北中米W杯が12日未明に幕を開けたが、それに先んじて公開されたサッカー日本代表のドキュメンタリー映画『ONE CREATURE』が、話題を呼んでいる。初戦のオランダ戦で勝点1を獲得し、上位進出に向けた期待も高まるなか、監督を務めた岸 枢宇己(きし・すうき)氏と企画・プロデュースの矢花宏太氏に作品に込めた思いを語ってもらった。

筆者撮影:インタビューに応じてくださった企画プロデュースを担当した矢花宏太氏(左)と、岸枢宇己監督(右)

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
――まずは本作『ONE CREATURE』を作り始めることになったきっかけをお聞かせください。
矢花:2025年2月にJFAの宮本恒靖会長、同年5月には森保一監督とご挨拶をさせていただき、そこから取材を始めました。本作の制作を決めたのは、森保一監督がお話しされている「日本一丸」や、宮本恒靖さんの提唱する「社会の中でサッカーの存在をもっと大きく」という世界を実現させるには、試合結果に左右されない価値観を生み出すことが大切だと思ったことが背景にあります。
ニュースで流れる日本代表の映像は、その大半が試合の結果を賞賛し、選手たちをヒーローのように盛り立てるものですが、「どんな結果であろうとも、この4年に及ぶ挑戦を記録することに、大きな意味があるのでは?」と僕らは感じていて。試合の熱狂以外にある日本代表の普遍的な価値に目を向け、その魅力を発信していけたらという思いです。この辺りは、岸さんが名付けられた『ONE CREATURE』というタイトルにもその思いが込められているように感じますね。

筆者撮影:
――近年はスポーツのドキュメンタリー映像が制作される場面も増えました。日本代表のドキュメンタリー映像を制作し、世の中に伝えたい思いはどのようなものですか?
岸:そうですね。ワールドカップの時期は、サッカーに多くの視線が注がれます。僕個人としても、サッカーをやってきた人間として、サッカーをたくさんの人に観てほしいと思っています。日本代表でプレーされている選手の皆さんが、最もわかりやすく、多くの人にサッカーの魅力を伝えてくれる方々だと思うので、この作品を機にサッカーの魅力を少しでも知っていただけたら嬉しいなと感じています。

筆者撮影:
――日本サッカー界が歩んだこれまでの歴史を振り返ることができる作品であると感じました。近年は目覚ましい戦績を残している日本代表の躍進をどうご覧になられていますか?
岸:僕らは子どもの頃からずっとサッカーを見てきて、W杯に行けなかった時代も知っている。
(※1998年のフランスW杯まで、日本はいずれも予選敗退を続けていた)
本大会に行けただけでもすごいはずなのに、今は優勝を本気で目指していて、選手たちもそれを本気で信じていて、それを見守るサポーターもそれを当然のこととして受け入れられている。
多くの選手の皆さんが海外でプレーするようになり、優勝も夢ではないところまで来られていることが本当にすごいなと思います。選手の皆さんは自分たちの現在地を的確に分析していて。「運も必要だ」と話していますが、それでも120〜130%の実力を出し切れたら優勝に手が届く可能性がある。僅か30数年の間にここまで進化を遂げられたことに感激しているところもあります。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
矢花:大会や結果の良し悪しや、単にチームが強くなっていることを伝えるよりも、森保監督の人柄や、鎌田大地選手(写真上)や上田綺世選手の意外な一面を描いた方が、「皆さんにより伝わるものがあるのでは?」と思っていて。世界で活躍するスター選手でありつつも、喜びの影には苦悩や努力もあるという点も感じていただけたら嬉しいですし、選手の歩んできた物語にも注目していただけたらなと思います。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
――作中には、負傷によりW杯に出場できなかった三笘薫選手(写真上)の思いを始め、4年間の歩みが描かれています。
岸:作中で森保監督がお話しされているように、カタール大会ではドイツ代表、スペイン代表という2つの強豪国に勝ったものの、結局は目標を達成できなかった。多くの選手の皆さんも、監督と同様にやり残した悔しさを話されている姿が印象的でしたね。その言葉の節々からは「再び森保監督が率いるチームで、サッカーの精度をより高めて、目標を何としても達成したい」という気持ちを感じ取れましたし、チームに対する強い意識を強めつつ、同じ目標に向かって進んでいるように思いました。
矢花:直前の負傷によりメンバーから漏れてしまった三苫選手が注目を集めましたが、実際には三笘選手以外にも選外になってしまった選手や、4年間高みを目指して戦ってきた選手、コーチの皆さんもいらしての今がある。そうしたさまざまな物語を経て、現在のチームの姿があることを忘れずに、制作に臨みました。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
――自身のプレッシャーもある中で、どのように若者と向き合ってるのかということは、上の世代にとって共通の悩みだと思うので、その中、森保さんはある意味ヒントになっている部分もあると思います。
岸:森保監督がお話されていた中で印象深かったのが、「選手たちにサッカーを楽しんでほしい」という言葉でした。「そんなに悠長なこと言っていてもいいんですか?」と少し思ったんですけど(笑)。
「選手自身がサッカーを楽しまなかったら、自分の力を最大限に発揮できない」と監督はお話しされていて。実際に何人かの選手たちも「日本代表でプレーするのが楽しいです」と口にしていたので、「おそらく森保監督の狙い通りなんだろうな……」と感じました。
「選手自身がサッカーを楽しまなかったら、自分の力を最大限に発揮できない」と監督はお話しされていて。実際に何人かの選手たちも「日本代表でプレーするのが楽しいです」と口にしていたので、「おそらく森保監督の狙い通りなんだろうな……」と感じました。
作中で板倉滉選手(写真下)が、森保監督のことを「本気で自分たちのことをリスペクトして、本気で自分たちのことを信じてくれている方」とお話しされていましたが、森保監督の選手に対する思いが、チームの皆さんに伝わっているからだと思います。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
矢花:選手に対する不平や不満を思わず口にしてしまうような指揮官もいらっしゃるであろうと想像する中で、森保監督は、選手に対する不平や不満を絶対に口にしませんし、そのようなことを微塵も思うことすらない。選手に対する敬意の念が言葉の節々から伝わってきますし、選手たちもその思いを受け止めているからこそ、全幅の信頼を置いている。森保監督の人柄は素晴らしいですし、学ぶところもたくさんありますけど、実際になかなかそのように振る舞えるリーダーは、まだまだ少ないのが実情ですよね。
――完成度が上がっていく日本代表をどのようにご覧になられていましたか?
岸:完成度に関して言うと、僕がある時に「今のチームは何%くらいの完成度なんですか?」と森保監督に尋ねたことがあるんですよ。
すると森保監督は「皆さんに良く聞かれます……」と苦笑いしながら、「そのような質問には毎回80%と答えるようにしていて、チームを作る上では、必ず20%の伸びしろを残しているんですよ。いつでも変われるような状態にしている」と、自身の考えを話してくれました。
どちらかといえば、完成度80%の状態でたくさんの経験を増やし、チームの引き出しを増やしているような感覚だそうで、「選手も100%になることは絶対にない」と理解した上で、日々の練習に取り組んでいるそうですね。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
――残念ながらカットしてしまった部分の中で、印象に残っているシーンはありますか?
岸:そうですね。撮影を続ける中で、森保監督のコミュニケーション術やリーダー論についてもお聞きすることができて。その中には、経営者やマネジメントに悩むビジネスマン層の皆さんにとって役に立ちそうなこともたくさん含まれていたんですよ。
でも、本作では、インタビューを軸にしながら、「サッカー日本代表というチームがどのように完成していったのか」というテーマに絞っていった方がずっと気持ちが入りやすいと思ったので、残念ながら盛り込めなかったシーンもありました。
あとは、選手同士のより戦術的なやり取りが記録されている非公開練習のシーンですかね。そこには日本代表の強さのエッセンスが含まれている内容もありましたけど、本番前ということもあり、その映像は使いませんでした。

(C)JFA ©2026「ONE CREATURE」製作委員会
――サッカーが間もなくお披露目されて、映画も公開されるわけなんですけども、映画の見どころとか、ワールドカップを戦う代表に対する思いを、お二人それぞれからお聞かせいただけたらと思います。
矢花:ワールドカップが幕を開けましたが、単純に試合だけを観て応援するのと、本作のようなエピソードに触れてから大会を観戦するのとでは、味わう感動やストーリーの深さに大きく差が生まれると思うんです。
作品と試合をリンクさせることで、「森保監督の指示には、こんな意味が含まれていたんだ」などと新たな発見もあると思いますし、さまざまな試合の見方を共有しつつ、本戦の戦いぶりを皆さんで楽しんでいただきたいです。
岸:ワールドカップを迎えるまでに選手の皆さんが何を考え、どのように成長してきたのか。「その軌跡を感じ取ってもらえたら……」と思って制作した作品なので、ぜひ思い切り選手のストーリーに浸ってもらいつつ、一緒にワールドカップを盛り上げていけたらと思います。全力で選手たちをサポートしましょう!
取材:Jun.S
協力:白谷遼
