2003-04シーズン以来の優勝に向けて、激動の2ヶ月がスタートしたアーセナル。2000-01シーズン以来のグーナーである筆者も、なけなしの所持金の中から優勝を狙うクラブの運営費の少しでも足しになれば、とクラブ会員に加入し、今季はエミレーツ・スタジアムで現地観戦も決め込んだ。帰国後もクラブ会員特典であるマフラーで寒さを凌ぎながら、週末の夜はテレビの前にかじりつき吉報を待つ日々だ。

しかし、ドルトムントばりのハイプレスで真っ向勝負を挑んできたリヴァプールに歴史的な敗戦を喫した前節。試行錯誤を繰り返し、本調子からはほど遠いマンチェスター・ユナイテッドを相手に、見せ場少なく引き分けた今節を見る限り、チェルシー、マンチェスター・シティの優勝を予想する声が大半を占める現地識者の声に納得せざるを得なかった。

今季のアーセナルのスカッドに目を向けると、ある事実に気づいた。南米出身の選手が0なのだ。経済学のマスターという経歴を持つベンゲルらしい数学的で効率性を重視するフットボールに、勝負所を知り、時にはずる賢いプレーでチームに献身を尽くすDMFと、独特のリズムと圧倒的な得点感覚を持つFWと、有機的なプレーが期待できる南米の選手が加われば・・・。良くも悪くも”優等生”タイプで、堅実なポストプレーと前線からのプレッシングは評価できるが、決定力と裏への抜け出しに課題を残すジルー。純粋なDMFはフラミニだけという、フィルターとなる選手の不足からくる、強豪を相手にした際の中盤の安定感の欠如。シーズンも終盤に差し掛かりつつあり、ハイプレスへの対応など課題も明白となりつつある今こそ、戦術の幅を広げる意味でも来期以降の、足りないピースを埋める選手を渇望しているグーナーもいるのではないか。

“南米出身選手”と一括りにするのは、危険な認識であることは承知で言わせてもらいたい。

コシュルニ、ラムジーがワールドクラスの選手に成長した現在のスカッドに、ラテンのリズムとマリーシアというスパイスを加えたアーセナルを見てみたい。来季就任2年目を迎え、2年目に必ず結果を残してきたモウリーニョ率いるチェルシーと、圧倒的な攻撃力でプレミアリーグを席巻するマンチェスター・シティに対抗できる可能性を“南米選手”に託してみたい。

プレミア上位チームに見る南米選手の貢献度

セリエAやリーガエスパニューラと比較して、南米出身の選手の活躍が難しいと言われてきたプレミアリーグ。事実アーセナルも、2000年以降ジウベルト・シウヴァを除けば(エドゥアルド・ダ・シウヴァは国籍の問題から参考外)レギュラーとして活躍した選手は皆無。準レギュラークラスもエドゥーのみだ。しかし、現在のリーグ上位の各チームのスカッドに目を向けると、時代の変化を感じざるを得ない。

・チェルシーFC
ダヴィド・ルイス、ラミレス、オスカル、ウィリアン、ルーカス・ピアゾン (フィテッセへレンタル移籍中)

・マンチェスター・シティFC
フェルナンジーニョ、パブロ・サバレタ、セルヒオ・アグエロ

・リヴァプールFC
ルイス・スアレス、フィリペ・コウチーニョ、ルーカス・レイヴァ、セバスティアン・コアテス

・マンチェスター・ユナイテッドFC
ラファエウ・ダ・シウヴァ、アントニオ・バレンシア、ギジェルモ・バレラ、アンデルソン (フィオレンティーナへレンタル移籍中)

・トッテナム・ホットスパーFC
ゴメス、パウリーニョ、エリック・ラメラ、サンドロ

マンチェスター・ユナイテッドを除けば、各チームセンターラインを中心に、南米の助っ人選手が強烈な存在感を放っている。特にチェルシー、マンチェスター・シティ、リヴァプールは南米選手が抜けると大幅な戦力ダウンは避けられないだろう。

アーセナルが狙うべき選手達

今回は、特に補強ポイントとして優先順位の高いFW、DMFのポジションで、移籍金も考慮しつつ、アーセナルに適応する可能性のある南米出身選手を大胆にも予想してみたい。

【FW】

・カルロス・バッカ (セビージャFC)

 

リーガファンにはお馴染みですが、非常に身体能力の高い選手です。裏のスペースに抜け出すスピード、ボディバランスともに一級品です。ハイプレスを掛けてくる相手にとって、そのスピードは脅威となり、アーセナルに新しい攻撃パターンをもたらせてくれそうです。移籍金、競合相手などのコスト面を考慮しても、現実的に獲得を考えられる選手と言えるのではないでしょうか。

・ルイス・ムリエル(ウディネーゼ・カルチョ)

 

個人的には第一希望と言える選手。昨年度のセリエA年間最優秀若手選手賞をエル・シャラウィと共に受賞しています。戦術理解度はまだまだ高いとは言えませんが、セリエの組織された守備陣を1人で切り崩していく個人技は圧巻。ミドルレンジからもゴールを狙えるシュート力も兼ね揃え、ドリブル技術、スピードはカルチョの国でも異彩を放っています。ゴール前での細かい崩しが信条のアーセナルサッカーにもハマりそうで、カウンターが苦手なチームの新しい武器となるでしょう。ただ、強豪相手も多く移籍金の高騰が予想されます。しかし、そこは奮発して是非獲得を狙って欲しい選手です。

・ジャクソン・マルティネス (FCポルト)

 

毎年移籍市場にその名が上がるフィジカルモンスター。最大の魅力は、左足、右足、ヘディングと、どんな形からでも得点を狙える得点力。ただ、こちらも高額な移籍金がネックとなり、現実的には厳しいかもしれません。ただ対戦相手によってジルーと使い分けることで、有効なオプションとなることは間違いないでしょう。

・イグナシオ・スコッコ(サンダーランドAFC)

 

大穴でアルゼンチン出身の点取り屋を。アルゼンチンでは有名な選手ですが、欧州では無名と言えるスコッコ。特筆すべきは、そのシュート技術。毎年10点近いゴールを重ねてきています。28歳という年齢と、アーセナルで成功したアルゼンチン人がいないこと、代表歴の問題もあり、ベンゲルが獲得に動くことはなそうですがレンタルで欲しい選手です。

 

【DMF】

・ルイス・グスタボ (VfLヴォルフスブルク)

 

昨夏も話題になったグスタボは、守備力・ボール奪取力だけを見るとこのポジションでは世界でも有数の選手と言えるでしょう。足下の技術も水準以上。CBもこなせるユーティリティ性も、CBの選手層に不安を抱えるアーセナルにとっては魅力的です。ヴォルフスブルクと長期契約を結びましたが、ワールドカップを見越しての移籍の可能性もあります。ワールドカップが終わる今夏に再チャレンジをして欲しい選手です。中盤底で強力なフィルターとして、今後3年は安泰と言える活躍をしてくれると思うのですが・・・

・ビクトル・カセレス (CRフラメンゴ)

 

パラグアイ代表として2010年ワールドカップにも出場した同選手は、パラグアイ人らしい強固で粘り強い守備に特徴があります。CBも兼任可能で、中盤のフィルター役として適任な人材と思っています。28歳という年齢と、欧州経験のなさはベンゲルにとっては大きなマイナスポイントになるでしょうが、移籍金も手頃となるはずなので、獲得を目指して欲しいですね。

・レアンドロ・ソモサ (CAラヌース)

 

こちらはレンタルでの移籍を希望。33歳となりましたが、アルゼンチンでは知れた選手です。プレースタイルは強力なフィルターというよりは、レドンドのスケールを小さくさせたという表現が当てはまるかもしれません。スペインではレギュラーを獲得できませんでしたが、年齢を重ねるにつれて読みの鋭さが増しています。ベンゲルの今までの補強実績を見る限り、来季もDMFの獲得がなし、ということは十分考えられます。フラミニと衰えが見え始めたアルテタだけでは心もとないので、大型ボランチを獲得するまでの繋ぎ役として、どうでしょうか。

 

番外編【DF】

・ニコラス・オタメンディ(アトレチコ・ミネイロ)

 

非常にボリバレントなDFで、守備的なポジションならある程度どこでもこなせます。アルゼンチン代表でも、21歳の若さで招集された経験もあり、バレンシアが1000万€を超える移籍金で獲得したことでも話題となりました。スピードと空中戦の高さに定評があり、足下の技術も高いです。サニャのバックアップ、CBの4人目として活躍を期待。ポテンシャルなら、レギュラークラスと引けをとらないはず。カップ戦やチャンピオンズリーグで上手くターンオーバーができていない現在のDF陣の事情を踏まえると、コシュルニとメルテザッカー、サニャを休ませる意味でも、効果的な補強になると思います。

 


筆者名:栗田シメイ

プロフィール:ライター・編集者。南米、アジア、中東、欧州と30ヶ国以上で取材を重ね、情報誌・webサイトなどに寄稿。
突撃取材など、体を張ったネタが得意です。6月に「南米と日本をつなぐもの達」(ギャラクシーブックス)を発売予定。応援するチームは、アーセナルFC・サンパウロFC・ビジャレアルCF。
ツイッタ ー:@Simei0829

【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名

ラッシュフォードの私服がやばい