まさにドラマのようだった。一体誰がこんな結末を予想できただろう。

9月21日に行われたプレミアリーグ第5節マンチェスター・シティ対チェルシーは、1-1の引き分けに終わった。今後のタイトルレースを左右する対戦として戦前から大きく注目されたビッグカードだが、結果は白黒つかない痛み分けに。それでもこの試合は、単なるドローゲームではなくこの先もずっと語り継がれる珠玉の一戦となったに違いない。

張り詰める緊張感がこう着状態を招き、長らく睨み合いが続いた。そんな戦況を動かしたのは、66分のサバレタの退場劇。シティサイドの納得いかない様子を尻目に、ここぞとばかりにチェルシーが先制ゴールを決めた際は、そのまま試合のペースも傾くかに思われた。

ところが78分、スタジアム全体の空気が一変。きっかけはペジェグリーニ監督によるランパード投入の采配だった。

これまで13年間に渡ってチェルシーに尽くしてきた“青の象徴"が、いよいよ本当にシティの選手として立ちはだかった。わずか3か月余り前に退団したばかりのヒーローに対してチェルシースタンドから盛大な歓声が起こる一方、ピッチ上の元チームメイトたちはどこか落ち着かない様子を浮かべている。そして――。

7分後、そのランパードが同点弾。古巣への想いが込み上げ、ゴールを喜べないその姿がドラマティックな幕引きをさらに引き立てた。また、シュートブロックに行ったのが13年間ずっと一緒にやってきた主将テリーだったこともサポーターの胸を打った。

この歴史的一戦を現地で観戦した日本人がいる。チェルシーサポーターの濱口麻里奈さん(ツイッター: @marilyn_1003)と、高橋なおこさん(ツイッター:@naos29)だ。互いに試合結果には納得していないものの、思いもしない展開とその後のランパード、チェルシーサポーターの感動的なやり取りに涙せずにはいられなかったという。

▼濱口麻里奈さん

「ゴールを決められた時は、私も含めて多くのサポーターが何が起こったのか分からずにいました。その後、場内放送で得点者の名前がアナウンスされると完全な無音になって、まるで時が止まったような状態に。

それでもジワジワと歓声が戻ってきて、最後は本当に大きなスーパーフランクのチャントが響き渡ったんです。しかもシティサポーターも含めてですよ。たった今ゴールを許した選手のチャントを相手サポーターと一緒に歌うなんて普通では絶対に考えられませんが、この時ばかりはみんなが迷うことなく歌っていました。

それだけでも十分すぎるほど感動的でしたが、さらに涙を誘われたのは試合後のランパードの振る舞い。終了のホイッスルが鳴ってシティサポーターに拍手を送った後、すぐにチェルシースタンドの目の前まで来てくれたんです。そのままかなり長時間いて、最後の最後まで振り返りながら声援に応えていました。

正式に発表されたマン・オブ・ザ・マッチはマンガラでしたが、場内スクリーンはずっとランパードを映していましたし、帰りの電車も彼の偉大さについて話す人でいっぱいだったので誰が真の主役だったかは言うまでもありませんね。この日見たバナーは、いつもより一層輝いて見えた気がします」

▼高橋なおこさん

「まず何と言ってもランパードの登場シーンが最高でした。出てきそうな雰囲気になると、みんなカメラを向けて準備するんです。そしていざ出場することが分かるとスーパーフランクチャントの大合唱。シティの選手としての出場とは言え、プレーする姿を見られて私も素直に嬉しかったです。その時の様子を動画で撮影してきたのでぜひ見ていただけたらと思います。

試合中の野次り合いも面白かったです。実際に歌われたチャントの歌詞は"He's won more than you"なのであくまでも私個人の捉え方なのかもしれませんが、シティサポーターが『俺たちのフランク・ランパードだ』と煽ったのに対して、チェルシーサポーターが『いや、ランパードは俺たちのだ』と返しているような気がして。失点したのはとても残念でしたが、『決めたのがランパードなら』と思うところはやっぱりあります。もしあれが普通にアグエロのゴールだったら、こんな風には思えなかったはずです。

終わった後のやり取りは今振り返っても言葉になりません。私はランパードの写真を撮るためにカメラ越しにアップで追っていましたが、サポーターに挨拶しながら涙をぬぐっているように見えました。ブーイングは一度も起こりませんでしたし、最後まで彼のチャントを歌い続けたチェルシーサポーターの温かさに感激です。本当に素敵なチームだと改めて思いました」

退団後、「しっかりとした形でサポーターとお別れできなかったことを悔いている」と語ったランパードは、やはりこの展開に思うことがあったのだろう。試合後のインタビューでも、チェルシーに対するコメントを感傷的になりながら口にした。

(シュートをブロックしようとしたのはテリーでしたね?)

「ああ、そうだね……。ちょっと、なんて言ったらいいのか分からない」

(テリーは試合後になにか言っていましたか?)

「『やっぱり(こうなると分かっていたよ)な』と言われた」

(今の気分は?)

「複雑だよ。試合に出るからにはプロフェッショナルを貫く必要があるし……。でも、得点して自分自身が一番驚いている。チームのドローに貢献できたのは嬉しいけどね。

ただ、本当に何と言ったらいいのか分からないんだ。こんな風に出場して得点するとは思っていなかった……。交代出場してチェルシーファンが『スーパーフランク』を歌っているのが聞こえた時は感激した」

※和訳提供:バイリンガルのチェルシーサポーターjunkoさん(ツイッター:@junkoxoxoxoxo

今夏このチェルシーの英雄が青いユニフォームを脱がなければならなかった理由は、契約満了を迎えたことと若返りを図るチームの構想から外れたことだ。クラブ側から延長オファーを貰っていれば、迷わず残っていたとはっきりコメントしている。ただ、どんな経緯で退団しようと、たとえ次の行き先がタイトルを争う直接のライバルチームであろうと、チェルシーへの想いは少しも変わっていなかった。

今回の件を通じて改めて確認したことだろう。フランク・ランパードは今なおチェルシーの誇り、それも「別格の」レジェンドだ。このことは永遠に変わらない。


著者名:小松輝仁

プロフィール:長野県在住のサラリーマン。中学時代にチェルシーに魅せられ、サッカーの「観る楽しさ」に気付く。その魅力を広く伝えるため一度はサッカーメディアに拾ってもらうも、途中で無謀な夢を抱いて退社。現在はその夢を叶えるために修行中。

ツイッター: @blue_flag_fly

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