ASローマ――今季、これまで無敗を誇るジャッロ・ロッソと共に、彼らを率いるフランス人監督ルディ・ガルシアの評価が急上昇している。若手指揮官アンドレ・ヴィラス・ボアスがトッテナム・ホットスパーを離れることになったことで、現在彼の招聘に興味を持っていると言われるほどだ。もちろんフランスリーグ時代に優勝歴があることから、その戦術的な手腕を評価する声も多かったものの、ガラパゴス化しているといわれる特殊なセリエAというリーグで、初年度から首位を走ることになるとは誰も予想していなかっただろう。

このようなASローマの好調とは対照的に、国内リーグで現在苦しむのが名門ACミランだ。組織上層部での様々なトラブルや、守備全体の弱体化などの要因によってスタートダッシュに失敗しながらも、常に「シーズン全体を観る」ようにチームを仕上げていく指揮官マキシミリアーノ・アッレグリと共に少しずつ上昇気流に乗りつつあるこのクラブは、好調を保つASローマにとっても決して「簡単」と考えられる相手ではなかったはずだ。

ローマのぶ厚いサイドを封じるための「4センター」

では、どのようにACミランがASローマを封じようとしたのかという点について考えてみよう。中盤の配置、そこにアッレグリは重きを置いた。ASローマの攻撃で最も脅威となる両サイドバックとウイングが絡むサイドアタック、フランチェスコ・トッティ不在でより両翼からの攻撃が中心となると読んだアッレグリは、そこを抑えていくために策を練った。中盤のトップ下的な位置でカカと並べてリッカルド・モントリーヴォを配したのには、攻撃ではなく守備的な側面での狙いがあった。本来中盤で守備的なポジションをこなす彼を守備時は中盤に下げることで「4ボランチ」に近いシステムを完成させたのである。純粋な中央のエリアというよりも、ボランチの両翼に出来るスペースを「カットインしてくる両ワイドのアタッカー」と「3センター」によって使っていくローマの攻撃を封じるために、ボールサイドにボランチの役割をこなせる選手を2人、中央を埋める選手を2人置くことによって純粋な4・4のゾーンというよりも極端にサイドに寄せた中盤4枚のゾーンを敷いた。ジェルヴィ―ニョやリャイッチが自由にポジションチェンジすることによって完成するローマのぶ厚く、枚数をかけたサイドからの攻めに対し、サイドに十分な枚数をかけて守ることによって封じようとしたのである。

milan-vs-roma

青いゾーンで囲われたエリアで数的同数を保ち、モントリーヴォをボランチの位置まで下げることによって中央にもしっかりと枚数を揃える。特に守備組織が整った状況において、この守備はローマのパスワークを狂わせた。ピアニッチとトッティの不在からローマが中盤での展開に苦しんだこともあり、何度となくミランはボールを中盤で奪い取ることが出来たのだ。複雑な動きを求められることから何度か中盤での連携ミスも見られ、ストロートマンの抜け出しから1失点を喫してしまったものの、攻撃力ではセリエ随一のASローマに対して上手く攻撃を封じ続けたことは評価していいはずだ。カウンターを上手く使いながら、ジェルヴィーニョの俊足を生かして反撃に出たローマも流石ではあったが、本来の攻撃と連動したプレッシングによる攻守一体の形は部分的に封じられていたといっていいだろう。

攻撃におけるアッレグリの狙いと、ローマの見せた強み

ACミランは攻撃において、トップ下においたカカと1トップのバロテッリを中心にシンプルなカウンターを仕掛けることを狙った。迅速な攻守の切り換えとプレッシャーでパスコースを限定し、高いラインでCFやトップ下への縦パスを奪い取ることをメインとするローマの守備体系に対して、強烈なフィジカルを持つマリオ・バロテッリに縦パスを入れていくことで相手の高いラインを押し下げながら、上手くファールを誘っていくことを目指したのだ。

しかし、イタリア代表FWを前にしても絶好調のローマ守備陣は完璧な対処をし続けた。特にウディネーゼでも活躍したメディ・ベナティアのプレーは圧巻で、この巨漢がASローマを支えていることを試合中何度も実感させた。常に冷静にプレーし続けることが出来るチームの中心、カカでさえ苛立ちを隠しきれず試合途中でイエローカードを貰ってしまったことが象徴しているように、バロテッリとカカだけでの攻撃はローマ守備陣を終盤に来るまで突き崩すことが出来なかった。カウンターが上手くいかなかった際に、左サイドのエマヌエルソンや、モントリーヴォを前線の2人と絡ませることで手数をかけた攻撃を仕掛けていきたいところだったが、そこが上手く機能しきれなかったのが大きな課題だった。

ただ、この戦術を繰り返すことは、後半疲労によってプレーの精度が落ちたASローマ守備陣を少しずつ押し下げていくことに繋がった。終盤は何度もバロテッリがラインを押し下げながら上手くポストプレーをこなし、ファールを貰ってチャンスを作っていたように「試合を通してみれば」攻撃の大半をバロテッリに任せたことは英断だったといっていいかもしれない。アレッサンドロ・マトリの投入も、バロテッリ1人に苦しむDFラインを更に混乱に陥れることに繋がった。バロテッリによって押し下げられたDFラインと中盤の間に生まれたスペースを、ムンタリが上手く使ったことで2点目のゴールも生まれている。

本田圭佑の居場所とミランの理想形

本田圭佑とアディル・ラミ。冬に加入することが既に決定している2人のプレイヤーは、ミランに様々な武器をもたらしてくれるはずだ。特に今回のようなスタイルを使う場合、本田は攻撃面でカカとバロテッリをサポートしていくような仕事が求められる。指揮官アッレグリも、移籍を主に統括するガッリアーニも「クリスマスツリーでのトップ下起用」を仄めかしているように、恐らく起用があるとすればカカ、バロテッリと共にピッチに立つことになるだろう。特にここ数試合サイドでのプレーを意識的にこなそうとしているバロテッリに代わり、ポジションチェンジしながら高い位置でフィジカルを生かして起点になる仕事が本田圭佑にとって重要な仕事になるのではないだろうか。また、カカがアッレグリのチームにおいて「低い位置に下がりながら」のプレーを意識的にこなそうとしていることもあり、本田圭佑にはゴール前でのプレーでバロテッリと連携していくことが求められる。日本代表において柿谷、香川といったプレイヤーと近距離でプレーすることに慣れているのは大きなメリットで、恐らくクリスマスツリーでの「狭い局面での」崩しは本田圭佑というプレイヤーの強みを生かしていく上で役立つはずだ。

とはいえ、必ずしもプラス要素だけではない。テベスやヨベティッチのような世界レベルのアタッカーが口を揃えて「アタッカーは全くスペースを与えて貰えない」「アタッカーにとっては世界一厳しい環境」と語るように「堅牢な守備」は伝統的にセリエAというリーグを象徴するものだ。少しでも調子を崩してボールを自ら持ちがちになれば、簡単に囲まれてしまうことも忘れてはならない。また、バロテッリとカカというチームの絶対的中心を助けるために守備面でもある程度の貢献が必要となるだろう。このローマ戦のように中盤を厚い3センター「+1」のような形で守り、カカやバロテッリを中心とした攻撃を狙うことは強豪相手では1つの理想形になるはずだ。ここで本田圭佑がリッカルド・モントリーヴォのポジションに入れれば、モントリーヴォを本来のポジションである3センターの一角に加えることも出来る。そうすれば中盤の底からの組み立ては明らかに質が向上するし、よりカカやバロテッリにいいボールが入ることも増えるだろう。そうなってくれば本田圭佑にも多くのシュートチャンスは訪れることになる。

必ずしも10番はプレーメーカーを意味しない。ACミランの10番の前任者プリンス・ボアテングのように献身的に守備をこなし、その得点力を十分に発揮するフィニッシャーとしての役割をこなしていければ、本田・カカ・バロテッリというイタリア最高レベルの攻撃ユニットが完成する。非常に様々なフォーメーションを使いこなすマキシミリアーノ・アッレグリの指揮下で、本田圭佑がどのように変化を遂げるのか。恐らくW杯を控える日本代表にとっても、これは注目する必要がある部分なのかもしれない。


筆者名:結城 康平

プロフィール:「フットボールの試合を色んな角度から切り取って、様々な形にして組み合わせながら1つの作品にしていくことを目指す。形にこだわらず、わかりやすく、最後まで読んでもらえるような、見てない試合を是非再放送で見たいって思っていただけるような文章が書けるように日々研鑽中」
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