想定範囲内の結果に落ち着いた――というのが、まず率直な感想だ。
浦和の人種差別横断幕に対して協会が下した判断は、ホームスタジアムでの無観客試合。言うまでもなくJリーグ史上初の処分であり、無人のスタジアム内で11人と11人が戦うというのは、欧州の主要リーグでもなかなかお目にかかれる光景ではない。言うまでもなく厳罰だろう。
協会以上に強い指針を打ち出したのが浦和のフロントだ。件の横断幕を掲げた当事者は勿論、関連サポーターズグループのメンバー全員に対し、無期限の入場禁止を発表。更には暫定的とは言え、すべての浦和サポーターに横断幕の使用とヤジの禁止を求めるという、極めて強硬な対応である。サポーターの反応次第では、いつまでこの状態を引き伸ばすのかは不明瞭な状況だ。
両者は、どちらもベターではあるが、ベストではない爪痕を刻んだという点では共通している。まず協会の判断については想定内だが、それだけに残念な印象が強い結果になってしまった。
彼らが浦和に下した処分の問題点は、以下の通りである。
(1)自浄作用を促すという点で、勝ち点没収に比べ効力が弱い
(2)浦和サイドだけならともかく、次戦の対戦相手であった清水のサポーターは完全にとばっちり。宿泊施設や交通機関の予約(無論アウェーのバスツアー等)への対応にも明確な言及がなく、前もって準備していた客に対しての保証が未知数。
(3)上記理由から、『一握りの暴徒のために、顧客全体が損をしかねない』というイメージを内外に広めてしまった。
この内、(1)については以前に私のblog内でも触れているため、詳細は割愛させていただく。要約すると、多大な損益という点でフロントへの制裁としては強力だが、レイシストに対する影響が、比較的短期間で弱まってしまう問題があるという話である。
スタジアムへの入場が不可能とはいえ、あくまでも一試合は一試合である。騒動の規模からも一時は鳴りを潜めるだろうが、愚か者ほど忘却は早いもの。時が経てばまた形を変えて、何らかの形でレイシズムが台頭する危険性が高い。こうした背景から、今季いっぱいは痛みの続く勝ち点剥奪を筆者は主張した訳だが、協会もそこまでは踏み切れなかったのだろう。学生のテストで例えるなら、60点で赤点は回避だが、80点に到達できなかった以上、優の成績を与えるには到らず…といったところか。
(2) については、ある意味では浦和の対応を見定めるという懲罰的な意味合いを含んでいるのだろうが、一方で明確な基準を設けなかったことで、最悪の場合訴訟にまで発展しかねないリスクがあった。そうなっては、Jリーグ全体の更なるイメージダウンは避けられなかったはずで、協会側の認識の甘さ、メディア戦略の不足を嘆かずにはいられない。
最終的には16日、浦和側が宿泊費のキャンセル料などを含め、損害を証明できる書類を用意すれば保証に応じるという形で、リスクは一応の決着を見た。とは言え、悪質な観戦者や業者が悪意を持ってこれに臨めば、更なるリスク発生の可能性は今もって残ってしまっている。
何よりも、大事な顧客(それも万単位だ)に不要な労力・損害を招いたという過失は動かしようがない。We are Reds の精神でフロントとサポが痛みを分かち合える浦和側はまだしも、清水側は120%のとばっちりだ。リーグとクラブの、ある意味では勝手な都合で、大切な顧客に多大な迷惑をかけたことになる。
(3) の『日本国内における、フットボール全体のイメージダウン』は更に深刻な問題だ。 周知の通り、この処分についてはNHKや報道ステーションのトップニュースで扱われた。ネガティブな出来事ばかりが取り上げられることに嘆きや憤りの声を漏らしたサポーターは、相当数存在だろう。各メディアの報道を見てみれば、清水サポーターは勿論、大多数の浦和ファンの受けた損害も深刻であることを、殊更に強調するようなニュースが目立つ。
筆者としては、人権侵害、しかも人種差別という決定的な問題を公の場で起こしてしまった以上、この大々的な報道自体は当然のことと思う。実際フジ以外の民放各社は、スポーツニュースではなく社会的ニュースとして問題を取り上げていた。世間の関心の高さがうかがえる。
それほどに、差別は重い。
有耶無耶に隠蔽した場合こそ言語道断で、悪い意味での注目は、ある種必然の罰とさえ言える。悔しさを噛み締めてはいるが、それ自体に文句をつけるのは筋違いだろう。粛々と受け止め、再発防止に努めていくしかない。
問題なのは、一部の問題客とクラブ側の対応の甘さが原因で、9割9分の他の顧客にも害が及ぶスポーツですよ――と喧伝されてしまったということの方である。メディアとしては当然の対応なのだが、実に始末が悪い。
勝ち点の剥奪であれば、当事者である浦和の関係者以外には、直接的に金銭のダメージは発生しないで済んだ。差別行為を行った、その行為に加担した者は厳しく罰するが、それ以外の顧客は保護できていた。無論どちらの道を選んだところでリスクは発生してしまうが、特に対外的なデメリットという点では、無観客試合の方がはるかに大きい。
あるいは今後、この注目を逆手に取って、人種差別撲滅を促すキャンペーンなどを展開していくというのであれば話は別だろう。しかし、現時点で協会に具体的な動きはない。今後続けて何らかの補助的な施策を打っていかない限り、
「面倒なことは全てクラブに任せる。お前ら、今後はしくじるんじゃないぞ――」
という、恫喝的な対応と取られてしまっても仕方がない。総じて、前向きに発展的変化を促進する決定ではない印象が強い。
その(2)へ続く。
筆者名:白面
プロフィール:だいたいモウリーニョ時代からのインテリスタだが、三冠獲得後の暗黒時代も、それはそれで満喫中だったりします。長友佑都@INTERの同人誌、『長友志』シリーズの作者です。チームの戦術よりも、クラブの戦略を注視。
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