イタリアで復興する3バックの未来とは。「迎撃型5バックの萌芽」

3バックが、なぜ復興しつつあるのか。

イタリアでは多くのチームが現在3バックを取り入れ始めている。それは、イタリアでは「優秀なSBやWGの不足から、中央を固めることが出来る3バックのメリットが生きやすくなっている」などという意見が多く見られるし、実際そうなのだろう。しかし、その3バックは他方で新たなる戦術の時流をもたらし始めた。プランデッリがユーロのイタリア代表で行った3バック、そしてモウリーニョのレアル・マドリードがCLのマンチェスターシティ戦で見せた「4バック+1」だ。

「3バック」というのは最早正しくないのかもしれない。筆者が注目するのは「最終ラインに5人いる形」である。

これは、5バックとは違う。確かに3バックのチームでリトリートの戦術を取ると、3バックの両脇のWBが下がって5バックになってしまい、中盤での主導権を失って攻め込まれてしまう事も多い。しかし、現在萌芽しているスタイルは決して引いて守るためのものでは無く、むしろ「迎撃型5バック」とも呼べるものだ。では、「迎撃型5バック」というものがどういうものか説明しよう。

まずは、ユーロのスペイン対イタリアを例に説明しよう。スペインは、0トップなどと呼ばれるようにCFに本来は中盤のセスク・ファブレガスを起用。この狙いが何かというと、中盤に落ちていくことによって中盤での数的有利を作りながらCBを引っ張り出し、空いたスペースに二列目を走らせることによってチャンスを作り出すことだった。2トップにしろ、3トップにしろ、このようにバイタルエリアに前線の選手が落ちて行ったりサイドに流れたりすることでどのDFがついていくのかを曖昧にさせ、ついてくればスペースが空くし、ついてこなければ起点になれるというプレーは日常的に見られるものになっている。

つい昨日も、ミランのボージャンはそういう風に落ちながら起点になっていたし、インテルのカッサーノやバルセロナのメッシ、ユベントスのジョヴィンコ、ヴチニッチやチェルシーのアザール、オスカル、フィオレンティーナのヨヴェティッチ、リャイッチなど数えきれない選手たちがポジションチェンジを繰り返しながらバイタルエリアやサイドを狙ってきている。特に、バイタルエリアではボールを持たせたくないので中盤には守備的な選手を置いたりと各チームが対策を練るが、それでも自分の背後から下がってくる前線の選手への対処は難しく、これまで有効な対処策が定まっていなかった面はある。だからこそ、パスサッカーを繰り返すバルセロナでの「メッシCFシステム」が猛威を振るっていたと言えるだろう。

そこで考えられたのが、この「迎撃型5バック」である。図を見ていただこう。

このように、一度最終ラインを5枚にする。そして、相手の前線から落ちていく選手の枚数に合わせた3バックが起点にならせないように厳しくチェックするのだ。図のように、3バックはそれぞれのゾーン分けをしており自由に動き回るセスクが、自分のゾーンで起点になろうとしたら出て行って潰しに行った。

まさに「迎撃」に向かうのである。従来の4バックでこれをやってしまうと、迎撃にいったCBのポジションが空いてしまうことで広大なスペースが生まれてしまうということがあった。

しかし、このように「迎撃」にいった選手以外が4バックを形成するように中央に絞ることによって、中盤が使うスペースさえも封じてしまうのである。

このシステムのメリットは、動き回る選手をどこからでも迎撃出来るという点である。3枚のCBは、自分のゾーンから下がっていった選手を「迎撃」。4バックを後ろに作れる安心感から、思い切ってアタックすることが出来る。また、さらに中盤やサイドからバイタルエリアへとドリブルしながら侵入してくる選手にもこのスタイルは有効で、ドリブルで突っかけても迷いなくアタックに飛び込んでくる守備にスペイン代表は手を焼いた。これも、後ろがしっかりと4バックを形成してくれるという信頼が成せる技である。

イメージとしては、守備的MFを迷いなく潰しにいかせるために最終ラインに吸収させているというイメージの方が近いかもしれない。それを応用して見せたのが名将ジョゼ・モウリーニョである。4バックを迎撃型5バックへと変化させたのだ。

マンチェスターシティ戦、高い位置からハイプレスを仕掛けたレアル・マドリードはマンチェスターシティの組み立てを徹底して封じ込めた。しかし、マンチェスターシティの前線にはテベスやシルバ、ヤヤ・トゥーレといった選手たちがカウンターを狙う。特に、カウンターにおいても高いラインの相手に対して1枚が裏を狙ってバイタルエリアに下がってきたもう1枚が受けて起点になることは基本である。

図のように高いラインを取ってハイプレスに行くチームでは、裏を狙われることを最も警戒せねばならず、特に中央が2人となる4バックではバイタルへの対処が難しい。

なぜなら、もし落ちてきた選手にどちらかのCBがついていくことになると、次の図のような状況が訪れることになるからである。

本来はもう一人のCBがいる水色で囲われたスペースが空いてしまうのである。こうなると、FWは斜めに走りながら裏でボールを受けやすくなり、一発でピンチになってしまうシュチュエーションが増えることになる。ゼーマン率いるローマのハイラインディフェンスは、ユベントスに対してこういったシンプルな攻めを繰り返されることで崩壊してしまった。

こうして見てみると、ハイラインDFというのが、リスクが大きいことが良くわかるだろう。中央に2枚アタッカーを置かれると簡単に数的同数を作られてしまうからである。ここで、モウリーニョはハイラインDFに工夫を加えるのである。

このように、中盤の底に入るDMFがCBの間に引いてくることによって3バックに近いシステムを形成するのだ。

ここで興味深いのは、レアルが組み立て時にやっている動きのままDFが出来るということである。シャビ・アロンソがCBの間に落ちて組み立てを3バックで行う形のまま、ハイラインの守備に移れるということである。これは、見方によっては攻守一体のスタイルということも可能かもしれない。

そして、このようにDFラインに5人を並べ、FWとMFは献身的に前から潰しに行く。そうすると、どうしてもアタッカーにとって難しいボールをバイタルに入れるか、強引に裏へのロングキックを使うかしか選択肢が無くなる。

となれば、アタッカーにとって難しいボールが増えるバイタルエリアにはCBの一人が迎撃して潰し、裏を狙おうにも4バックを作って2枚で数的有利を作りながら対応する。このようにしてシティは前半何もさせてもらえなかった。ハイラインのリスク管理としても、「迎撃型5バック」つまり、「4バック+1」というやり方は使えると証明したのである。

ディフェンスの基本、というかセオリーの話をすれば数的有利を常に作り出して対処するということが求められることは間違いない。しかし、それを破ろうとルチアーノ・スパレッティは0トップを考案した訳だし、バルセロナやスペイン代表も同様の思想から「中央のFWを低い位置に置くことで実質の中盤の人数を増やして支配率を高め、CBがついてきたらそのスペースに選手を走りこませる」というサッカーが一世を風靡した。ある意味で、そういった形に対するカードとして完成したのが「迎撃型3バック」であり「4バック+1」である。もしかしたら、このやり方こそが王国バルセロナ、そしてスペインの絶対王政を終わらせることになるかもしれない。

“これ”が特効薬になりえるかは、多くの監督たちの地道な研究にかかっている。

※フォメ―ション図は(footballtactics.net)を利用しています。


筆者名 結城 康平
プロフィール サッカー狂、戦術オタク、ヴィオラファンで、自分にしか出来ない偏らない戦術分析を目指す。
ツイッター @yuukikouhei

最後まで読んでいただきありがとうございます。感想などはこちらまで(@yuukikouhei)お寄せください。

{module [170]}
{module [171]}
{module [190]}

【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名

ラッシュフォードの私服がやばい