Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊によるレポートをお届けします。

かつては数名に限られていたヨーロッパでプレーする日本人選手:通称「海外組」。それがいまや200人を超える選手数となっています。この激増によって約20年前と今でどのようにサッカーをとりまく環境が変化したのか、比較しながら説明していきたいと思います。

2002年のサッカー報道環境 

2024年時点、ヨーロッパでプレーする日本人サッカー選手は1部、2部、そして3部以下まで含めれば200人を超えている現状となっています。一方で約20年前の2002年日韓W杯当時はどうだったのか、比較していきながら「海外組8人の時代から200人超えの時代へ」について話していきたいと思います。

2000年代においてはヨーロッパクラブ所属の日本人選手(A代表経験者)は限られていました。2002年日韓W杯直後ならば以下の通り。

・高原直泰(ドイツ:HSV)
・鈴木隆行(ベルギー:ゲンク)
・中田英寿(イタリア:パルマ)
・中村俊輔(イタリア:レッジーナ)
・稲本潤一(イングランド:フルハム)
・小野伸二(オランダ:フェイエノールト)
・廣山望(ポルトガル:ブラガ)
・川口能活(イングランド:ポーツマス)

2002年日韓W杯直後は完全にサッカーバブルが起きていました。2024年の今、最近サッカーに触れ始めたファンからすると俄には信じられない状況だったことを伝えておきたいと思います。具体的には以下の状況でした。

(1)メディア報道

・サッカー専門番組以外の民放ニュース番組においても、数秒ながら海外組各選手の活躍が報道されていた。

(2)有料放送視聴

・スカパーで欧州各国リーグごとに視聴可能な契約が用意され、日本人選手所属に合わせて「イタリアライブ」、「オランダライブ」、さらにはゲンク所属・鈴木隆行のプレーを視聴するための「ベルギーライブ」が用意されていた。

(3)マイナーリーグ

・当時ジーコ監督の日本代表に招集されていなかった廣山ですら、現地ポルトガルでの取材がされた特集記事が不定期にサッカーダイジェスト、サッカーマガジンに掲載されていた。

(4)戦力面・金銭面

・海外移籍時、戦力面を踏まえ補強として獲得する面よりも、日本でのマスコミ、ファンが押し寄せメディアに取り上げられ、ユニフォーム爆売れが期待される「ジャパンマネー」目当てとヨーロッパ現地で言われていた。

ここ最近のサッカーファンからすると、上記はいずれも信じがたい状況だと思います。そして時は流れ2024年現在だと以下の通り激変しています。

2024年のサッカー報道環境

(1)メディア報道

・一般的な民放ニュース番組においては選手の活躍はまず報道されない。放映権料の高いイングランドプレミアリーグ所属組やUEFAチャンピオンズリーグについては民放の予算の都合上、映像をあまり流せない。

(2)有料放送視聴

・現時点で20人以上日本人選手が在籍しているベルギーリーグだが、日本国内での放映権を持つDAZNではその他各国のリーグとセットの契約であり、「ベルギーリーグのみ視聴可能」という個別の視聴契約ではない。

・日本人選手一人だけのために放映権獲得するケースはほぼなく、2022年カタールW杯日本代表メンバーに選出された柴崎岳はスペイン2部レガネスに所属していたが、放映権をどこも獲得せず、日本国内にて柴崎のプレーを視聴はできなかった。

(3)マイナーリーグ

・現状、「日本代表招集外のヨーロッパクラブ所属選手」は無数におり、ファン側の興味関心が低く、過去の廣山のように何度も特集記事は掲載されない。

・そもそも日本代表招集選手ですら、前述の柴崎の通りチェックできない状況。

(4)戦力面・金銭面

・この20年で日本の経済力・円の力が大きく低下したため日本人選手獲得によってジャパンマネーを期待するクラブは激減。金銭面では無く純粋に戦力面として評価するある意味皮肉な形に。

・移籍金も、日本人選手に対し大きな額を払うように(2019年、ポルトガルのポルティモネンセからカタールのアル・ドゥハイルに移籍した中島翔哉、この移籍金額44億円が日本人最高額)。

一体何故サッカーの報道内容や環境が激変したかというと、「ヨーロッパでプレーする日本人選手が爆発的に増えたから」に尽きます。

2002-2003年に8人程度だった「海外組」。20年の時を経て2024年時点で総勢200人を超えました。ここまで増えたら報道も激変します。

2002年と2024年の比較

まず「1.メディア報道」だが、これは「4.戦力面・金銭面」とも関連しますが、日本の経済力低下およびヨーロッパの放映権料高騰により民放での放送が難しくなりました。スーパーサッカーのMCである加藤浩次も「三笘選手の活躍を紹介したいのに、プレミアの放映権料が高すぎてプレー映像を使えない」と日テレの情報番組「スッキリ」で語っていたほどです。

昔はフルハムの稲本が2002年インタートトカップでボローニャ相手にハットトリックしたら、NHKニュース番組で映像が流されて報道されていたほどでした。旧UEFAカップ出場権を争う中位クラブ同士のスモールな大会での活躍が放送されていたのに、世界トップレベルでの活躍が高くて放送できないという変化。また、そもそも海外組の数が多すぎて、放送しきれません。

大活躍の事例で言えば、2018年ベルギーリーグで残留争い直接対決最終節、0-2ビハインドからハットトリックの大活躍で勝利し、クラブの奇跡的な一部残留を成し遂げたオイペン所属・豊川雄太は衝撃的なプレーだったが日本でほぼ報道なし。ひとえに海外でプレーする選手の数が多すぎてニュースバリューが落ちてしまっています。

「2.有料放送視聴」についても、今、オランダリーグ単独のために契約する日本人視聴者がどれだけいるのか? ましてやベルギー単独では? ほとんどいないと思います。DAZNにて他国リーグとまとめてセットになっているからごくたまに視聴はしますが。昔は単独・月数千円で契約パックが用意されるほどだったのが信じられない。数少ない海外組だったから興味関心は引き、契約者数がそれなりにいて放映権料をペイできたということかもしれません。逆に柴崎はW杯選出される選手なのにスペイン2部の放送がどこもなかったのが悲しい。あまりに海外組が多すぎて追い切れないし、柴崎一人いるからといってスペイン二部を視聴したい、契約したい、という層が少なすぎたと思料します。

「3.マイナーリーグ」、これは今だときりがない。ヨーロッパで総勢200人を超える日本人選手が在籍と述べたが、主要国以外でもポーランドで7人、スコットランドで7人、リトアニアで16人…。もはや追えない。一人一人チェックできるはずもない。全員の名前を漏れなく挙げられる人は日本で誰もいません。

ポルトガル在籍者、昔は廣山1人だったが、今は3部まで含めれば総勢11人在籍。圧倒的に増えた。廣山を例に出して特集記事の話をしたが、もっとマイナーな日本代表選出経験ゼロの選手ですら特集記事が載っていたこともあります。

それが今矢直城(現:栃木シティFC監督)。2003年、スイス・スーパーリーグ所属のヌーシャテル・ザマックスに在籍し、2003-04シーズンのUEFAカップにも出場しました。何故こんなほぼ誰も知らない選手を自分が知っているかというと、当時のサッカーマガジンで「UEFAカップに出場した日本人選手がいる」という特集記事が掲載されていたからです。それほどまでに珍しかった時代だったのです。

しかし今やヨーロッパリーグでプレーする選手ですらいちいち特集記事にはならない。レベルが上がりチャンピオンズリーグに出場する日本人選手が何人も出てきたし、ヨーロッパリーグだと目新しさ・珍しさもなくなって日常レベルになったためです。

最後の「4.戦力面・金銭面」。

「ジャパンマネー」…。懐かしすぎてもはや甘美な響きにすら聞こえます。かつては日本人サッカーファンとマスコミが大挙してヨーロッパに押し寄せました。歴史上初の日本人対決となった2002年セリエA、パルマ中田英寿vsレッジーナ中村俊輔の試合はどちらもクラブで背番号10を着け、日本代表の主力ということもあり、相当な日本人観客と日本マスコミの数でした。なのでヨーロッパクラブ側もジャパンマネーを期待して、戦力にはならないけどユニフォームは売れるしアジアの広告塔にもなるしと経済面先行で獲得する事例がありました。キング・三浦知良ですら1994年当時のジェノアでマーケティング目的と言われたし、2003年サンプドリアの柳沢敦も現地で同様に言われていました。

しかし今や日本は経済力が弱くなったし、ヨーロッパ側も金目当てだったら日本ではなくサウジアラビアや中国を頼りにするようになりました。そのため、ジャパンマネーという単語は死語となり、日本人選手は純粋に戦力として評価され移籍することとなりました。日本の国力低下が遠因となってサッカーでは正当な評価に繋がるという皮肉な事例です。

ただ、これも日本の経済状況だけが要因ではなく、あまりに日本人選手が増えたことも大きい。ヨーロッパに僅か数人しかおらず注目を集めていた状況から、興味関心が分散されすぎて特定の選手に注目が集まりすぎる状況ではなくなったからです。

ということで各4項目をもとに過去からの激変ぶりを解説していきましたが、どれも激変理由の根底にあるのは繰り返し述べている「ヨーロッパクラブ在籍日本人選手が爆発的に増えたこと」です。

昔は自分も海外所属選手をそらで全員言えたが、今はとても無理。となると到底チェックしきれません。

これが良いのか悪いのかで言ったら、間違いなく良いこと。20年前は想像できなかった時代にきている。日本も選手輸出大国のブラジルやアルゼンチンのようになってきたのだと。

ただ、民放で三笘や遠藤航の活躍映像が流されないことだけは残念である。地上波で映し出されることによって、世間からの関心も高まるし、それに憧れてプロを目指す子供達が増え、ゆくゆくは日本サッカーの更なるレベル向上に繋がるからです。


ライター:中坊
1993年からサッカーのスタジアム観戦を積み重ね、2023年終了時点で962試合観戦。特定のクラブのサポーターではなく、関東圏内中心でのべつまくなしに見たい試合へ足を運んで観戦するスタイル。日本国外の南米・ヨーロッパ・アジアへの現地観戦も行っている。
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