Qoly読者の皆さん、昨年は私のコラムをお読みいただきまして、本当にありがとうございました。どうしても表やグラフが入ると長くなってしまうのですが、今年はもう少しコンパクトにして、もっと読みやすいコラムを書きますので、今後ともよろしくお願いします。

昨年最後のコラムではプレミアリーグの年末年始データについて書きました。今シーズンの結果は、首位を独走するマンチェスターユナイテッドはウェストブロミッチとウィガンに連勝、追うマンチェスターシティもノリッジとストークを下しました。アーセナルやトッテナムも連勝し、無難に切り抜けましたが、チェルシーは1月1日にクイーンズパークに敗れて4位に後退し、1試合多く残すものの首位との勝ち点差は14になっています。「年末年始のノルマは勝ち点4」のデータから見ても、3シーズンぶりの優勝は厳しい状況ですが、どうなるでしょうか。結果は5月に出ます。


さて、今年の大きなニュースは2020年の夏季オリンピック(五輪)・パラリンピック開催都市決定です。東京も7日に立候補ファイルをIOCに提出し、招致レースが本格的にスタートしました。今回のコラムではそのサッカー会場を取り上げ、ライバルのマドリードやイスタンブールの計画もご紹介します。


☆「宮城」で復興をアピールする東京

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立候補ファイルの提出で現役選手を代表したのが澤穂希であるように、サッカーが招致レースのキーである事は東京も理解している。それは今回の招致計画でも反映されている。

4年前、リオデジャネイロに敗北した2016年五輪の開催計画では、東京湾岸の晴海地区に10万人収容の五輪スタジアムを建設してサッカーの決勝戦を行う事になっていたが、今回は新スタジアム建設を見送り、現在の国立競技場を全面改修してメインスタジアムにした。これにより、サッカーの決勝もここで開催される事になった。また、東京スタジアム(味スタ)での試合開催も取り止め、他に札幌ドームと宮城・埼玉・横浜国際(日産)の各スタジアムを使用する事になった<注:なお、五輪では企業への命名権販売が無効となるため、立候補ファイルには「東京スタジアム」「横浜国際総合競技場」と記載されている、以下同>。会場数はロンドン大会の6から5に減り、同じスタジアムでより多くの試合を行う事になった。特に宮城スタジアムは「復興の加速と世界への感謝」を動機の筆頭にする招致活動にとって重要な会場で、試合増はその姿勢を更に明確にする意味もあった。これは、2012年のU-20女子W杯でグループリーグの日本戦2試合を宮城で行った日本サッカー協会の姿勢とも一致している。

また、パラリンピックで視覚障害者5人制サッカー(ブラインドサッカー)と脳性麻痺7人制サッカー(CPサッカー)は大井ふ頭中央海浜公園に新設される1万人収容のホッケー競技場で開催される事になっている。多くのサッカーファンは知らない場所だが、羽田空港へ向かう東京モノレールからは、大井競馬場駅の南側(羽田寄り)の左側(競馬場の反対側)、運河越しに見える広大な緑地にスタジアムができる。高校野球などで使う「大田スタジアム」はこの一角にある。詳しい場所やスタジアムのイメージは、招致委員会の「競技会場プラン」から確認できる。

◎東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会サイト内「競技プラン・パラリンピック会場」
http://tokyo2020.jp/jp/plan/venue/paralympic.html


☆「白」が際立つマドリード

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一方、3都市中で最も住民の支持率が高く、開催を熱望しているとされるのがマドリードである。スペインでは1992年にバルセロナ五輪が開催されたが、首都が本格的に招致レースへ参加したのは2012年大会からで(他に1972年大会を招致したがミュンヘンに敗北)、この時は本命視する声もあったがロンドンに敗れた。2016年大会ではリオとの決選投票まで残り、今回は3度目の挑戦となる。

マドリードの招致委員会の計画では、メインスタジアムは都心部から10kmほど東にある「マドリードスタジアム」となる。リーガファンには「ラ・ペイネタ」の方が分かるかもしれない。2016年大会に向けて元々の2万人スタジアムを6万5千人(招致委員会による、他の資料では7万人前後)に先に拡張し、後からアトレチコ・マドリードを誘致した。アトレチコは2015年3月に現在のビセンテ・カルデロンから本拠地を移す事になっている。しかし、五輪のサッカーではここを使用しない。マドリード都心部にはサンチャゴ・ベルナベウがある。2020年大会のサッカーは、このレアル・マドリードのホームスタジアムで開く事が大会招致委員会の目標となっている。決勝戦の場所は未発表だが、余程の事がない限りここだろう。

また、2005年に開場したクラブ練習場、シウダード・レアル・マドリードから選手村は7kmの位置にあり、サンチャゴ・ベルナベウよりも近い。計13面のピッチではパラリンピックのブラインドサッカーとCPサッカーが同会場で行われ、五輪でも日本代表「さむらいジャパン」「さくらジャパン」が出場を目指すホッケーの試合会場となる。リオ大会から正式採用となる7人制ラグビーも敷地内にあるBチームのホーム、エスタディオ・アルフレッド・ディ・ステファノを使用し、スタンドは現在の9千人から2万5千人へと拡張される。このように、レアル・マドリードと大会招致委員会は全面的な協力関係にある。


東京同様、マドリード大会の構想でもスペイン国内の他都市が「共同開催都市」となっている。サッカーで選ばれたのはバルセロナ・コルドバ・マラガ・バジャドリ・サラゴサの5つ。いずれも既存クラブの本拠地で、2部のコルドバが使うヌエボ・アルカンヘルは2万3千人、マラガのラ・ロサレーダは3万7千人への小規模な拡張が想定されるが、バジャドリのホセ・ソリージャ(2万6千人)、サラゴサのラ・ロマレーダ(3万4千人)と共にその都市を代表するスタジアムである。しかしバルセロナで使われるのはエスパニョールが去った後もモンジュイックの丘にある五輪スタジアム、リュイス・コンパニスで、元々存在しなかったかのようにカンプノウの使用は回避された。海のないマドリードに代わり、港がオリンピック・パラリンピックの双方でセーリング会場となるだけのバレンシアと共に、この2つの都市の強豪クラブは「白い五輪」に背を向けている。ただ、今では2020年にバルセロナがスペインに残っているのかすら分からなくなっているが。

◎マドリード招致委員会公式サイト(スペイン語、他に英語・フランス語)
http://www.madrid2020.es/

☆過去と未来が交錯するイスタンブール

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1964年までの東京を別にすれば、イスタンブールの五輪招致歴は他の2都市よりも長い。最初に正式な立候補をしたのは2000年で、その後4大会連続で手を挙げたが、国家の経済力や交通インフラの弱さ、さらに言外に秘められた、欧州諸国が歴史的に持つトルコへの忌避感などを理由に早期で除外され続けた歴史を持つ。2016年大会はサッカー欧州選手権招致(ユーロ2016、フランス開催に決定)を理由に見送ったが、今回は満を持して登場し、IOCによる審査も今回は「若干の問題あり」とされながらもクリアした。さらに、ユーロ2020も欧州全域での分散開催が決定したため、イスタンブール開催への障害はなくなった。


イスタンブール大会の招致計画では、開催都市に2つのサッカー会場が用意されている。2005年にリヴァプールが大逆転勝利を収めたUEFA CLの決勝会場、市の北西部にあるアタテュルク・オリンピヤット・スタディは五輪のメインスタジアムとなるために使われないが、同様にUEFAのカテゴリー4認定を受けているカドゥキョイ・スタディとセイランテペ・スタディが使われる事になっている。どちらも命名権の問題でこの表記になっているが、トルコサッカー通の方ならご存知の通り、前者は2006年までの全面改修を挟んで1933年からずっとトルコ・シュペルリグ(以下TSL)の強豪フェネルバフチェが本拠地としているシュクリュ・サウジオウル、後者は市の北東側で2011年5月に開場したトルコテレコムアリーナで、ここにはTSLでフェネルバフチェとダービーマッチを戦うガラタサライがアリ・サミ・イェンから本拠地を移してきた。ボスポラス海峡を挟んでアジア(カドゥキョイ)とヨーロッパ(アタテュルク、セイランテペ)にまたがる場所での開催は、イスタンブールに最も相応しい会場設定と言える。

ただし、この3つのスタジアムは互いに15-20kmほど離れていて、一見すると交通連絡も余り良くない。カドゥキョイ以外は空港からも不便で、都心部に唯一近いカドゥキョイも海峡トンネルや橋での渋滞や混雑がネックになる。実際の開催時には、特に観戦客の移動が問題になるだろう。

なお、パラリンピックのブラインドサッカー・CPサッカー会場は、アタテュルク・スタディに隣接して建設されるホッケーセンター(1万人収容、追加で5千人可能)が使用される。


イスタンブール大会の現在の課題は、外にある。イスタンブール市外で行われるのはサッカーのみで、内陸にある首都アンカラ、イスタンブールに近いブルサ、南西部の海岸リゾート地で欧州クラブの冬季キャンプも多いアンタルヤの3都市が選ばれている。しかし、いずれもスタジアムの英文名は"New(都市名)Stadium"と表記される。アンカラでは現在ゲンチレルビルリジ(TSL)・アンカラギュチュ(1部リーグ=実質2部)・ハセッテペ(3部リーグ=実質4部)の3クラブが共用する「アンカラ・19マウス・スタディ」(5月19日スタジアム)を1万9千人から4万1千人へ、ブルサではTSLのブルサスポルの本拠地「ブルサ・アタテュルク・スタディウム」を2万5千人から4万5千人へ増築し、アンタルヤスポルがTSLにいるアンタルヤでは4万1千人のスタジアムを新造する事になっている。いずれもユーロ2016に向けた計画をそのまま流用しているが、まだ着工されていない。支出総額が招致成功時の見積もりから4倍近くまで増えたロンドン大会のように、実際には重い負担となる事が懸念され、政府が自信を持っている近年の経済発展がユーロの信用不安で水を差される危険性、決着が見えずトルコ軍も巻き込まれている隣国シリアでの内戦を含めて、トルコでの開催は「不確実な未来を先取りしてしまった」スペインとは違う「不透明な未来」がある。

自国どころかイスラム圏全体でも未経験、かつ1000年以上も東ローマ(ビザンツ)帝国の首都・コンスタンティノープルだったこの都市で古代ギリシア文明を引き継ぐ近代オリンピックを開催する意義は世界史的に非常に大きいが、オリンピックの開催地予想の専門サイト"GamesBids.com"では僅差で東京を抑え本命視されるイスタンブールが9月7日のIOC総会で勝利を収めるかは、まだ予断を許さない。

◎イスタンブール招致委員会公式サイト(英仏両文併記の開催計画書へのリンク)
http://www.istanbul2020.com.tr/


☆クイズの解答と問題

最後に、前回のクイズの答えを。

問題は「マンチェスターユナイテッドの選手の中で、昨シーズンまでの年末年始の40試合で最も多い9ゴールを決めた選手と、ちょっと変わった取り方で7ゴールの2位になった選手は誰でしょう」でした。

昨シーズンまで4年連続年内最終戦で決めていたディミタル・ベルバトフを予想した方もいたのではないでしょうか。彼は年末で5ゴール、年始では1ゴールなので合計6点、3位です。ちなみに4位タイは背番号7の2人、エリック・カントナとクリスチアーノ・ロナウドが5ゴールで並んでいますが、ロナウドは年末だけで決めています。逆に年始だけだったのがクイズの答え、通算でも2位のポール・スコールズです。年始の7得点は突出していて、まさに「正月男」です。

そして最もゴールを決めた選手はライアン・ギグス。年末6点は単独トップ、年始3点も2位タイで、合計9得点を記録しています。そもそも、プレミアリーグとしての最初、1992/93シーズンの年末最終戦(1992年12月28日、コヴェントリーに5-0で勝利)で最初に決めたのがギグスでした。ギグスもスコールズも在籍年数が長いので上位に来るのはある意味当然ですが、それだけ長い間同じクラブ、それもプレミアのトップに在籍し続けた二人は、やはり素晴らしい選手です。


それでは、今回もコラムに関して問題を出しましょう。

東京は2回連続での立候補となった今回、2016年の計画とは内容を変えました。晴海の建設をやめ、東京スタジアムも外したのは本文通りですが、もう1ヶ所、今回は外されたサッカー会場があります。それはどこでしょう。ここは少し因縁めいた話もあります。

筆者名 中西 正紀
プロフィール サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。
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