Qolyアンバサダーのコラムニスト、中坊によるレポートをお届けします。
最初に、この記事タイトルの意図を書いておくと、「森保監督に対して何か言いたい」というのが主旨ではなく、世に蔓延る「ヨーロッパのクラブから一流監督の●●を日本代表監督に呼べよ」論について、「一回冷静になって何で呼べないか理解しとこうよ」というものである。
理由を先に書くと、「金」と「距離」の問題が二大理由。詳細について、以下述べていきたい。
まず、ここ20年の歴代日本代表監督を振り返ると以下の通り(敬称略)。
2002-2006:ジーコ
2006-2007:オシム
2008-2010:岡田武史
2010-2014:ザッケローニ
2014-2015:アギーレ
2015-2018:ハリルホジッチ
2018 :西野朗
2018- :森保一
この中で、セリエAでほぼ全てのビッグクラブ監督歴を持つザッケローニが一番経歴的には輝かしく、アギーレもアトレティコを3シーズン率いた経歴、ハリルホジッチもPSGを2シーズン率いたのでヨーロッパの名門クラブ監督経験はあった(オシムはクラブよりユーゴスラビア代表監督歴の方が輝かしく、ジーコは日本代表監督後に着任したフェネルバフチェ時代の方が見事な成績を残している)。
とはいえ、暴論のような「グアルディオラ呼べないのか」レベルの要求に比べると、ヨーロッパビッグクラブから直で日本代表監督に就任した例はこの20年でない。
さすがに少しでもサッカーを見ているファンなら、グアルディオラやクロップレベルの招聘はあり得ないと理解できると思うが、それでも現時点でヨーロッパの有名クラブを率いている一流監督を「日本代表監督として呼べないのか」、という要望をする人を見る。
これについて断言するが、相当困難。まず無理ということを理解してほしい。
大きな理由の1つ目、年俸。
例えばビッグクラブのアトレティコ・マドリード監督シメオネに対し、クラブがいくら払っているか?
年俸49億円です。
JFAはそんな天文学的な予算を擁していない。収支予算書内訳表が公開されているからそれを確認すれば理解できる。 (2024年度の経常収益合計額は192億円[経常費用合計額は200億円]。アトレティコはコロナ禍直前のピークで予算額約846億円。JFAと欧州メガクラブでは、そもそもの予算規模が異なる。更に言えば、クラブチームの監督と代表チームの監督で報酬が異なるのは当然。)
森保監督は報道によって差があり、年俸1.7~3.0億円と言われているがこの規模が妥当なところだと思うし、過去の日本代表監督ではいずれも推定額だがザッケローニ2.8億円、ハリルホジッチ2.7億円、アギーレ2億円なのでレンジ的にはこの額がJFAとして精一杯と認識。
なので、JFAの予算規模で考えたら監督に年俸数十億円は払えない。3億円前後が限度。待遇面でアピールしヨーロッパのビッグクラブから一流監督を招聘するのは困難。
大きな理由の2つ目、日本は極東という立ち位置。
つまり、ヨーロッパから目が届きにくい。そして日本でのキャリアが評価されづらい。
例えば代表監督ではなくJリーグの監督事例になるが、ブッフバルトが浦和でタイトルを獲得し見事な結果を残した後、母国ドイツ2部アーヘンに就任したが、わずか半年で解任の憂き目にあっている。その際、地元紙の報道で浦和でのキャリアがほとんど評価されていなかったのを覚えている(=日本というヨーロッパに比べれば劣ったレベルのリーグで結果残したのみであり、暗に日本でのキャリアは評価に値しないという主旨で記載されていた)。
今から20年近くも前の話なのでさすがにある程度見る目も変わっていると思うが、ヨーロッパから見て日本が遠い国であることは間違いなく、監督自身が自分のキャリアを考えた際、「日本代表監督として4年間率いてW杯で結果を出し、それをヨーロッパのビッグクラブ監督就任への足がかりとしたい」と野心がある監督、意地悪く言えば極めて理想的かつ楽観的発想に至る監督がどれだけいるか。残念ながら、ヨーロッパから見たらアジアで結果残しても大きな注目には至らない。
外国人監督の日本からステップアップ事例として近年で最も成功例と言えるのは、マリノスからセルティックに移籍し、プレミアのトッテナムまで上り詰めたポステコグルーだが、このレベルの成功例は本当に少ないことからも、難しさが際立つ。
監督自身も日本代表監督に就任するとなると、数年間家族を巻き込んで滞在となる。日本代表選手が本人のキャリアだけでなく、家族のことを考えてヨーロッパから帰国する事例があるので(※)、その逆の立場で考えたら難しい決断であり、家族側が「日本という遠くて言葉も通じない国ではなく、ヨーロッパに留まれないのか」と迫るパターンも容易に想像がつく。
※松井大輔の配偶者である加藤ローサはポーランドから日本に帰国が決まった際、泣いて喜んだエピソード等
なので、地政学リスクとまでいうと言い過ぎだが、日本とヨーロッパの物理的・心理的距離を踏まえると親和性に乏しく、ヨーロッパから招聘するハンデが存在する。
以上、大きな理由2点、そしてその他様々な事情を踏まえると、年俸2億円前後という報酬を呑み、なおかつ日本に縁があるか日本という未知なる世界に踏み込める監督、という条件で招聘しなければならないので、ヨーロッパから一流監督を呼ぶのは相当困難だと認識している。
そうなると言い方は悪いが、ヨーロッパ最前線で率いている一流監督ではなく「旬を過ぎた有名監督」や、「日本に縁のある知将」を呼ぶこととなる。どうしてもヨーロッパから呼びたいのなら「ヨーロッパ中堅クラブを辞任してフリーの50代監督」ならば、まだ可能性はある。
さて、ここまでは事実をもとに説明してきたが、ここからはいきなり持論を展開する。
消去法で考えると日本人監督の方が良い
前述の「一流監督ではなく旬を過ぎた有名監督」を呼ぶくらいなら日本人監督の方が遙かに良い。
これが自分の考え。
一番わかりやすい例で言えばお隣、韓国のクリンスマンだろう。
年俸3億円近く払っておきながら結果を出せず、KFA内の政治案件もあいまって早々に解任となった。韓国にゆかりもなく、アメリカに滞在し続けて韓国サッカー界にほぼ何も残していないまま多額の違約金払うハメになった最悪の事例とも言える(もともとその前のヘルタベルリンでも結果を出せていなかったし、自分は彼を一流監督と認識していない)。
このようなレベルの監督をヨーロッパからコストかけて招聘するくらいなら、日本人監督の方が遙かに良い。コーチ陣含め経験値がその後何年にも渡って引き継がれるし、日本サッカー界に残るものが大きい。
Jリーグの監督として結果を残した外国人監督をそのまま日本代表監督にするのも理想で、オシムパターンが最も適しているがこれは再現性に乏しい。Jクラブから引き抜く折衝の難しさや禍根を残す問題しかり、大物でないと今やヨーロッパでプレーする選手ばかりの日本代表において舐められるし従えられない(日本人なら代表OBということでまだ顔が利くか)。
思うに、サッカーは夢を売る商売であることもこの議論の難しさに繋がっていると感じる。
「金がないし、日本がヨーロッパから遠いのはわかった。でも消去法や現実路線で日本人監督を選択するのではなく、夢を追ってトップレベルのヨーロッパクラブから招聘するチャレンジをすべきだろう」
と言われたら、それはまさにその通りで、正論。実際に来てくれたら自分だって嬉しいに決まってる。
だけど、現実的に不可能な要望を言い続けても実現しないし先に進まない。
難しい条件の中で最適解を選び、日本代表の強化ならびにW杯での結果に繋げることが大前提。JFA側は口が裂けても「コネも金もないンだわ」などとネガティブ要素を公に説明できないだろうから自分が前述の通り勝手に言っておくが、日本代表に欧州一流監督を呼べない理由を理解した上で考えた方が楽しめると思う。
それに、一流監督呼べたところで必ずしも結果に直結するわけでもないことも冷静に踏まえた方が良い。
サウジアラビア代表なんて、バルセロナを率いてUEFACLを制したフランク・ライカールトを年俸8億円で就任させたのに2014ブラジルW杯出場を逃したが、最終予選どころか3次予選敗退という惨状だったんだから…。
中国代表だって、イタリア代表を2006W杯優勝に導いたリッピを年俸27億円で就任させたのに2022カタールW杯出場を逃したが、2次予選でシリアに負けて辞任し、最終予選敗退だったんだから…。
ライター名:中坊
紹介文:1993年からサッカーのスタジアム観戦を積み重ね、2023年終了時点で962試合観戦。特定のクラブのサポーターではなく、関東圏内中心でのべつまくなしに見たい試合へ足を運んで観戦するスタイル。日本国外の南米·ヨーロッパ·アジアへの現地観戦も行っている(本記事は一週間後、中坊コラムに転載します)。
Note:「中坊コラム」@tyuu_bou https://note.com/tyuu_bou
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