユナイテッドが制した。


まず、試合内容に入る前に二つほど。

ジョン・テリーに関する握手拒否の問題もあって、試合前から、パトリス・エヴラとルイス・スアレスがどうするのか、という話題で場外はかなり盛り上がっていた。

そろそろというか、テリーの一件もあったことで握手せざるを得ない状況が形成されていったこともあり、握手はさすがにするだろう、という見解で一致していたが、無事行われた。

そして、この試合にはヒルズボロの悲劇で犠牲になった人たちを追悼し、96という背番号のトレーニングジャケットを両チーム着用した。


開幕して数試合経過したが、昨シーズンからの課題は相変わらずである。

そもそもスタッフが変わっていないので当然なのだが、相変わらず掛け算としての組織づくりが全くできていない。観ていた方はお分かりだろうが、連動とか、組織といった言葉がどこにも当てあはまらないフットボールであったのはユナイテッドの方だ。まず、先発のメンバーを見れば、守備面にてエヴラ、ギグス、ナニの形成する左サイドのトライアングルが壊滅的な穴だということが分かる。

誰がどう見ても守備に難のある並びであり、現に前半開始から中盤まではそこから崩されていた。以前から何度も言うように、ギグスを三列目のあの位置で使うのは、守備的なリスクが大きすぎる。攻撃面での恩恵もさほど無い上にデメリットのほうが大きいと言わざるを得ない。

スコールズが二試合連続で先発だったこともあって、センターハーフで先発したと思われるが、どう見てもスカスカのバイタルエリアを形成していたのはこの負のトライアングルであったのは言うまでもない。エヴラのタックルのタイミングもひどければ、ナニは切り替えが遅く、守備にも戻らなければ、球離れも悪い。ギグスは相変わらずあの位置ではゲームメイクなどとは無縁のプレーで、守備時の位置取りは、無責任なポジションを転々とするだけであった。


記事の流れと前後する形になるが、特に失点時のプレーは明確であり、一度はジェラードをマークして下がったものの、中途半端なクリアのあとには、マークを投げて勝手にラインを上げている。

エヴラはファーの選手を見ている状態であり、ここにエヴラの責任を求めるのは酷であろう。不運な形ではあったが結果的にジェラードはフリーでボレーを放つことに成功し、アンフィールドに歓喜の瞬間をもたらした。連動という言葉とは無縁の前半は、ファン・ペルシーにとっては苦痛以外の何物でもなかっただろう。

ゲームメイクとフィルタリングが機能しない中盤からは、ボールが供給されるわけでもなく、彼の存在が消えていた前半であった。香川が前からボールを追っても、それで後ろも追いかけるようなスイッチが入るわけではなく、空回りのチェイスになっている。ナニはボールを追わず、ギグスは追えない、キャリックはラインを上げられない、という状況で、ボールを支配できなければ、劣勢になるのは自明の理である。

高い位置でボールを奪えるメンツでも無ければ、それを可能にするトレーニングが行われているとは思えない。当然、ずさんな守備組織から、偶発的に生まれたカウンターのチャンスも、狙った守備ではないので、切り替えが遅く、押し上げやサポートもない行き当たりばったりのカウンターになる。香川も、どこでボールを奪いに行くのか、どこで獲れるのかがはっきりしていないので、カウンターから逆算した守備時のポジショニングを取れていない。寄せるべきか、待つべきか、こうしたポジション取りにも非常に迷っているように見られた。


そんな中、香川はボールを受けても、身体を入れて前を向いていたので、倒された時にはホイッスルをもらい悪い流れを一旦切ることに成功していたが、チーム全体でも引くのか引かないのかはっきりしないまま、攻守ともにぼやけた酷いクオリティを見せつつ、なんとか前半は凌ぐことに成功した。

前半にはこの試合のターニングポイントとなったプレーが起こった。シェルヴィーのタックルにレッドカードが提示されたシーンだ。まず、シェルヴィーはギグスにつっかけてボールロストを引き起こした。(この時にギグスのボールロストも相当酷い)五分五分のルーズボールを追い、エヴァンズと交錯する形となった。この時タックルの印象が良くなかったのだろう。特に二度追っている、という点とそれまでのチェイスの印象が、彼のレッドカードを決めてしまったように思える。プレーそのものだけで見れば、エヴァンスも微妙なタックルであり、互いにカードが提示されてもおかしくなかった。

Skyの解説ではいつもの通り、ギャリー・ネヴィルと元リヴァプールのジェイミー・レドナップがこのプレーについて解説していた。もちろんレドナップはエヴァンズも退場になるべきだと申していた。しかしジャッジというのはそれまでのプレーや印象、角度によって左右されるものであり、このレッドカードに関しては、危険なタックルで悲劇を産まないように務めるプレミアのレフリーにとっては提示してもなんら不思議はないと思われる。とはいえ、このジャッジが色々と言われているのは、アンフィールドにもかからず、ユナイテッド寄りの笛が吹かれていたことが、大いに関係している。


主導権を握れないままハーフタイムを迎えるが、明らかに酷いメンバーと、ベンチに座る小柄なゲームマスターの入れ替えを望む声は高らかに上がっており、今シーズンもこの問題と付き合って行かねばならんのだ、という倦怠感を感じた。

予想通り、ナニとスコールズが入れ替わり、リヴァプールもそれに応じてボリーニに替えてスソを投入した。そういえばスターリングもスソもティーンエイジャーであるが、敵ながらいい選手だと思わせるようなプレーを見せていたのは印象的だった。

失点シーンは先程記述したとおりであるが、後半はさすがに一人多いユナイテッドがボールを持つ時間が増えていった。ユナイテッドの一点目に関しては、ラファエウのファインゴールという他にない。二点目に関しては、バレンシアの爆走が光ったが、ゴール前での躊躇はいただけなかった。結果的にPKとなったが、こちらのタックルの流しっぷりを考えれば、ホイッスルが鳴らなくてもおかしくはないタックルでもあったのは事実だろう。アッガーの負傷もあって、ファン・ペルシーがペナルティ・スポットにボールをセットしてから非常に嫌な間が開いたが、レイナの手を弾きながらもボールをネットに押しこむことに成功して逆転した。危ない場面が何度かありながらも、どうにかアンフィールドでの勝利を手にしたユナイテッド、前半優位に試合を進めながらも、決定打にかけたリヴァプール、互いがあまり良くない中での試合は、当然、ファンやサポーター以外の人間から見れば退屈であっただろう。


マスコミ的に香川個人の評価を。

本人に関係はないが、ブンデスリーガでは「後輩」たちが大フィーバー中である。

香川はというと、本人のプレーそのものに疑いの余地はないが、フットボールは11人で行う以上、連携というものが必然的について回る。今のところ、球離れの悪いウィングとのプレーの相性は最悪に近く、フィーリングもへったくれもない状態だ。後半はスコールズが入ったことでパスが入るようになったが、横の関係は未だに確立できていない。

これは香川個人の問題ではなく、チーム全体の問題である。

守備がオーガナイズされていない状態で、マークの受け渡しもままならない状況で、どのようにすればいいのか、というのは私が教えてもらいたい。この試合でもボールウォッチャーが何人、何度もあったことか。狙ったところで奪いに行けない状況では、効率的に攻撃が可能になるわけがなく、当然選手間の距離も広がり球離れも悪くなる、悪循環に陥るばかりだ。守備がしっかりしていれば、攻撃時のチャレンジも思い切っていけるが、そこが曖昧なままでは、終始疑心暗鬼に大胆な仕掛けを行うことはできない。これでいくらスロースタートだとはいえ、このクオリティでプレミアを制すなど笑ってしまう、と思えるくらい組織が酷い。

端的に言えば、最高責任者であるサー・アレックス・ファーガソンを批判することになるのだが、何度も書くように彼の横に座っている無能なコーチを変えるべきだろう。どう考えても、エヴラとギグスとナニのトライアングルを形成するようなフォーメーションをリヴァプール相手に組むなど、私には考えつかない。三列目に今のギグスを置くことはもやはリスクでしかない。キャリックに「一人で守備とゲームメイクをしろ」と言っているようなものだ。

やはりギグスは二列目のプレーヤーであることは後半を見れば明らかである。多くの者が、サー・アレックス・ファーガソンが戦術家ではないことを知っているが、そろそろ限界が来ているのも事実だろう。結果だけ見れば開幕の一敗後は連勝中であるし、勝利に勝る結果もないのだが、愛するクラブの頓珍漢なベンチワークを観ることは非常に辛い。

質の追求か、結果の追求か、どちらもなのか。内容にこだわって結果がついてこないクラブが幾つかJリーグにも見られるが、短期的長期的な視点でも評価は変わってくる。最終的に優勝していることが多いユナイテッド故の悩みなのかもしれない。そういえばこのコラム、戦術的批判がほとんどのような気がする。

「名将よ、隣に座るものに非情なる決断を!」

改めてそう感じさせられた秋の夜であった。


筆者名 db7
プロフィール 親をも唖然とさせるManchester United狂いで川崎フロンターレも応援中。
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