プレミアリーグが開幕して一ヶ月余りが経過した。メスト・エジルをスカッドに加えたアーセナルが強さを見せる一方、デヴィット・モイーズ新監督率いるマンチェスター・ユナイテッドがスタートダッシュに失敗するなど、早くも様々なトピックスがサッカーファンを賑わせている。

そんな中、安定感のある戦いぶりで上位につける中堅クラブがある。サウサンプトン。吉田麻也、李忠成という2人のサムライが所属し、日本人の関心も高い“セインツ”(サウサンプトンの愛称)には躍進の気配が漂う。今回の当コラムでは「サウサンプトンに期待できる3つの理由」と題し、ダークホースと化した“セインツ”を分析していきたい。

理由①指揮官の巧みな手腕

ここまでのサウサンプトンが安定した成績を残せている最大の要因は、リーグ戦6試合でわずか2失点という鉄壁の守備陣だ。気鋭の青年監督であるマウリシオ・ポチェッティーノ(40歳)がチームに植えつけた前線からの徹底したプレスの機能性は抜群で、第5節ではリヴァプールを大いに苦しめた(1ー0で勝利)。

ナイジェル・アドキンスが率いた昨シーズンの前半戦は、とにかく失点が多く、守備陣よりも大エースのリッキー・ランバートを中心とした攻撃陣に活路を見出さざるを得なかった(リーグ戦22試合で失点40)。だが、後半戦から指揮を執ったポチェッティーノは、最終ラインを深めに設定することで課題とされていた守備を立て直すことに成功(リーグ戦16試合で20失点)。マンチェスター・シティ、リヴァプール、チェルシーといった強豪から勝利を収めるなど、新指揮官の手腕がチームを残留へと導いたのだった。

キャンプから指揮を執った今シーズンは、昨シーズンよりも最終ラインを高く保ち、前線からの連動したプレスでボールを奪う守備を徹底させている。これによってショートカウンターの切れ味が格段に増し、攻撃のバリエーションが豊かになった。ハードワークを第一に考える選手たちがキックオフから全力で飛ばしていくため、スタミナ切れが懸念されるところではあるが、試合展開を読む力に優れたポチェッティーノには心配ご無用だ。効果的な選手交代で試合の流れをコントロールする采配力はエスパニョール時代から高く評価されており、クレバーなセンターバックとして鳴らした現役時代同様、監督としても成功を収めそうである。

理由②満点に近い今夏の大型補強

ポチェッティーノが最終ラインを高く保つアグレッシブなスタイルを実践できるのは、今夏の移籍市場で実力者をチームに加えることができたからだった。その実力者とはデヤン・ロヴレン、ヴィクター・ワニャマの両名である。

フランスの名門リヨンから加入したロヴレンは対人戦の強さとカバーリングのセンスに優れたセンターバック。かつてはマンチェスター・ユナイテッドからの関心が伝えられた逸材で、クロアチア代表にも名を連ねている。前述したように、今シーズンのサウサンプトンは最終ラインを高く設定しているが、それが可能なのは、カバーリング能力が高いロヴレンの存在が非常に大きい。昨シーズンは吉田がディフェンスリーダーを担ったが、今シーズンはロヴレンがその責務を果たしており、加入1年目から新スタイルに欠かせない選手のひとりとなった。

また、スコットランドの強豪セルティックから加入したワニャマも既に欠かせない戦力となっている。ケニア代表としても活躍するこの大型ボランチのストロングポイントは、その身体能力の高さを活かした豪快なボールハント。その佇まいはまさに「バイタルエリアの番人」といった印象で、マンチェスター・ユナイテッド、アーセナルといったビッグクラブが関心を寄せていたのもうなずける。

更に、エスパニョール時代に指揮官の薫陶を受けたイタリア代表FWパブロ・オスバルドの加入も非常に大きい。サウサンプトンがクラブ史上最高額となる1500万ポンド(約23億円)を獲得に費やしたオスバルドは、数々の騒動を起こしてきたドラブルメーカーとしても名高い。だが、点取り屋としての能力の高さに異論の余地はなく、本職のセンターフォワードだけでなくウイングにも対応するマルチなストライカーである。昨シーズン、チームトップのリーグ戦15ゴールを挙げたランバートの負担を大幅に軽減することは間違いなく、大きなトラブルがなければ2桁ゴールは固いはずだ。

理由③若手有望株の成長

②で述べた新戦力の獲得により、チームの土台がグッと固まった。そして、その土台に更なる厚みをもたらしそうなのが、今後が楽しみな若手有望株たちだ。

まずは、昨シーズンに彗星のごとく現れ、瞬く間にレギュラーポジションを掴んだ左サイドバックのルーク・ショー。18歳とは思えない完成度を誇り、積極的なオーバーラップでサイドアタックを活性化させる。いかなる状況でも動じないメンタルの強さも特筆すべき点で、ゆくゆくはアシュリー・コール(チェルシー)級のSBへ成長することが期待されている。

そして、攻守両面で力を発揮できるセントラルミッドフィルダーのモルガン・シュネイデルランの存在感も際立ってきている。3列目からの飛び出しが武器のフランス人で、昨シーズンは5ゴールをゲット。守備の局面では的確なポジショニングと鋭い読みで相手アタッカーを封じる。今後の成長次第ではレ・ブルー(フランス代表の愛称)入りも果たせるだろう。

更に、正確な技術を誇るミッドフィルダーで、18歳ながらセットプレーのキッカーを任されているジェームズ・ウォード=プラウズや左右のサイドバックをソツなくこなすナサニエル・クライン、開幕スタメンを勝ち取ったユース出身の18歳カラム・チェンバース、昨夏に加入し、その左足の技巧からワールドクラス候補生と評されるガストン・ラミレス、そのプレースタイルがスコット・パーカー(フルハム)を彷彿とさせるジャック・コークなど、好タレントには事欠かない。

セオ・ウォルコット、アレックス・オックスレイド=チェンバレン(ともにアーセナル)、ガレス・ベイル(レアル・マドリー)などを輩出し、若手の育成に定評があるサウサンプトンで彼らがどのような成長を見せるのか。新戦力と若手逸材、そしてランバートやアルトゥール・ボルツといったベテランが高次元で混ざり合った暁には、1桁順位あるいはヨーロッパリーグ(EL)出場圏内でシーズンを終えていることだろう。まだまだシーズンは始まったばかりだが、昨年以上に“セインツ”のサッカーを楽しむことができそうだ。

2013/09/29 ロッシ


筆者名:ロッシ

プロフィール:エル・シャーラウィ、ネイマール、柴崎岳と同世代の大学生。鹿島アントラーズ、水戸ホーリーホック、ビジャレアルを応援しています。野球は大のG党。
ツイッター: @antelerossi21

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