インテル・ミラノの2012-13シーズンは、事実上の終戦を迎えた。
残り2試合を残して、16勝5分、15敗。欧州CLどころか、ELへの出場権すら失うことになったわけだ。
曲がりなりにも3年前までイタリアを席捲し、最強王者バルセロナを叩き伏せて欧州の頂点に到達したクラブの成績としては、燦々たる結果と言わざるを得まい。
フロントやメディアは、既に残りの試合を全力で戦うことに意義を見出していない。指揮官だけが一人必死の形相で抵抗を続けているが、それも間もなく終わるだろう。否、むしろ途中からは、悪戯に夢想の先の勝ち点を追い求めた結果、負傷が癒えかけた選手たちを無理やりにピッチに立たせては傷を広げるという、悪循環を繰り返すばかりだったように思える。「鉄人」サネッティまでもがその渦に巻き込まれたことが、現在チームが置かれている状態を雄弁に物語っていると言えるだろう。
少なくともインテルが、来季も現在の面子をベースとした陣容で戦うことはあり得ない。2年続けて欧州CLの切符を逃したことは、イタリア国内でも指折りのサラリーコストに苦しむこのクラブにとって、決定的な打撃となる。昨夏と同様、あるいはそれ以上の大鉈が振るわれることは必至だ。特に30歳過ぎのベテラン勢たちは、文字通りその身をふるいにかけられることになるだろう。日に日に増していく空気の暖かみと反比例するかのように、インテルを覆う霧は濃く、冷徹に心身を刻んでいる。
こんな状況の最中だっただけに、先日(5/8)のラツィオ戦でジュゼッペ・メアッツァにてフロント(主としてM・モラッティ会長)へ投げかけられた12の質問は、非常に興味深いものだった。
質問は試合開始前に、チラシの形で来訪者たちへ配られた。また、試合中も客席に横断幕にて掲示された。ウルトラスたちはこのメッセージを、序文に
「あなた(モラッティ)はインテルを愛している。俺たちもインテルを愛している」
と記すことで、あくまで理性的・建設的に、率直な意見を求めるものと主張する。実際にそのアプローチと内容を見るに、幼稚な主張や感情任せのブーイングとは一線を画する、クラブをサポートするファンという立場から純粋に発せられた、公正なものだったと言える。
一方でモラッティが直接、これらの質問に回答をよこすとは考え難い。ただでさえ息が詰まりかねないクラブの状況を、更に言質を与えることは、今後に向けて大きな足枷となりかねないからだ。しかし、クラブが明確な形で一つのサイクルを終え、新たなスタイルとモチベーションを必要としている現状、インテリスタ一人ひとりがクラブとどのように向き合っていくのか? それを考える上で、このクエスチョンの数々は、非常に興味深いものである。
モラッティに代わってではないが、筆者なりに思うところをまとめてみた。
Q1:ゴール裏で最近掲げられている、クラブに関する横断幕に、スタジアム全体が拍手するのはなぜか?
言うまでもなく、「ファンが皆、同じようなストレスを抱えている。特にフロントに対して不満を抱いている」からだろう。モラッティに対し、自分たちの主張が決して幼稚な一人よがりではないことをアピールした上で、他の質問の正当性を際立たせようとするものだ。
Q2:3冠(国内リーグ、国内カップ戦、欧州チャンピオンズリーグ)獲得のときと同じメディカルスタッフが論じられているのはなぜか?
質問の意図をどう解釈すべきかによって、意味合いが異なってくる問いかけである。 個人的に思うところは、「メディカルスタッフの手腕自体も決して誉められたものではないが、指揮官を含むコーチングスタッフの仕事が十分でないことが、今日の惨状の一番の原因」 と考えている。
特に基本骨子をはっきりと固めず、試合ごとにシステムが二転三転する状態で戦い続け、選手たちに限界を超えた思考的な負担を課し続けた指揮官の責任は重い。連携が噛み合わなければ、試合中、一人ひとりが不意を突かれるシーンも増え、その分だけ身体的に無理な動きを強いられることになるためだ。
併せて、ピッチ外の規律の乱れ、選手管理の杜撰さは、改めて浮き彫りになった問題である。スナイデル(現ガラタサライ)が、この2年間、再三に渡って負傷欠場を繰り返した背景には、ほぼ間違いなく、インテル側の管理不届きがあるはずだ。
モウリーニョなどは、生活態度への要求・干渉も平然と行い、常に選手にピッチ上でベストの仕事ができるよう、徹底した管理生活を強いていたが(実際、規律違反を犯した選手を平然とメンバーから外していた)、それ以後就任した指揮官は皆、多かれ少なかれこの点で失敗している。あるいは、フロントが選手を甘やかし過ぎ、過剰な権限を与えた結果、適切な管理運営ができない状態になっているのか? どちらにしても根深い問題であることは言うまでもなく、来季もこのままの体制で臨めば、少なからず負傷者が出続けるだろう。
無論、メディカルスタッフの責任追及も免れ得ないレベルにあるのは間違いない。故に、他により明確な能力を持つ者が雇用可能であれば、すぐにでも何らかのアクションを起こすべきとは思うが……恐らくこのセクションに手が加えられることはないだろうとも感じている。十数年の長きに渡って、幾人もの負傷者を出し続けながらも、モラッティの信頼が揺るぐことなく、チームの健康を任されてきた者たちだからだ。
Q3:チームの若返り計画において、すでにいる若手や下部組織出身選手が売られるのは何故か?
クラブ側の主張とファンの主張、両方の視点から考えてみよう。まず前者には、以下のような苦悩が垣間見える。
1.ただでさえ近年の緊縮財政下で補強資金に余裕がない中、高齢化が進んでいる現陣容では換金化が可能、かつ放出しても代替の効く選手が圧倒的に少なく、特に主力~純主力格の若手の数にはかなり限りがある。結果、コウチーニョなどの「フィットしきれなかった大器」に、相応の値がつけば売却。加えてプリマあがりの有望な若手、それも複数人を、成長するまで待てずに放出することになる。
2.インテルは確かに、若手にとっては難しい環境のクラブだ。ミラノは誘惑が多い街にも関わらず、若者たちは同年代の学生や社会人が手にできない額のサラリーをクラブから渡される。元々クラブ内部も、ファンも、若手の失敗に寛容とは言い難い体質を持つ。過去何度、若手がこのクラブ独特の強烈なプレッシャーに耐えかね、苦しみ潰れていったことだろうか? あらゆる雑音を排除し、フットボールのみに集中するには、あまりに困難な環境なことは間違いない。
3.そういう事情があるだけに、ブラジルやアルゼンチンの片田舎で、遊び方を知らずに育ってきた若手を獲得し、誘惑に流れないよう囲い込んで育てようというスタイルは、ある意味では理に適う。
・・・などの事情は、これまで関係者が発してきたコメントの数々から、ある程度察することができる。
翻って、ファンの側はこうしたクラブ側の事情をどこまで察しているのか、あるいは考慮しているのかはわからない。だがいくつか、明確に抗議できる点はある。
1.クラブが獲得してくる若手が、ちゃんと成長していない。
2.代わりに放出される選手が、クラブが獲ってくる選手に比べて、決して劣っているように思えない。
3.若手を十分に活かせるように努力しているようにも、若手が道を踏み外さないように努力しているようにも見えない。
他にも疑念は数あれど、取り分けこの3点の問題は明白だろう。明確なスタンスもプロジェクトも、ただの一度も明言・説明されてはいないのだから、これに関しては如何なるエクスキューズも通りはしない。12の質問の中でも、解決に向けて急ぎ状況をクリアにしなければならない一つと言える。
Q4:いつも我々の選手たちを安売りする意味はあるか?
フロントの犯している明確な過ちの構図は、概ね次のようなものだ。
1.特に高齢の選手相手に、複数年かつ高額なサラリーを支払う契約を結びすぎた。中堅、若手選手にも、他クラブのそれと比べて、明らかに高額過ぎるサラリーを平気で支払ってしまう。
2.このため、仮に他クラブがインテルの所属選手に興味を抱いたとしても、支払うサラリーの高さを考慮し、撤退してしまうケースが少なくない。
3.必然、移籍金自体を下げる他なくなる。仮に放出しなければ、十分に活躍できない選手相手に高額なサラリーを支払う=人件費によってクラブの資金が更に圧迫されるため、損失を承知で放出せざるを得ない選手が複数名出てくる。
少なくとも最初の問題については、理由を正しく説明して欲しいと、筆者としても思うところが多々あるところである。
「他クラブへ、容易に引きぬかせないためか?」
「選手のモチベーション獲得のために必要と考えてのことか?」
「ミランやユヴェントスと異なり、金を積まなければ、インテルには選手が来てくれないとでも言うのだろうか?」
どの解答も、決してすべての疑問を飲み込み、納得させてくれるものではない。少なくとも、クラブが現在抱えている財政的な問題を考えれば、このセクションが正しい方針の元に運営されていないことは明らかだろう。
vol.2へ続く・・・
筆者名:白面
プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。
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