私はリヴァプールからロンドンへと帰る前にパブへと立ち寄った。店内は薄暗いが、その日行われるアーセナルとエヴァートンの試合中継を見ようという人々で溢れていた。私は一杯飲んだところでパブを後にしようと外へと向かった。人をかき分けて出入り口のドアを開けようとした時だった。出入り口の脇にあった椅子に腰掛けているオヤジが話をかけてきた。
「おい。なんでお前は赤い袋を持っているんだ?」
聞けば、どうやらオヤジはエヴァートンのファンらしい。エヴァートンの試合の日にパブで赤いリヴァプールの袋を持ち歩いていたのは悪かったかもしれないが、それでも前日にアンフィールドでの大勝(ウェストハムに4-1で勝利)が私の口を動かさせた。
「昨日も勝ったし、良いじゃないか」シンプルにそう返した。
オヤジは少し間を開けてから「俺はリヴァプールが嫌いさ、でも昨日はユナイテッドが負けたな。それは俺も嬉しかったぞ。でもリヴァプールは好きじゃない」
オヤジは笑顔でそう言うと再びテレビを見始めた。
赤なのか青なのか。それがリヴァプールのフットボールスタイルであるように私は思う。
ここである一本のイギリス映画を紹介したい。
2008年にイギリスで公開された映画『Reds and Blues ~The Ballad of Dixie and Kenny~』という一作だ。
このタイトルでこのサイトをご覧になられている方のほとんどはお気づきだろう。この映画はリヴァプールとエヴァートンのファンの日常を描いた作品である。
物語はエヴァートンファンの男、ディクシーがタクシー運転手に「青か?赤か?」と聞きまわる。そして「青だ!」と言ったタクシーに満面の笑みで乗り込む場面から始まるのだが、そんな根っからのエヴァートンファンの家にこれまたエヴァートンファンのディクシーの姉妹がやってくる。その日は隣に住むリヴァプールファンの男、ケニーの家でイスタンブールでの勝利を祝う大掛かりなパーティーが開かれることになっていた。そのパーティーを知ったディクシーはそれを阻止しようとあらゆる手を講じる。といった所が大雑把な流れだ。
この映画に登場する主人公の2人の名前、ディクシーとケニーは両クラブの伝説的プレーヤーの名である。ディクシーはエヴァートンでリーグ戦60ゴールを決めたディクシー・ディーン。ケニーはプレイングマネージャーとしてリヴァプールに、リーグとFAカップの2つをもたらしたケニー・ダルグリッシュから来ている。それと塀を挟んですぐ真隣りに住むリヴァプールファンとエヴァートンファンという設定。これも両クラブの関係性を絶妙に現していて実に面白い。知っている方もおられるであろうが両クラブのホームスタジアムの距離は公園を挟んですぐ隣に位置している。しかもそれほど大きくはない公園の真隣りだ。
この映画はフーリガンが登場するような暴力的な映画ではない。リヴァプールとエヴァートンの関係性や面白みが要所に散りばめられ、リヴァプールに住む、リヴァプールファンとエヴァートンファンの日常をコミカルに描いたどちらかといえばコメディ映画だ。この映画は両クラブのファン・サポーターのみならず、フットボールファンは必見の映画と言えるだろう。
「赤か?青か?」
この映画を見ることでリヴァプールという街のフットボールスタイルがどういうものか垣間見ることが出来るだろう。
<編集部より>
映画『Reds and Blues ~The Ballad of Dixie and Kenny~』のトレイラーはこちら
筆者名:羽澄凜太郎
プロフィール:現在ロンドン留学中。1993年1月25日生まれ。東京都多摩市出身。小学生の時は野球少年であったが小学6年の時に生で見たレアル・マドリーの面々に感動し、本格的にサッカーを好きになる。
中学卒業頃からライターを志すようになり、高校卒業後、専門学校東京スクールオブビジネスに入学。そこでマスコミやライター、編集などのノウハウを2年間学ぶ。
ツイッター:@randyrin