☆セレソンの爆発力とトラウマ?

別の規準として、「何点差で勝つか」というのも当然出てきます。W杯もJリーグでも、勝ち点が並べば「総得点」ではなく「得失点差」ですし。

<図3>は、W杯全試合での得失点差別の試合数です。つまり、「0」の場合は引き分けかPK戦決着ですし、マイナスならば負け試合となります。

<図3>各チームの得失点差別試合数

全体としてマイナスに傾くメキシコを別として、「ビッグ4」はいずれも1点差での勝利が最も多いのが分かります。特にイタリアはブラジルより2試合多い28試合がここ。それは「2-1」が多いためで、イングランド戦での勝利で13試合目となって「1-0」と並びました。

そして2点差になるとブラジルが一番多くなり、3点差では圧倒的に。他の4チームを合計しても17試合なのに、ブラジルだけで16試合です。もちろんこれは、<図2>でも挙げた圧倒的な破壊力の賜物です。

ところが、4点差以上の「圧勝」になると、ブラジルの試合数は一気に減ります。いろいろな理由は推測できるでしょうが、「試合が決まったらペースダウン」というのがセレソンの暗黙の了解かもしれません。実際に2006年、あの日本戦では4-1になった後は明らかに体力温存も見据えて試合を流し、怪我でもないのに控えGKのロジェーリオ・セーニを起用する余裕を見せられました。ブラジルの全国カップ戦、「コパ・ド・ブラジル」でも、本大会の1回戦と2回戦(勝てばベスト16)でも、「第1レグでアウェーチームが2点差以上で勝った場合、第2レグは中止し、第1レグの勝者が勝ち上がる」システムです。

もう一つの理由は、悲しい過去かもしれません。ブラジルが最も点差を付けたのは6点差で、それに続いて5点差が2試合ありますが、1950年W杯の決勝リーグの2試合では立て続けにこの圧勝が記録しされました。スウェーデンに7-1、スペインに6-1で、2試合合計で13得点というスコアは、「自国での初優勝は確実」を思わせるのに十分でした。最初に画像を乗せた同大会の得点王、アデミール・マルケス・ヂ・メネゼスも、スウェーデン戦で4点、スペイン戦で1点を決めています。だからあの「マラカナンの悲劇」の落差が、あまりにも衝撃的なのでしょう。

☆手抜きをしないドイツ、勢いに乗るアルゼンチン

では、<図3>に戻りましょう。

ブラジルと違い、ドイツは大量得点差の試合をどんどん記録しているのが分かります。2002年には初戦の札幌ドームで大会史上2位となる8点差を付けてサウディアラビアを粉砕しましたし、その12年後の初戦では今度はポルトガルを4-0で倒し、この点差での勝利数でも5試合でブラジルに並びました。自分の現役時代から変わらないこの「容赦のない」姿勢を知り尽くしているからこそ、ポルトガルから勝ち点3を奪い損ねたアメリカのユルゲン・クリンスマン監督は渋い顔をしたのでしょう。第3戦、ドイツが2点差以上でアメリカに勝つとガーナに「勝てばベスト16」のチャンスが巡ってきます。あの90+5分のゴールは「両者リングアウト」を告げたかもしれないのは、あの雰囲気を作った観客も良く知っていたでしょう。

この流れは、現在の32チーム制が成立した1998年以降の5回の大会を切り出すと、より鮮明になります。<図4>では、1930年から2014年までの全大会と、第16回にあたる1998年フランス大会以降について、各チームの全試合合計と、勝ち試合に限定した場合の得失点差の1試合平均値を比べました。

<図4>各チームの1試合得失点差平均の変化

各試合の平均値を見ると、全体ではブラジルの方が高いのに対し、最近はドイツが上回っているのが分かります。W杯全体のゴール数は減少傾向ですが、ドイツの得失点数は全体で0.92→1.29へと0.37、勝利試合でも1.98→2.25で0.27増加しています。ブラジルは勝利試合の得失点差が2.09→1.95となり、2を境にしてドイツと入れ替わりました。イタリアも全試合・勝利試合の両方で微増にとどまっています。

そんな中、急速に全試合での得失点値を上げているのがアルゼンチンとメキシコです。アルゼンチンは0.57→1.00となって1点に乗り、0.76のイタリアを抜きました。また、1994年のアメリカ大会から5大会連続でベスト16に進んだメキシコも、最近では全試合での得失点差をプラスにし、勝利試合でもブラジルとの差が縮まっています。特にアルゼンチンでは、リオネル・メッシはこの躍進にまだほとんど絡んでいません。セルビア・モンテネグロを6-0で破って28年ぶりの最多得点差記録を作った2006年のGLでは75分からの途中出場で大会初ゴールを決めましたが、1998年のGLでジャマイカを5-0で圧倒した時には11歳の誕生日になる直前、母国でホルモン異常の低身長症に悩まされている時でした。彼が本格的に貢献できた時、3度目のワールドカップは確実に近付くでしょう。

そして、もう一つの気がかりは、やはりメキシコにスコアレスドローとなったセレソンです。このコラムを書いている時、まだブラジル-カメルーン戦とメキシコ-クロアチア戦の結果は分かっていません。いつものようにチームが完全崩壊したカメルーン相手ならブラジルはイージーモードしょうが、ひょっとしたらメキシコのゴールラッシュにあって、まさかの2位通過という可能性も、否定できないのではないでしょうか。もしそうなったら、決勝トーナメントは全てのチームの打算が狂って大混乱になるでしょうが……。(※編集部注:ブラジルはカメルーンを4-1で下し、無事グループ1位で決勝T進出を果たしました)

最後に、いろいろな「勝ち方」についての各チームの試合数を出してみました。

これからは試合の間のインターバルが2時間あるので、その間にでもぜひ、皆さんのサッカー談義のおつまみにしていただければ。

<表2>各チームの「勝ち方」一覧

☆クイズ・ドイツ最大の「お得意さま」は?

では、最後のクイズは、ドイツについて。

何度か触れたように、ドイツはここまで101試合を戦い、「65勝16分20敗、212得点119失点で得失点差93」という成績を残しました。もちろんその中には、何度も対戦した国も、一度しかやっていない国もあります。日本がドイツと対戦するのはいつになるでしょう……となると答えは一体いつ出るのか分からなくなりますね(笑)。

今までの中で最もドイツに大敗したのは、これも文中に挙げたサウディアラビアです。札幌での0-8は、本当にもう何とも形容のしがたい物でした。しかし、この1試合だけでは、この国は「ドイツに最もやられた国」にはなりませんでした。

そう、これが今回の問題です。この101試合全体で各国別の対戦成績を整理すると、最もドイツが得失点差を稼いでいる「お得意さま」はどこでしょう。これは意外と簡単かもしれませんよ。また、この国は「あっちの方」とも深い因縁があります。


筆者名:駒場野/中西 正紀

プロフィール: サッカーデータベースサイト「RSSSF」の日本人メンバー。Jリーグ発足時・パソコン通信時代からのサッカーファン。FIFA.comでは日本国内開催のW杯予選で試合速報を担当中。他に歴史・鉄道・政治などで執筆を続け、「ピッチの外側」にも視野を広げる。思う事は「資料室でもサッカーは楽しめる」。
ホームページ: RSSSF
ツイッター: @Komabano
フェイスブック: masanori.nakanishi

【厳選Qoly】なぜ?日本代表、2024年に一度も呼ばれなかった5名

ラッシュフォードの私服がやばい