vol.1、vol.2に続き、インテリスタがフロント陣に突き付けた12の質問を元にクラブの現状を分析していこう。

初めから読む⇒「インテルの現在地を確認する、12の質問」 vol.1

Q9:インテルというクラブは偉大なファミリーだと、現実の状況が正反対の時に言われるのは何故か? フロントの誰もが自分のことを、自分のポストを考えていると気付かなかったのか?

またしても先述のオリアリに関連する、特にブランカへの痛烈な皮肉である。

実質的なメルカートの最高責任者でありながら、自身の責任に話が及ぶと責任逃れを繰り返し(少なくともファンの目にはそう見えていたのだろう)、ついには表舞台にすら立たなくなった(モラッティらが立たせなかったのやもしれないが)ブランカに対するファンの怒りは、個々に到って限界域に達している。その決まり文句の一つが、上記のそれなのである。

非常に潔くない、形だけの栄光を主張する風に使用されてきた、悪しき慣用句。「いつになったらブランカら、フロントは自身の責任を取るのか?」と、ここでも形を変えて主張している。モラッティへ「ブランカらの更迭という」はっきりした決断を迫るメッセージだ。言い換えればそれだけ、現フロントへの不平不満は高まっているのである。

Q10:インテリスタなのに、セカンドユニフォームをなぜ赤にできるのか?

今季のインテルが中国企業との提携による関係で、セカンドユニフォームをクラブ史上初の赤色(朱色)にしたことは、シーズン開幕前からインテリスタの間で話題になっていた。その中身と言えば、失望と溜息の声ばかりではあったが。

Inter away uniform

悪いことに、このセカンドユニフォームを着て望んだ試合の多くで、チームが好ましくない結果を残してきたのも災いした。途中からは昨季のセカンドユニフォーム、白地に青のラインのサードユニフォームを見る機会の方が多くなってしまったほどである。インテルというクラブには、とことん「赤」は相性が悪いということを、如実に物語る問いかけだろう。

あるいはそうしたクラブの伝統、ファンの心理を考えずに目先の利益にばかり走るフロントの姿勢を、暗に批判しているのかもしれない。

Q11:あなたの夢は父親と同じで、チャンピオンズリーグ優勝と言われていた。今は新スタジアムがもう一つの願望と言われる。いいでしょう。だが、インテルは?

夢ばかりを語り、現実にチームが現在置かれている苦境を救う、現実的な解決策を提示できないモラッティの姿勢を批判するものである。ただし、 「あなたがクラブのために多くの身銭を切ってきたことは知っているから、夢を見ること自体は尊重するよ。でも実際には、そんなことを語って浸っていられるほど、今のチーム状況は楽観できるもんじゃないでしょ? こっちをまず見てから言って欲しい」 という、一種の嘆願に近いニュアンスだ(日本語訳の関係上、そのように見えているだけかもしれないが)。

現地のファンが辛抱強く、批判というよりモラッティの心変わりや決断を望んでいること、そのために慎重に言動を選んだのではないかと考えると、逆にそれだけ危機的な状況にクラブがあるのだということを、実感できる問いでもある。

Q12:インテルを離れた人は、常にあなたのことを良く言うが、インテルのことは悪く言う。何故か?

まず、モラッティが多くの者が認める通り、純粋で誠実な人柄であること。直接の対立関係にある人物を除き、彼のことを悪し様に罵る関係者は、実質的に皆無と言っていい。 一方でこれは、 「その周りにいる者は碌でもない人間ばかりだ」 とも、 「その甘さが何人かの選手を堕落させることに繋がり、チームに悪影響を及ぼしている」 ことを批判をすることにもなる。もっと人を選ぶこと、贔屓の沙汰で現場を混乱させるんじゃない、というメッセージなのである。

スナイデルのケースなどは、その典型だろう。法外なサラリーを与え、特別扱いを続けた結果、本人は怪我も繰り返して、低調なパフォーマンスに終始した。他所に売ろうにも売れず、実力と素質を考えれば、およそ受け入れ難いコストでガラタサライへの売却を余儀なくされている。

こうした悲劇の温床にあるのは、あなたのその人のよさですよ・・・と、言い方を変えれば 「舐められてるんじゃねえよ」ということだ。

個人的な主観を述べれば、モラッティが変われるとは思えない。この歳まであれだけ、良くも悪くも純粋に育ち、生きてきた人物である。モラッティの欠点を矯正しようとすれば、魅力もまた失われてしまい、モラッティとしての特徴がなくなってしまう。成人した人間、しかも老年期に入った彼を変えることなど、神でもなければできはしまい。

だが、彼を取り巻く、実質的にクラブを動かしていく者を変えることは可能だ。帝王学は無理でも、家臣学は可能やもしれぬ。なればこそ、オリアリのように身を持ってクラブに尽くす、グルッポのために犠牲を払う人物が、これまで以上に求められているのではないかと思う。

以上、ざっと状況を整理してみたが、実際にはこの先、インテルはどうなっっていくのだろうか?

まず、一番の問題として複数回に渡って取り沙汰されているフロントについては、大きな変化をあり得ないと思う。クラブが昨冬の時点から進めてきた補強戦略と、今夏の補強戦略は密接に繋がっている。更には、今このタイミングで適切なコストでヘッドハンティングできる人材もいない。少なくとも、モラッティ自身はそう考えているはずだ。チームの怪我人と陣容の変化の大きさが、失敗の言い訳を許す格好の土壌も作り上げている。複数の要素を擦り合わせて考えてみれば、劇的な変化に動く可能性は少ない。

一方で、ピッチの中については、ある程度の変化が起こるだろう。とにかく最初から最後まで、怪我に泣いた1年の後である。来季は「いかに健康体で戦えるか」が、一つの大きなテーマになるはずだ。

必然、ベテラン勢への風当たりは強くなる。費用対効果の悪い順に放出候補はリストアップされ、昨年同様、複数人の契約解除もあり得る。換金化できる選手の少なさが、この状況を後押しするだろう。

指揮官の人事も流動的で、現時点では再三に渡ってストラマッチョーニの留任を強調しているモラッティだが、いつまたこれを翻すかはわかったものではない。ガゼッタ・デロ・スポルトは連日のように、ナポリのワルテル・マッツァーリの名を紙面にあげ、インテリスタの購買意欲を煽っている。来季の欧州CL出場権を確実のものとしながらも、今だ契約延長に踏み切らないでいるマッツァーリが、三顧の礼をもってインテルへと迎えられる……あり得ないシナリオではない。他にも、クラブOBで前フランス代表監督であった、ロラン・ブランが現在フリーでいるという状況も興味深い。首尾よくローコストで複数名の実力者を獲得できれば、犠牲を払ってでも指揮官交代に動く可能性は十分にある。

問題となるのは、やはり補強資金だ。自前のスタジアムを持たず、TVの放映権料以外に安定した収入を得られないインテルに、ユヴェントスのように銀行から多額の資金を調達してくるようなアプローチは使えまい。一部報道では、いよいよモラッティ会長が保有する株式のうち、“聖域”である50%を手放してでも強化に動くという話も見られたが、現時点では絵空事に過ぎない。よほど追い詰められない限り、モラッティがそこまでの犠牲を払う可能性は低いだろう。彼の息子と取り巻きの面々にとって、クラブ運営における直接的な影響力を失うことは、そのまま既得権益を失いかねない大事であるからだ。とは言え、身銭を切ろうにもFFPの影響を考えれば、これまた一筋縄ではいかない問題が生じる。もはや限界のところまでクラブが追い詰められていることは、疑いようのない事実というわけだ。

率直に言えば、今シーズンこそ背水の陣だった。それを失敗した以上、もはやモラッティ家を中心とした、フロントを含む現サイクルが劣勢を覆すことは奇跡に等しい難題だ。来季の苦戦はもはや約束されており、このまま「強豪」から「古豪」へと堕ちていく可能性の方がはるかに高い。

それでも、首の皮一枚のところでチームに希望を見出すとすれば、骨の髄までカルチョを知る主力組が、少なくとも半数以上は来季までは稼働可能であろうこと。加えてリッキー・アルバレスやジョナタンら、一昨季の投資組が、ようやく計算が立てられるレベルにまでカルチョの水に慣れてきたこと。つまり手持ちの戦力だけでも、少なくとも国内で上位進出を狙える最低限のリソースは揃っており、フロントワークと指揮官の手腕次第で、なんとか巻き返しが可能な状態にあるということだ。

皮肉にもヨーロッパ・リーグへの出場を回避できた(・・・)ことで、来季のインテルは国内の戦いにのみ集中できる環境が約束された。身体的な負担は勿論、勝利を義務付けられたプレッシャーからも開放され、ほぼカンピオナート一本の成否のみが評価される。総試合数が激減するため陣容のスリム化は必要になるだろうが、モチベーションの維持などは、今季に比べて格段に容易になる。

リスクも大きいが、リターンも少なくない。あらゆる意味で「All or Nothing」を体現するシーズンになりそうだ。

クラブに関わる全ての者にとって、刺激的な1年になることだろう。残る2試合の顛末と、夏の動きに注目したい。


筆者名:白面

プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。

ブログ:http://moderazione.blog75.fc2.com/

ツイッター:@inter316

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