3月16日にユアテックスタジアム仙台で行われた柏レイソルとの息詰まる熱戦を制したベガルタ仙台。ACLを含めた公式戦4試合でいまだ白星がなかったベガルタ仙台だったが、大勢のサポーターの前で今シーズンの初勝利を挙げることに成功し、上昇のキッカケを掴んだと言えるだろう。

この試合では、ベガルタ仙台が持ち味とする”粘り強さ”と”最後まで諦めない姿勢”を観る者に印象付けたが、チームを率いる手倉森誠監督が披露した「4-3-3」も大変興味深かった。今回の当コラムでは、「ベガルタ仙台が4-3-3に取り組む理由」を読み解いていきたい。

昨シーズンのベガルタ仙台は「4-4-2」をメインにシーズンを戦い抜いた。手倉森監督が追求するスタイルは、「最終ラインを高く保ち、相手陣内でボールを奪い、そこからショートカウンターを仕掛ける」という攻守にアグレッシブなモノで、その理想を実現するためのシステムには「4-4-2」が最も適していると言える。(下図参照)

ベガルタ仙台 フォーメーション 

手倉森政権5年目となった昨シーズンは、序盤からこの「4-4-2」が抜群の機能性を誇り、開幕から9戦無敗(7勝2分)を記録するなど、優勝争いをリードしたが、第30節からは勝ちに見放され(3分2敗)、王者の座をサンフレッチェ広島に譲ってしまった。

手倉森監督は昨シーズンから、従来の「堅守速攻」に加え、ポゼッションでも相手を崩せるように創意工夫を施してきた。確かに「4-4-2」はチーム全体に染みついており、たとえ選手が入れ替わっても、機能不全に陥ることはない。だが、このスタイルは攻守にかなりの運動量が要求されるモノで、運動量が落ちる夏場には、苦しい戦いを強いられるのが宿命でもある。事実、7月14日に行われた第18節名古屋グランパス戦から8月18日に行われた第22節柏レイソル戦までの1ヶ月の間、リーグ戦では勝ち点3を手にすることができなかった(その間の戦績は4分1敗)。この反省を踏まえ、カウンターの切れ味を失うことなく、攻撃のバリエーションを増やすために手倉森監督が辿り着いたのが「4-3-3」なのである。

・流動的な動きで相手を混乱

ベガルタ仙台 フォーメーション 

上図が柏レイソル戦におけるベガルタ仙台のスタメンである。守備の要である上本大海、ボランチの角田誠、富田晋伍を欠く苦しい台所事情の中、試合途中から「4-3-3」を用いた前節の鹿島アントラーズ戦とは異なり、キックオフから「4-3-3」で臨んだ。

この試合で目立ったのが、前線の選手たちが流動的に動き回り、相手DFを混乱させるシーンだ。1トップに入ったウイルソンが最前線に張り付くだけではなく、中盤に下がって来てボールを引き出す動きを見せれば、リャン・ヨンギと松下年宏は積極的にボール交換とポジションチェンジを繰り返し、相手DFラインのギャップを有効活用していた。この前線の流動的な動きは「4-4-2」にはなかったモノであり、松下が2列目から飛び出して決めた先制点のシーンはまさに「4-3-3」のメリットが最大限活きた形であった。

・守備時は「4-1-4-1」で対応

また、ベガルタ仙台が十八番とする「粘り強い守備」はこの試合でも健在であり、守備時には「4-3-3」から「4-1-4-1」へとシフトチェンジし、コンパクトな守備ブロックを形成。ベガルタ仙台と言えば、最終ラインを高く保ち、積極的にオフサイドトラップを仕掛けるスタイルで知られているが、ACLの疲労を考慮したこの試合では、普段より深めの位置でブロックを形成し、じっくりと相手の出方を窺った。更に、ウイングの太田吉彰、赤嶺真吾がしっかりと守備に参加し、インサイドハーフのリャンと松下、アンカーの鎌田次郎の負担を軽減させたことで、特に前半は柏レイソルの最終ライン、ボランチから良い形でくさびのパスが入るシーンがほとんどなかった。

・試合展開、時間帯に合わせてシステムを使い分ける

前述したように「4-3-3」で試合開始の笛を聞いたベガルタ仙台だが、試合展開、時間帯に合わせて「4-3-3」と「4-4-2」を使い分けるなど、試合巧者ぶりが際立った。

ベガルタ仙台 フォーメーション 

例えば、上図は試合途中で見られた昨シーズンの基本形である「4-4-2」だが、新機軸の「4-3-3」と併用することで、相手DFのマークを混乱させることに成功していた。また、松下に代えてアタッカーのヘベルチを投入した後半30分くらいからは下図のように「4-4-2」を用いて、攻撃に厚みを持たせたことが、ウイルソンの勝ち越しゴールを演出したと言えるだろう。

ベガルタ仙台 フォーメーション 

そして、したたかだったのが、ウイルソンの勝ち越しゴールが決まり、柏レイソルが同点を目指して攻勢を仕掛けてきた残り時間の戦い方だ。ヘベルチ投入後の「4-4-2」からウイルソンを左ウイングに回した「4-1-4-1」で柏レイソルの攻撃をしのぎ切った戦い方は、流石昨シーズンの終盤まで優勝を争ったチームであると感じさせられた。

今後、離脱中の上本、角田、富田らが復帰すれば、間違いなく戦力アップとなるが、手倉森監督が”基本形”の「4-4-2」と”新機軸”の「4-3-3」のどちらをメインとしていくのか、または併用していくのか大変興味深い。もちろん、試合展開、時間帯によって見事に使い分けていたことを考えると、対戦相手のレベルや選手の疲労度によっても使い分けることも十分可能だろう。今シーズンもまさに「群雄割拠」となりそうなJリーグだが、多くのクラブにとって、ベガルタ仙台は「難敵」として立ちはだかるはずだ。

2013/3/17 ロッシ


筆者名:ロッシ
プロフィール:エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。
ツイッター:@antelerossi21

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